88話 取り合えず逃げましょう。
「先生、一つ質問なんですが…ゴブリンやらスライムやら魔物って普通に街中や校内に出てくるもんなのですか?」
「いや、全然。町や村には、規模に応じて大地に溢れている自然魔力を利用した結界を発生させる魔術具が国から支給されるから、夜中郊外に出ない限り今みたいな状況は滅多に起きない。…例外として、この実技場はその結界がほんのり弱くなってるが…。」
「どうえぇぇえ!?な、何で!?何でなの先生!」
「叫ぶと無駄な体力喰うから、少しは落ち着けヘニミス妹。
…早くて中等部、普通なら高等部を卒業した奴の何人かは冒険者とか実践経験がモノを言う世界に行くから、そういう世界で生きていく上で最低限の実力付けとかないと即死亡だか学校である程度教えるんだよ。…ただ、モンスターを相手に授業とか訓練をするのは中等部三年の後半で選択科目扱いなんだよなぁ。」
あの、私達まだ中等部一年なんですが…。
「〜〜っ、あの、どこか、で隠れて休みま、せん…か?」
くっそ、体力には多少自信があったのに…喋りすぎたか。(あと長距離走苦手なんだよ。私はどっちかって言ったら短距離走の方が得意なんだよっ!)
「だったら、この岩で出来た洞窟が良いか。あの巨体だったら岩を持ち上げない限り入ってこれねぇだろ。」
最早声を出して返事をするのも辛いので、コクコクっと首降り人形の様に何度も頷き、素早く大の大人が二・三人入れそうな隙間に体を滑り込ませた。
「コトハ、大丈夫?汗凄いよ?」
「何…で、ルナさんは息切…れとかしていないん…ですか?…ゴホゴホッ。」
「物作り部って、角材や布の塊を運んだり、ソレ持ったまま走ったりするから以外と体力使うんだよ?このくらいなら、僕まだ走ってても平気。」
…その分だと、そこら辺の運動部より体動かしてる自覚あるんですね。
「っと…防音の結界を張ったから、暫くはあの魔物は気付かないと思う。…出来るだけ大声やデカイ物音立てるなよ?つか、以外と体力ないんだな夜風って。」
「大き…なお世話…です。」
激しい運動をしたあと急に動きを止めたから、いまだに息切れを起こしているし全身から汗が吹き出して心臓がドッドッドと早鐘を打っている…苦しい。
しかも、服は部屋着に着替える前に連れ出されたから、通気性が悪くて動き難い制服のまま。…うえ、シャツが肌に張り付いて気持ち悪い…。
「せんせ…え、ローブぐら、いは脱いでも大丈夫っすよ、ね?」
「いや、体冷えたらいけないからローブは羽織ってろ。ヘニミス妹、夜風に回復魔法掛けてくれないか?」
「良いですけど、僕ディオみたいに高度なやつ出来ませんよ?」
「回復系が得意なボヌールと、魔力値がアレな夜風は例外として良いぞ。簡単なやつでも、息苦しさは治ると思うのだか…。」
アレとはなんだアレとは。
「成る程…、んじゃやってみます。」
そう言って暫くしたら、ルナさんの掌が薄ぼんやり光って、その光が私の中に吸い込まれていく。(あ、先生が私達を後ろに隠してる…。僅かな光でも光な訳だから、それのせいでアレに場所を特定させないためか。)
「…ルナさん、ありがとうございます。呼吸が楽になりました。」
心なしか心拍数も落ち着いてきた気がする。…相変わらず体温高めだから汗は止めどなく吹き出してるけど。
「…ん~、このままだと夜風は風邪か脱水症になるかもしれんな…。しゃーねぇ、ちっと行ってくるか…ああ゛面倒くせ。」
そうと言うと、アルベロ先生は頭をポリポリ掻きながら洞窟から出ていった。
「アルベロ先生大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう、仮にも教師だし。」
ルナさんが先生の心配をしているので、安心させるように頭を撫でながらそう言った。(服の裾で、手についた汗はちゃっかり拭き取り済みだぜ!)
十分もしない内にアルベロ先生は洞窟へ帰ってきた。
「ただいま~。じゃ、帰るか。」
「先生、結局あの魔物は何だったんですか?…クシュン!」
「アレはキングゴブリンって言う…通常ゴブリンのガキ大将的ポジションなやつだ。…お前ら、汗拭いて暖かくして水分を十分摂ってから寝ろよ?」
「はーい。」
「分かりましクシュン…クシュン!」
「…じゃあ、一応寮の前まで送るな。」
アルベロ先生、変なとこで真面目だなぁ。…クシュン!…あー、地味に風邪引いたなこりゃ。




