第3話 虎なんて大きな猫みたいなもんでしょう
三
街の繁華街にある長助の家は一階が探偵事務所、二階が住居となっている。
「結局、この虎連れて帰ってきちゃったな。まあ、街なかにほうっておくわけにもいかないしなぁ」
「ああ、この物件ペット可なんで大丈夫ですよ」
「いや、ペットか? それより長助、お前大丈夫なのかよ。血が吹き出してたぞ」
「こんなの安ポーションでも塗っておけば大丈夫ですって」
「お前、ネコ科には寛容なんだな。……こいつ、キャットフード食うんだな」
長助が出した山盛りのキャットフードを貪り食うでかい虎。たしかにこうしてみると猫に見えなくもない。
「今、転生神タブレットで調べたんだけどよ、それモンスターどころじゃないぞ。神獣白虎だってよ」
「えー? そのタブレットって動物図鑑機能あるんですか?」
「いや、動物だけじゃなくて、一応この世界のことはわかるアプリ入れてるからな」
神界でしか使えない機能ってのもあるんだけど、オフラインモードで使える機能も盛り沢山の神アイテム。転生したときに手にを持っててよかったぜ。
「やっぱり、大きくても猫ですね。ほら、僕の匂いをクンクン嗅いで、意外と懐きそうですよ。スリスリしてくれるかな」
ガブッ! 白虎が長助の股間に咬み付いた。
「ギャァァァァァァ! 僕のタマとサオがァァ!」
うむ。やっぱり懐くことは無さそうだ。
チャイムがなった。この音は一階の事務所の音だ。
「俺が対応するよ。お前はその下半身タイガースにバットとボールで遊んでろ」
「いてぇぇぇ! ……はいぃ、お願いします」
事務所のドアを開けると、サラサラの亜麻色の髪をなびかせた、白ギャル……白ヤンキー? が立っていた。
「あのさ、ここ猫探し専門の探偵事務所って噂を言いてきたんだけど」
「ああ、まかしておけ。ウチにゃ最強の猫寄せ人間がいるからな……ん?」
「あ、アンタ……転生神の……クローチンじゃん」
「ちげぇよ! 黒光ってねぇからッッ」
こいつは印象が強いから覚えている。
神である俺にめちゃくちゃタメ語だったし、特攻服着てたし、死因が「反社会的勢力との一対五〇で死ぬ」っていう破天荒過ぎる非業な死に様動画で。……正直、酔いが醒めたというか、ドン引きしたというか。
「たしかお前は……加東千夜だったな」
「うん。そうだけど。なに、クロチンコも転生したの?」
「あ、ああ。事故というかミスというか……まあいい。猫探しだな?」
「うん。猫の名前は何ていうんだ?」
「……ブーさん」
「そうか! ブーさんか。こいつぁいい名だ! 任せとけ、無料で引き受けてやる」
「いいの? お金なら少しはあるけど」
「いいのいいの。俺の趣味みたいなもんだからな」
こうして新しい依頼に取り組むことになった。俺はモチベーションが最高潮だ。
長助の猫寄せスキルを使ってサクッと片付けるためにも。
「おーい、長助。新しい依頼だぞー。お客様来てるから降りてこい」
股間を押さえながら階段を降りてくる長助は、加東に挨拶をした。
「はじめまして、僕、この探偵事務所の所長の碇長助と申します」
「はぁ? 股間触りながら年頃の女を見やがって。変態か? テメェ」
出た、ヤンキー気質。こんなんだから前世であんな死に方するんだよ。まぁこの異世界には合ってるかもな。
「これには深いわけがあってな。許してやってくれ。もう使い物にならないんだ」
「虎に咬まれたくらいなんだ! 僕のアソコは親方のより硬いんだッ! 俺のムスコ大佐は何度でも蘇るさーーッッ」
ふと見ると、加東が呆気にとられたような顔をしている。
「……虎?」
「ああ、さっき長助が野良虎に懐かれちゃってね。連れてきたんだ。見せてやるよ」
ちょうど白虎が階段を降りてきた。それをみた加東が涙を浮かべる。
「ブーさん? ブーさんだッ」
「「えぇぇぇぇ!」」
まさかこの白虎が、加東の探してた猫……虎のブーさんだったとは。
事実は小説より奇なりってのは、当に事のことだな。
「ねぇアンタたち。ブーさんをここに連れてくる時、誰かに見られた?」
「そりゃ見られるだろうな。ずっとドタマ咬み付かれながら、大通りを歩いてきたから。なんだ? 見られたらマズかったのか?」
「巻き込んでごめん。……アンタたち、今日で死ぬかも」
なんだ急なシリアス展開。
「ちゃんと経緯を話すよ。アンタたち、『賢者と秘密の囚人』っていう組織を聞いたことあるだろ」
「JD・ローリングの新作か? なにーポッターだ? 知ってるか? 長助」
「……クローディンさんはこの異世界に来たばかりだし、酒のんで寝てるだけのニートだったから知らないだろうけど。この国のトップ冒険者ばかり集まった巨大組織で、やることなすことメチャクチャなんです」
「へぇ、で、その天空の風の谷のぽんぽこが、どう関係するってのよ」
「賢者と秘密の囚人ですってば」
加東曰く、総勢五十名からなるこの組織は相手が貴族だろうが、同じ冒険者だろうが、お構い無しに悪事を働く。盗み、殺し、危険薬物、やりたい放題。
この国では神獣や聖獣といった類の殺生は禁じられてるのだが、組織の威光の為に白虎討伐を掲げた。勿論、白虎の牙や毛皮は神代級のアイテム素材になる。
「賢者と秘密の囚人の副団長が……私なの」
「えーーッ! あの有名な『惨殺ギャル・かとちゃんぺ』が加東さんなのーーッ」
「……うん。私達は白虎を追い詰めたんだけど……なんか、ブーさんを見てたら情が移っちゃってというか、可愛くなっちゃて……その場で組織を裏切ってブーさんと一緒に逃げたんだ。しかも組織の冒険者をボコっちゃって、十人以上死傷者出てるし……」
「極悪非道ーーッッ 普通に狙われて当然だろーーッッ」
「だから多分、もうここ包囲されてる」
「おいぃぃ! 修羅場じゃんか! 命日じゃんか!」
「だから巻き込んでごめんっていってるじゃん、キモオタ」
「謝って済んだら探偵いらねーんだよ!」
まったく、こいつら絶体絶命とか思ってるんだろうな。
「ったくしょうがねぇな。安心しろ。この探偵事務所には、死と再生を司るクローディン様がいるじゃねぇか!」
今まさに、冒険者の頂点たちとの戦いが始まろうとしていた。




