第7話 帰還
3人は翌朝出発した。
「嘘つきー」
「嘘など言っておらん!」
「わかるっていったじゃん」
「お前のとこはわからんが人のいるはわかる。それで見つければいいだろう」
「どれだけあるとおもってるのさ!」
宙にふよふよと浮いている耀花にどなる。
「だいたい なんだよ 案内してくれると思ったのに 青燕にひっぱられてるだけじゃないかっ」
「青燕の負担にはなっておらん」
巴特の後ろに座っている薩蘭が荷物に結ばれた紐を引く
腰に結ばれた紐が引かれて、耀花が薩蘭を見た。
「ねえねえ、耀花様、もっと高く飛べないの」
「飛べるぞ」
「なら高く飛んで人のいる方向を教えて。で、大きさ。うちはこの辺で1番大きいの」
「おおー それならできる。薩蘭は賢いな。それに比べて巴特はどなってばかりだ」
腰に結んだ紐をほどいて 耀花はあっという間に高く舞い上がった。
「かっこいいけど 草背負ってるから 台無しだよね。」
「持っていくって聞かないから」
「着いたら 生やせばいいのに」
「多分そのことに気づいてない」
「ねー」
「一番大きいところは あっちだ」
しばらくして降りてきた耀花が指をさす。
「青燕 あっちだ。わかるか」
巴特が手綱を引くと青燕が力強く蹄をかく。
「よしっ」
「我が先に行っておこうか」
その方向を見ながら耀花が言う
しばらく考えたあと巴特は言った。
「いや、耀花様が行ったら大騒ぎになる。一緒に行ったほうがいい」
「…そうか」
溜息をついて、耀花は再び紐を腰に結び始めた。
「もしかして速く飛びすぎるから、紐で繋いでる? 」
薩蘭が問うた。
「そういうことだ。頼むぞ。青燕」
それからずいぶんと進んだが、いまだにそれらしき影は見えない。
「まだ見えねぇ ほんとにこっちであってんの」
「合ってる」
「……」
日が傾くころようやく集落が見えてきた。人が集まってきているのがわかる。だが誰も来ようとはしない。こちらを指さしたり、何か話し合ってる様子が見てとれる。
巴特は後ろを見上げた。
ふよふよと耀花が浮いてる。
「これだよなぁ」
どうすべきか迷っていると しばらくして集落の中から人が出てきた。
少し離れたところで止まった。
「そこなお方に申し上げる。いかなる御用で ここにいらしたか。
みれば そこにいるのは我が弟妹。
なにか 不心得をしたならば幾重にもお詫び申し上げる。なにとぞご寛恕を」
がっちりとした大男が大声で叫んだ。
「大哥!」
「やっぱでてくるよね」
「だよな」
ひそひそと話す巴特と薩蘭の後ろでトンと耀花が降りた。
紐を外すと ゆっくりと大哥に向かってあるいていった。
「大哥とやら。お前の弟妹を連れてきた。
道がわからぬというゆえ我がついてきた」
巴特がつぶやく。
「自分だってわかんなかったくせに」
「よしなよ 二哥」
さっと大哥が膝をついた。
「では 何か不心得をしたということではないと」
「そうだ。 何も心配することはないぞ」
「ありがとうごさいます」
大哥の前に立った耀花が振り返る
「よかったな。では 我は帰る」
慌てて2人は青燕から降りた。
「待って、耀花様。寄って行ってよ。ちゃんとお礼したいし」
「なら 今しろ」
巴特は耀花に耳打ちした。
「耀花様 いなかったら怒られる」
「しらん。怒られるならちゃんと怒られろ」
「しーっ」
大哥がじろりと巴特を見た。
「耀花様もう行っちゃうの」
薩蘭が涙目になる。
耀花は薩蘭に目線を合わせて言った。
「いつでも遊びに来い。道は青燕に教えておいた」
「ほんと?」
目を泳がせた耀花は言った
「……いや 今、教える」
青燕の所にいって話しかける耀花
青燕をひとなですると
「またな」
その一言を残して あっという間に空に消えていった。
「行っちゃったね」
「うん」
「草 置いてかなかったね」
「うん」
「かっこつけるから」
「だよなー」
あきれて話す二人の頭にげんこつが降ってきた。
ゴン ゴン
「痛っ」
「いだ」
「どういうことか 説明してもらおうか」
「「大哥ー」」
二人の声がそろった
「ひとまず 中に入ろう 話はそこで聞く」
大哥はちらっと青燕を見て続けた。
「青燕のこともあるしな」
「ちが、違う。青燕は治った。ほんとだ。耀花さまが治してくれたんだ」
「話はあとだ。みんな心配してたんだ。まずは顔をみせて安心させてやれ」
「……うん」
青燕を連れて大哥のあとにつづく
薩蘭が心配そうに言った
「大丈夫だよね」
「絶対 大丈夫」
集落に入るとみんなが駆け寄ってきた。口々に心配したという。
なんだか申し訳なくて 巴特は 下を向いた
そんな巴特に男が話しかける。
「やっちゃったね」
「小哥哥…」
「やっちゃったもんは仕方ない。大哥に怒られておいで」
兄の幼馴染は続ける
「ただね。諦めなきゃいけないってことはいっぱいある。」
「違う」
「青燕のことは気の毒だし気持ちもよくわかる。
だけどそれは仕方ない。草原で生きるってことはそういうことだ」
巴特の頭を撫でて 小哥哥は去っていった。
「話聞けよ」
「小哥哥はなぐさめてくれたんだよ」
「わかってる」
柵の中に青燕を入れたあと父のゲルに連れていかれて話をした。
「耀花様か…」
「ほんとなんだ」
「大哥」
「はい。目の前で飛んで消えました。嘘ではないと思います」
「うーん」
しばらく考え込んだあと父が言った。
「よし。では、今回のことは不問とする」
「おい! クソオヤジ それではみなに示しがつかん」
腕を組んだ父が言う
「もちろん罰はうけさせる。心配かけさせた事。
そして、天候を読み切れず妹を危険なめにあわせたこと。この2つ」
大哥が聞き返す。
「青燕を連れ出したことは?」
「治ったんだろ。ならそれでお終い」
大哥が巴特を見た。
「オットコ爺にたしかめさせる いいな」
「じゃあ 青燕は」
「治ってたならな。潰す理由がなくなる」
「ありがとう大哥! 」
「いいか、今回だけだ。2度とするなよ」
「する。耀花様にまた頼む」
溜息をついて大哥がいった。
「巴特。確かに耀花様はすごいお方のようだ。だが、はなからそれをあてにするのはやめろ。あれば儲けものくらいにしておけ」
口を開こうとして 大哥ににらまれてやめた。
「それとな、巴特。おれからも罰を与える」
「えっ」
「なんだあの荷物は。適当にもほどがある。いつも最悪を想定して動けといってるだろう。このあほが! 」
「痛い 痛い 耳ひっぱらないでー」
巴特は、それから延々と大哥の説教を聞く羽目になった。
翌朝、柵の中の青燕のところに、オットコ爺が呼ばれた。
「ほんとに治っとる」
青燕を診たオットコ爺が驚いたようにいった。
「確かか」
「確かですじゃ 老大哥」
「 試してみるか。小哥哥!」
自分がと腰を浮かした巴特を遮って大哥が言う
「お前以外で確かめる」
巴特に向かって軽く頷いてみせた小哥哥が青燕に跨る
青燕の腹を軽く蹴った。
駆けだす青燕。
「ちょー ちょー」
走りがが変わる
「できとる!」
「なっ! なっ!」
オットコ爺が大声で叫んだ
「ジョローモリー!! 」
「ジョローモリー!! 」
続けて巴特もさけぶ
「ジョローモリー!! 」
「ジョローモリー!! 」
皆が叫ぶ
「オットコじぃぃ」
「ほいなぁー」
飛びついた巴特をオットコ爺が空に放り投げた。
大哥
長兄。兄弟の中で一番上の兄に対する呼び方。
小哥哥
近所の年上の兄さん、親しい年長の男性への呼び方。
ジョロー
側対歩
馬の歩法の一種で、左右どちらかの前脚と後脚が同じ側で動く歩き方。上下の揺れが少なく、騎乗時の安定性が高い。弓を射る際にも有利とされる。
ジョローモリ
側対歩ができる馬に対する讃辞。
「ジョローができる優れた馬」という意味で使われる呼び方。




