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神々よ、ご遊戯のお時間はそこまでです。  作者: 神村遥


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20/20

真実を知るお時間です。

当時、国王として俺を勇者として召喚することを指示した張本人

――テオドリック・アルティシマ。


そして、俺をここまで案内してくれた、この気に食わない女は、勇者と世間では知られるグロリアーナ。


ギルは言った。


この学院には協力者がいる、と。


コイツらが?


俺を、 レオニダスを、ミルディンを、仲間を苦しめたコイツらが?


ギルのヤツ、また何か大事なことをわざと伏せてやがったな。


「スパルタクス、いやオーズよ。真に申し訳なかった」


国王は机に額をぶつけるほどに頭を下げた。


「謝って済む問題ではないのは、百も承知です。私も心よりお詫び申し上げます」


女は突然正座をし、両手を八の字に地面へ置き、額を床に打ち付けるまで深く頭を下げた。


俺に土下座をしているのだ。


「なっ……何をしているんだ……」


あまりに予想外の行動に、思うように言葉が出ない。


テオドリック前王は面を上げ、俺に問う。


「ギルガメッシュからは、どこまで話を聞いておるのだ?」


気づけば、俺のスキルは解かれていた。


さすがの怒りも、こんな対応をされては冷めてしまう。


俺は何か事情があるのだと察し、素直に会話に応じた。


「ギルの野郎は変にもったいぶって、断片的なことしか教えてくれないんだよ。

そのせいで、お前らがいることもさっきまで知らなかった。

危うく殴りかかるところだったぜ」


前王は肘を机に立て、頬を拳に当てる。


「そうであったか。ならば、一から話すとしよう。


人間と魔族は長年にわたり、何度も何度も戦いを繰り返しておる。

それは知っておるであろう?」


「あぁ。簡単な歴史は勇者の時に習った。人類は過去に一度、敗北していることもな」


「その通りだ。そして、お主が召喚されたあの時は、二度目の敗北の危機であった」


「まぁ、あんな国境ギリギリに魔王がふんぞり返ってる戦況なんて、最悪以外の何者でもないからな」


「では、魔王がお主の故郷であるトラキア村を占領したのは知っておったか?」


「あぁ。だから魔王が湿地林を抜けてすぐのところにいたんだろ?」


「その通りだな。それでは、どうやって占領したかは知っておるか?」


「そりゃあ、武力侵攻に決まって……ん?」


「お主の違和感は当然だ。

あの魔王に、トラキア村の住人がいくら武芸に秀でていようと敵う相手ではない。

全滅していてもおかしくないのだ。

それなのに、なぜトラキア族は生き残れたのだろうな?」


「……まさかとは思うが、和平交渉でもしたのか?」


「さすがだ。

此の世界に来る前は『ケイサツ』という仕事をやっていただけあるわい。

お主の言う通り、ギルガメッシュは住人たちに交渉を持ちかけたのだ」


「どんな交渉だ?」


「『トラキア族は僅かながら魔族の血が流れている。言わば同族だ。我はそんな仲間を手にかけたくはない』――と。

そう言って、村の者たちが立ち退くことを条件に、あの土地を譲り受けたのだ」


「その話はおかしくないか?


トラキア族は国家の中枢を担う軍事力だろ? 奪還のためにトラキア族の者を含んだ軍が魔王を攻めたら、意味がないだろう?」


「その通りだな。

確かに、これでは一時的にトラキア族を退けるだけの意味しかない。

しかし、これはもう一つの意味を生んだのだ」


「意味?」


「魔王は交渉に応じる、という意味だ」

「どういうことだ?


これまで交渉なりを試みてもダメだったから、戦争がこんなに何度も起きてるんじゃないのかよ?」


「鋭いな。その指摘の通り、先代の中にも交渉を持ちかける者はいた。

しかし、これまでの魔王は、その要求に一切応じなかったのだ」


「ギルを見れば分かるが、

言語的な問題もなさそうだし、

意思疎通は図れそうだ。

そんなに聞き分けの悪い魔王ばかりなのは、あまりに不自然じゃないか?」


「よくぞ気づいた。そこが余も不思議でならなかった。

先代の残した記録によると、魔王は話し合いの途中で、黒い靄(もや)のようなものをまとい始めた途端に襲いかかってきた、とある」


「黒い靄(もや)?」


「心当たりがあるようだな。

実はこのことに関して詳しい者がおる。それは、お主もよく知る人物だ」


「俺が……?」


「分からぬか? お主を大層好いておった魔法使いの娘がおったであろう?」


「それって、ミルディンのことか!?」


「そんなに興奮するでない。順を追って、しっかりと話す」


「俺としたことが、つい感情的になってしまった……」


「続きだが、ミルディンはかねてから、この魔王の変貌ぶりに違和感を覚えていたらしいのだ。

そこに、和平交渉が成功した知らせが舞い込む。

これまで、一度たりとも交渉の場には応じても、締結には至らなかった。

しかし、今回はそれに至った。

なぜか?

そこでとある仮説が思い浮かぶ。

魔族の血が関係しているのではないか、という仮説だ」


「魔族の血がどう関係してるって?」


「その関係性を確かめるために、ミルディンは、交渉を外交官や国王が行わぬよう言った。

その代わりに、トラキア族の者を交渉役に行かせたのだ。

その結果、すんなりと停戦の話を持ち帰ってきた」


「そんな上手くことが進むなんてありえるのか?

今まで交渉の一つも応じなかった連中が、いきなり停戦だと?」


「ごもっともだ。

余も何かの罠ではないかと、文面越しに協議を重ねた。

そして、魔王の狙いが明確になってきた」


「狙い?」


「簡単に答えてしまっては面白くないな。では、こうしよう。

ヒントを与えるので、これまでの情報をもとに当ててみてほしい。

ヒントは――魔族の血が流れていなければ、交渉に応じない、ということだ」


「はぁ……なんでギルも前王ももったいぶるんだ……。

仕方ねぇ、そのクイズに付き合ってやるよ」


俺はため息をつきつつも、考えることにした。


えっと……魔族の血がないと交渉に応じないというより、襲いかかってくる。


その直前に黒い靄(もや)が見え……


ん?

これって、あの幼女と似てないか?


確か幼女も、俺と話をしていた時に豹変したように襲いかかってきた。


そうだ。


あれは明らかに洗脳を受けていた。


誰に?


魔王不在で幹部を洗脳できる能力を持つものなど、邪神しかいない。


ここまではいい線をいっていると思う。

でも、この先がなかなか出てこない。


そういえば、魔王との契りとミルディンの封印魔法、そして幼女を貫いた鎖って似てないか?


あの契りって、両者の神に誓っていたよな……


まさか、魔王は邪神に何かしらの契りを結ばされていたのか……


だとすると、その狙いとは一体……


「神を欺くことか?」


前王は怪しげな笑みを浮かべる。


「神を欺く、はある意味正解だが、魔王は予想を遥かに上回る計画を練っていた」


「その計画って……」


「神々の抹殺だ」


「は?」


「余も目を疑った。

何度も議事録を読み返しても、そう記されているのだ。

だから、交渉役の者まで呼びつけて問い質した。

しかし、やはり全く同じことを言うのだ」


「邪神との何らかの制約によって、

ヒト族と交渉に応じられないことはわかった。それと神々の抹殺とは、何の関係が……」


「それはお主が身をもって経験しておるのでは?」


「俺が?」


「魔王が言うには、突如として真っ暗な空間で神と対面する、と言っていた。

お主もそうだったのでは?」


「あぁ。女神とも、ギルが邪神になった後も、あの不思議な空間に気づいたらいた」


「では、その空間ではどんなことを神から要求されたのだ?」


「確か、女神とは『勇者として魔王を倒すこと』と、ギルとは『ひたすら強くなること』を要求された……」


「さて。神々は何らかの誓約を課すとしたら、その要求こそがお主の誓約なのでは?」


「なっ……」


確かに、言われてみれば振り返ってみて、自分の行動には強い違和感がある。


いくらあの時は精神が不安定だったとはいえ、いきなり勇者となって魔王を倒せなんて要求をすんなり呑むのはおかしかった。


その後も、魔王を倒すという行為に何も疑問を抱かなかった。


勇者として召喚された時点で、

俺は魔王に何かされたわけでもないのに関わらず、殺意や憎悪を抱くのは不可解だ。


ギルの時もそうだ。


前まで争っていたヤツがいきなり自分の意識に入って「強くなれ」と一方的に要求し、その後は愚直に強くなることだけを念頭に行動するのも違和感がある。


仲間を失い、終いには殺されたにも関わらず、強くなることだけを普通に考えられるか?


俺はそんなにタフなヤツじゃないし、ポジティブでもない。


じゃあ、ギルも、歴代の魔王もそうだとしたら?


邪神によって人類や国王を倒すことを命じられ、洗脳されていたとしたら?


そして、ギルは何らかのきっかけでこの洗脳が解けた。


しかし、この命令に背くと、幼女のように意識を乗っ取られる。


だとすると、魔族の血が入った存在はグレーゾーンであり、この誓約における抜け道となる。


だとしても、神々を殺すという動機にはあまり繋がらない。


「まだ結論には辿り着けていない様子だな。では、話題を変えよう。

我々はなぜ、戦争を絶えず繰り返しておるのだ?」


「いやっ、それは魔族が攻めてきたからだろ?」


「なぜ、魔族は我々を攻める必要があるのだ?」


「領土拡大とかじゃないのか?」


「おかしな話ではないか。

お主のルーツは、魔族と人間の間に産まれたのであろう?

敵対する種族と共に子を成すことが可能な環境など、あり得るか?」


「いやっ……まさか……もしかして、魔族と人間は共存していたと?」


「その通りだ。一族を成せるほどの規模で混血が生まれるには、共存していたと考えるのが普通だ」


前王は立ち上がり、重い足音を立ててこちらへ向かってくる。


「争いが無かった我々を、誰が戦禍に巻き込んだのだろうか?」


「異なる種族間で争いが起こるのは、おかしな話じゃないはずだ……」


「それはそうだ。同族でも小競り合いはあるのだから、なんら不思議でもない。

だが、なぜ神々が介入する必要があるのか、という話にならないか?」


「……」


俺は黙ってしまう。


前王は俺の目の前に立ち、両肩を老いを感じさせない手で力強く掴み、言う。


「本当に我々を思うなら、繰り返し戦争など起こすような真似はしないだろう。

もし、わざと戦争を起こしているなら?」


「そんな遊びみたいに、子ども染みた感覚で戦争を起こすわけが……」


王の手は震え、鋭い眼光を向ける。


「神々は国王に、魔王に、それぞれ『神託』という名の、盤面を動かす指示をする。

それに誰も疑う余地もなく、ひたすら敵を討ち合う。

これは、チェスでもやっているかのようだ」


王は俺の心臓辺りに右拳を当てる。


「我々は、神々の遊戯のためだけの命なのか?」


王の口調は、声は荒々しく激しさを増す。


「ふざけるでない!!

どれだけ我らを愚弄すれば済むのだぁ!!!

我々ははなから神々など求めていなかった。

それを踏みにじった奴らにこそ、真の宿敵に他ならない!!」


王は腰に携えてあった剣を抜き、俺の胸元に突きつける。


「どうか、この雪辱を晴らしてくれ!!

勇者……いや、神々に仇なす反逆者よ」


俺は突きつけられた剣を受け取る。


「勇者の次は反逆者か……」


前王の意志を俺は受け入れた。


この際、俺も神々への決意表明をしておこう。


果たして、神々と対面した時、なんと言うのだろう。


そうだ。


きっと俺はこう言うだろう。


俺は柄から剣身を露にし、剣先を天井に向けて言う。


「神々よ――ご遊戯のお時間は、そこまでです」と。

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