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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
終章 打倒! 悪のヤドリギ!
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兄上戦!2



 ロランの感傷をふりはらうように、薔薇が舞った。

 バランの薔薇。

 花吹雪が豊潤な香りをふりまき、ロランにうながす。ともに戦おう、と。


 ロランは仲間たちを見た。

 妹のスズランはもとより、バラン、クマりん、モリー、みんなの目が『君のためなら、どんな戦いもいとわないよ』と告げている。


「ありがとう。みんな。行くよ」


「はい。お兄さま」と、スズランは言った。

 バランは静かにうなずき一礼した。

 クマりんは「ま〜」と、モリーはプルプルふるえて少し盛りあがった。


「じゃあ、バランは守るで、みんなを守って。クマりんはパパとママと仲間を呼んで。モリーはバランに変身して。スズランは万一にそなえて後衛で回復と補助魔法。みんなを助けて」

「わかりました。お兄さま」

「みんなはお供を。兄上は僕がやる」


 ロランの今のレベルは28。

 クラウディ村の戦いでレベルが一つ上がった。職業は魔道戦士だ。

 HP266(292)、MP135(148)、力103(113)、体力81、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。


 ただの記憶違いだと思うが、たまに見覚えていた数値と異なっているような気がすることがある。しかし、昨日からその現象は起こっていない。


 さきほどから、危険察知で感じる兄の数値は、ロランとさして変わりはないようだった。レベルで言えば35くらいか。

 兄のお供は二体。

 でも、こっちはNPCのスズランをふくめて四人の仲間がいる。

 決して勝てない相手ではない。


 ロランはいきなり、『みんな、ありがとう〜』を唱えた。

 全員の戦闘不能を治し、あらゆる異常やダメージを全回復できる呪文だが、パーティー全体に、がんばろ〜や、かたくなれ〜のかかる補助魔法でもある。MPが50も必要だが、奇妙なことに術者のMPも全回復する。つまり戦闘序盤に使用すれば、実質、MP0で全員のステータスを底上げできる。


 兄はロランほど素早くはないようだ。

 もう一度、行動できそうだった。


 実の兄を攻撃するのは気がひける。

 だが、そんなことは言ってられない。


 ロランはクィーンドラゴンの鞭をふりあげた。

 あれは兄ではない。

 悪のヤドリギだと自分に言い聞かせて。


 クィーンドラゴンの鞭は、みずから獲物を求めるように、兄の首に巻きついた。

 ロランは両手に力をこめて、鞭を引いた。兄をしめおとそうと思ったのだ。

 兄はさほど抵抗することもなく、床にひざをついた。苦悶の表情を浮かべ、みるみる顔色が悪くなる。


 もしかして、このまま落とせるだろうか?

 なんだか、あっけなさすぎる。

 油断させるため?

 それとも、口ではあんなふうに言うけど、ほんとは兄も自分と争いたくないのでは?


 いや、ダメだ。

 これまでポルッカさんやアンドーのお母さんをあやつった、悪のヤドリギのやりくち。そんな生ぬるいものじゃない。

 さっき語った歪んだ世界観は、ヤドリギが至高としている理想郷なのだ。そこに偽りはない。


 ロランは思いきって自分の体重を乗せた。ギュッとドラゴンの革が鳴る。


「ごめんなさい。兄上。僕はこの世界を守りたいんです」

「ら……らん……」


 兄の切れ切れの声が、かすかに聞こえる。

 そう言えば、さっきから急に戦闘音楽が消えた。

 いったい、どうしたんだろうか?

 イベント……だろうか?


 兄はひざをついたまま、ロランを見つめる。


「このまま、私を殺してくれ。頼む。私のなかにいるアイツを倒せ」

「兄上……」


 兄は悪のヤドリギに完全に意識をのっとられているわけではないのか。

 兄のなかに、兄の心が残っている。

 そう思うと、ロランの手から力がぬけた。

 クィーンドラゴンの鞭が、わずかにゆるむ。


「……おぼえているか? 子どものころ、一度だけ、おまえと遊んだことがあるな」


 ロランは兄の言っている意味がわからなかった。

 まさか、兄はあのときのことを言っているのだろうか?

 もう顔もおぼえていない。

 ロランの生まれて初めての友達……。


「兄上……では、あのときの少年は……」

「おまえはもう、とっくに忘れていると思っていた。あの……ときは、楽し……かった」


 ロランは激しく動揺した。

 信じられない。

 あのときの子どもが兄だったなんて。

 だが、そう言われてみれば、どことなく、おぼろな記憶のなかにも面影があるような。


 ダメだ。

 やっぱり、自分には兄を傷つけることはできない。


 ロランがひるんだときだ。

 とつじょ、兄がとびかかってきた。

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