ヤドリギはこの人
「ええーッ? ま、まさか、この人が?」
「ああ。まちがいない。コイツだな」
「そんな! ぜんぜん、そんなふうに見えなかったのに」
「ヤドリギのカケラは体内に入っただけでは、近親にも判別が難しいのだろうな。つねにあやつられているわけではなく、ときおり悪のヤドリギの意識に、思考を乗っ取られてるのかもしれない」
信じがたい。でも、これが真実だ。
その人のおもてに、たったいま浮かぶ歪な表情を見れば、もはや疑いはない。
あんなに善良な村人だったのに。
今は根性の悪さが前面に出ている。
アンドーくんが叫んだ。
「お袋! しっかりしてごせや!」
そう。それは、アンドーくんのお母さんだった。
猫車から降りて、いつのまにか、そこに立っている。
「ムダだ」と、ワレスさんがアンドーくんの肩を押さえた。
「こうなれば、戦闘不能にするよりほかない。母を痛めつけることはできないだろう。おまえはさがっていろ」
「でも……」
そりゃ取り憑かれてはいてもお母さんだから、アンドーくんは気が気じゃないだろう。
僕はアンドーくんの手をひいて、さがらせた。
「ここは僕らに任せて」
「う、うん……」
「大丈夫。手かげんはするよ」
「うん。頼んよ」
戦闘音楽が流れてきて、いよいよ、アンドーくんのお母さんと一戦——
というときになって、まわりにやたらと村人が集まってきた。
正体がバレたので、ヤドリギがあわてて、あやつり人形たちを呼び集めたのだ。
ワレスさんは舌打ちをついた。
「ザコはおれがやる。おまえたちはヤドリギをやってくれ」
「わかりました」
ワレスさんは戦線離脱。
残念。
でも、迫りくる無数の人たちを一人でいなせるのは、ワレスさんだけだ。
蘭さんが言った。
「かーくん。せっかくだから、後衛戦してみましょう」
「そうだね」
「じゃあ、前衛は僕、かーくん、バラン、シャケ。後衛はスズラン、たまりんで」
スズランとたまりんは補助魔法や補助スキルが豊富だからね。
ところが、アンドーくんがかけよってくる。
「わも後衛に入るわ。世界樹の枝先で回復くらいはできぃけん」
僕は蘭さんと顔を見あわせた。
まあ、黙ってみてられないというアンドーくんの気持ちはわかる。
「じゃあ、アンドーも入ってください」
「うん……」
ああ、アンドーくん。
ほんとはツライだろうになぁ。
見てられない。
誰かに取り憑いて意識をのっとるってだけで、悪のヤドリギは充分にクズだ。けど、それをこうやって家族や友達と争わせようとするところが、ほんとにクズのなかのクズだよね。
ポルッカさんのときも、そうだった。
ポルッカさんが大切にしてるものを、ポルッカさん自身の手で、わざと破壊させようとしていた。
今度は息子のアンドーくんをお母さんと戦わせようとしている。
もしかしたら、あえてのそのための人選なのか?
くそォー。ヤドリギめ。
許さないぞ。
アンドーくんのお母さんが現れた!
アンドーくんのステータスが激減した!
えっ? 激減するんだ。
てか、思ったとおり、アンドーくんのお母さんは野生じゃない。
魔王軍あつかいか。