76話 忘れた頃に。
あの模擬戦と呼ぶには微妙な授業から一夜明け、少しばかりクラスメイトとギクシャクしながら今日一日を過ごし、水面下で回避していたイリス部長がとうとう赤点をとったために部活が中止になったので、ただいま放課後をルナさん(どうも物作り部と美術部の部長同士が喧嘩して、暫く活動休止らしい…一体何したんだろう)と由榎さん(もともと帰宅部)と一緒に教室でのんびり過ごし中である。
「副部長のカルム先輩の話によると、ウチの部のイリス部長、授業中は殆んど寝てるとか…今まで良く赤点を取りませんでしたよね…。」
「えー、それを言うなら僕も結構似たようなもんだよ?」
「ルナは語学の授業だけでしょ?さっき琴波は“殆んど”って言ったでしょう?要は、イリス先輩は実技以外の授業はすべて寝ているって事。」
由榎さんが言った通り、イリス部長は実技以外は安眠できると部活中に豪語していた。
いくら武芸が秀でていていたから一芸入試でこの学園に入学できたと言っても、学生の本分は勉学ですよ部長。授業中は疲労回復のための時間ではないのですよ部長!
「ああ、テスト休み明けから一度も部活やってない気がする…。」
「でも、部長が出れないからって部活中止とかどうして?」
「ウチの棒術部は、基本的にイリス部長がいないと纏まらないんです。イリス部長が居ないと、いつの間にか修羅場っぽいのが出現して…なんと言うか、イリス部長より学年が上の先輩たちが、何故かとぎどき魔法を混ぜながら物理的に暴走するんですよ。
ソレをまた物理的に抑制できるのがイリス部長…たまに部長でも手に負えなかったら私達も微力ながら手伝うときもあります。」
「…つまり、琴波が模擬戦の時に程よく手馴れていたのはそのせいだったのね。」
「ええ。イリス部長やカルム副部長、後は暴走しない大人しめの人達を選抜して色々やっていましたから。」
そりゃもうどっかのサバゲーの如く、武器や戦略を駆使して戦いを繰り広げましたとも。暴走する先輩の中に『サバイバルゲーム同好会』なる部活…その先輩は大学生だからサークルか。まあそれに入っていた人のお陰で、もう全力でね。
「そう言えば忘れていたんだけど、コトハって先天性加護持ってなかったっけ?」
「ああ、はい。持ってます。」
ヤベェ、色々ありすぎて先天性加護の事すっかり忘れてたわ。完璧に自分の事なのにスコーンと思いっきり。
「確か、『創造する者』(クリエイトマスター)って名前だったっけ?描いたものが具現化するとか凄いよね!」
「そのかわり、油性ペンも水性ペンでも鉛筆でも…取り合えずペンで紙に描くことが発現条件で、リアルに描けば描くほどその描いたものの本質に近づくことができます。ただ、風景とか山とかデカイモノになると発現出来ません。
発現したモノを引っ込める条件は、半日間放置するか少しでも良いから私が触れることです。」
具現化をする絵を描いた隣に細かい設定を書き込めば、リアルに描かなくてもそれなりのが出来る…と言うのは伝えないでおこう。(こう言う知識は、それなりに技術がある人には授けるもんじゃないからな!ルナさんなら絶対悪ノリをする気がする。)
「ほへぇ~、リアマ嬢や由榎ちゃんみたいに純粋な属性の力だけじゃなくって、コトハみたいな複雑なのまで…先天性加護は幅広いね!」
「そうですね。…最近は先天性加護のコントロールも結構上手くなったので、相当気を抜かない限り具現化は起こらなくなりましたし、何度も言うようですが、本当に先天性加護の存在を忘れてたんです。」
いやはや、たまには使わないと先天性加護の存在が危ないな。主に私の記憶的な意味で。
「よし、たまには使ってみますか!…にゃんこにゃんこにゃんにゃんにゃん~。」
「コトハ、何ソレ呪文!?」
「…そんな馬鹿げた呪文なんてないわよルナ。寧ろ、そんな呪文があって堪るものですか。」
お二人とも嫌だな。ただ適当に頭に浮かんだ言葉に、ノリでメロディーを付けたですよ。
「よし、描けた。」
グググッ……ポンッ。
《ニャーン!》
ひっさしぶりだなこの猫モドキ。
「か、可愛い!何これ超可愛い!ほっぺたぷにぷにして良いかな?頭うりうり撫で撫でしても良いかな?」
「どうぞ、私にお構い無く好きなだけぷにぷにうりうりしちゃってください。」
「じゃあ遠慮なく…あら、物凄くモフモフしてるわね。手触り気持ち良いわ。」
「ほっぺたぷにぷにで毛並みがモフモフ…完璧じゃないかこの猫さん!」
…良い感想をくれるなぁ。わたしだってうりうりしたいのに、触れないのが大変悔しいわ。グスン。




