第2話 二丁目のタマ うちのタマ知りませんか?
二
「もー、クローディンさんー。いつまでも寝てないでご飯食べちゃってくださいよ」
「いや、無理。二日酔い。飯食えないから酒持ってきて」
「迎え酒するなーーッッ」
俺は今、碇長助の家に居候している。先日、居酒屋で再会した後のことである。
人間風情が俺に牙を向いた事に憤慨した俺が、長助をミンチ肉にしてやろうとの考えを思いとどまったのには、理由があったんだ。
「酒代を奢ってもらったついでに泊めてもらおう。なんならずっと泊めてもらえば宿代がかからない。……とな」
「神とは思えない思考回路ですね」
「長助、貴様は神は皆、聖人君子だと思ってるのかね? こんな多様性な時代に」
「それ、僕が転生する前の日本の風潮だから……」
この家に居候して早三ヶ月。
こいつの部屋の本棚に全十九巻揃っている『YOU☆YOU☆白書』を発見したときに思い出したのだ。
――二年前・転生の間――
「浦筋幽助に憧れてリーゼントにして学校いったんすよ。引きこもりの僕がですよ? しかもブレザーの制服なのに学ラン着て。そしたら空き地で本物の不良たちにボコられて、その帰りに車に轢かれそうな子供を助けて死んじゃったんす!」
「うん。非業な……というか不憫な感じだねぇ。まあ、いいや。転生する?」
「はい! 転生したら霊界探偵になって、暗黒武闘会で優勝して、実は魔界の王の子孫だったという設定に転生させてください!」
「なにそれ、わからん。無理。そういう世界じゃないから。剣と魔法の世界だから」
「えぇーーッッ」
――現在――
「で、レイガンだかレイニンだかスタアリンだかってのを撃てるようにして欲しい。ってさ。あれ、別に転生特典じゃなくても似たようなことできるからね。しかも一日四発だけ撃てるように……って、ただの弱体化だからね」
「冒険者に探偵なんて職業なかったんで、個人事業で探偵事務所も作ったし」
胸元からスッと差し出した名刺には『異世界探偵 碇長助』と書いてあった。
職業的に冒険者以下なんだけどな。……まあ、本人が満足してこの世界で幸せに暮らしているならいいか。
「幽助と長助って名前似てるし。もうね、クローディンさんには感謝しかないっす」
「お前な、碇長助って、どっちかっていうと、いかり◯長介の方が似てるぞ。八時に集合するほうだぞ、レインボーブリッジを封鎖するほうだぞ」
そんなこんなで、こうして二日酔いで食いたくもない朝飯も食えるし、屋根があるところで寝れるし。なんだかんだ異世界に転生した神様やってます。はい。
「そうだクローディンさん、お食事中すみませんが」
「ああ? どうした長さん」
「長さんはやめてくださいよ。いやね、僕の魔丸で壊しちゃった店の弁償をしないといけなくてですね」
「そりゃそうだろう。いくら異世界でも、悪い事したら償わなきゃ」
「クローディンさんの家賃、食費、水道光熱費として、半分払ってくださいよ」
「なんでだよ、お前、有名な冒険者なんだろ? 金持ちだろ?」
「いや、たしかに冒険者では有名ですが、本職、探偵ですから」
「ほう、探偵のほうは儲かってるのか?」
「もちろん大赤字です!」
「なんでやねん!」
「でも、依頼はいっぱい来るんですよ。お金で払わないなら働いて払って下さい」
正直、即答で断ろうと思った。が、シラフの頭でよく考えてみると手伝ったほうが楽だ。知り合いだから働いたフリしてても怒られなさそうだし、そのうちなし崩し的にニート生活すればいいのだ。
「よし、わかった。今日はどんな依頼だ? 俺がぱぱっと片付けてやる」
「今日は三件とも猫探しですね」
「なんだ、そんなチンケな依頼しかこねぇのかよ」
「ええ、多分街中の人は猫探し専門の探偵事務所だと思ってます」
自信満々に……。こいつ依頼内容より『探偵』って肩書にこだわるやつだな。
「ええと今日は、二丁目のタマ。一丁目のサオ。あと同じく一丁目のシリですね」
「タマはまだわかるけど、サオがセットになると下ネタだな! ってシリもじゃねぇか! いや、丁目の部分、各部位の数になってるぞ! 猫の名前でダイイングメッセージみたいな事するんじゃねーーッッ」
よく晴れた昼過ぎ。本格的な捜索が始まった。裏路地、屋根の上、煙突の中。
俺達は二手に分かれて探す。俺は一丁目から、長助は三丁目からサーチしていく。
「おーい、タマとサオー。どっちかいないかニャー?」
「猫ーぉ。シリーぃ」
猫探しなんてやったことのない俺だが、そうやすやすと見つかるもんじゃないことは予想してた。
そりゃ探偵事務所も大赤字なわけだ。一体、探し猫一匹捕まえる報酬っていくらなんだろうか。野良猫はそこらじゅうにいるのに、見つかる気がしない。
「クローディンさーん」
「長助、早いな。もう一丁目と二丁目を回ったのか。……って見つけてるしッッ」
長助の腕には手配書の猫――タマとサオとシリが抱かれていた。
「体質ですかね。猫が寄ってくるんですよ」
「へぇ。猫が寄ってくるスキルなんて授けた覚えないけど。って、顔傷だらけぇ!」
「そうなんです、追いかけ回されてめっちゃ攻撃されるんです。まぁ僕は猫好きなんでいいですけどね。えへへ」
なんて、すてきな片想いなんだろう。
長助曰く、前世通っていた、猫カフェでも同じだったらしい。猫カフェのないこの異世界で猫とモフモフできるのは彼にとって幸せなんだとか。しかも報酬まで貰える一石二鳥。
飼い主に無事猫を届けた帰りの事。
家路に向かう俺達が歩いていると、野良猫たちが唸り声をあげて長助に攻撃のタイミングを窺っている。
「ほんとだ。マジで猫どもに敵視されてるんだな、お前」
「嬉しいなぁ。もういつでも来いですよ。多分そろそろ襲いかかってきますよ」
その時。長助に忍び寄る大きな影が、凄まじい速さで襲いかかった。
ガブッ!
「ほら、来た来た! ……あ、あれ?」
それは猫というにはあまりにも大きすぎた。大きく分厚く重く大雑把すぎた。
「長助! ……それ猫じゃない! 虎やで!」
「ギャァァァァァァァァァァァァ、痛ェェェェェェ」
長助に襲いかかったのは、白くて大きい虎のモンスターだった。
なぜ王都の街なかにモンスターが……
この出来事が、俺と長助の異世界生活を大きく変える予兆だったのだ。




