地下牢脱出!
「コピコピ。ピココピピ。コビットコン、ピラー!」
うーん。あいかわらず難解な言語。コビット語。
でも、コビットコンっていうのが、コビット王とか、コビット王の剣とかを指してるらしいことは、これまでの会話でなんとなくわかった。
たぶんだけど、クピピコがコビット王の剣をたずさえてお助けに参りましたぞよ、とかなんとか、そんなことを言ってるんだと思う。
「ありがとう。クピピコ。じゃあ、さっそく、僕らをつついてもらえるかな? あっ、ちょっと待って。小さくなったら預かりボックス持ちあげられなくなるから」
僕はカバンから出して床に置いていた預かりボックスを、ミャーコポシェットに収納する。
どんな大きなものも際限なく吸いこむミャーコ。食いしん坊。持ちぬしの個性が適用されたのか?
近ごろは僕が見つけたお金を指さすと、自動で吸いこんでくれる。まあ、額が増えて、いちいち拾ってたら時間かかるんで、行軍の支障になるからさ。
「えーと、今日だけでも五百億拾ってるなぁ。預かりボックスに入れたら、預かり所に預けたあつかいになるよね? ちょっと入れとこ。全滅してもなくさないし、傭兵呼びのとき、いっぺんに大金使わなくてすむし」
五百億円だと百分の一でも五億円だ。
使うのはかまわないんだけど、所持金が減ってしまうと、それだけ敵に与えるダメージも減ってしまう。全財産なげうつって技が使えるようになったときのために、できるだけ出費は抑えておきたい。
僕は財布のなかのお金を、ザラザラと預かりボックスになげこんだ。
その上で預かりボックスをポシェットに入れた。
「はい。いいよ。準備オーケー」
「コビットコン、ピラー!」
チクンっと足元に注射ー!
毎度なんだけど、それなりに痛い。
「かーくん殿。拙者の技が今一度お役に立ちもうして、欣喜雀躍にござる」
「ありがとう。ちょっと痛いけど、助かったよ。アンドーくんと、イケノくんもよろしく」
「お任せあれ! 行けー! コビット王の剣よ!」
なるほど。『コビットコン、ピラー!』は、コビット王の剣よ、行け! なわけね。
ちょっとずつ覚える他種族言語。
「アイテテ」
「イタっ」
アンドーくんとイケノくんも注射の洗礼を受けて、ぐんぐん体がちぢむ。ニ〇スの冒険ふたたびだ。
「わあっ、こまなった。こまなった。これ、どげしたで?」
イケノくんは初めてだから、はしゃいでる。
「うん、まあ。説明はあとでするとして、早く逃げだそう。もしも見まわりの兵隊が来たら困るから」
身長十センチの僕らは、五センチ間隔の鉄格子のあいだを、なんなくすりぬける。スルっとね。もう、スルっと。
「このさいだからさ。このまま、地下を探索しようか。ロランが話してた秘密の地下道っていうのを探そう」
「そげだね」
「うまくしたら、問題の鏡も見つけられるかもしれないしね」
「うん。行ってみらか」
地下牢のなかは、まだダンジョンではないようだ。
ろうかの両側に鉄格子で仕切られた牢屋がならんでいる。
牢屋の数、多いなぁ。
ミルキー城はミルキー国の王都の城だから、犯罪者の数も多いんだとは思うけど、それにしても百室はある。
コビットサイズの僕らにとって、くまなく歩きまわるには、ちょっとやっかいな広さだ。
「……ふう。疲れてきたね。もとのサイズに戻る?」
「でも、そげしたら兵隊に見つかぁだない?」
「そうか。脱獄が知れ渡るといけないもんね。兵隊の配備が厳しくなってしまう。アンドーくんの隠れ身はずっと使えるわけじゃないから、肝心なときのために、とっときたいしね」
そのときだ。
ハツカネズミサイズの僕らの前に、赤い目をピカピカ光らせた巨大なモンスターが現れた!
ギャー! どうしよう。
猫? ノラ猫? それか、ドブネズミとか?