粉砕プライドえれじぃ
明けましておめでとうございます。
ボカロ曲のタイトルみたいになっちゃいましたが、語呂が良いのでこれで行こうとおもいます。
この城で捕虜を世話をすることになったと聞いて、料理人頭は内心で思った。
「ここの飯が美味いから、釈放されたくないって言いだすようにしてやる」
思ったし、調理場の仲間らと、軽口まじりで言い合ったりもした。
すると早朝の仕込みをしているとき、見張りの一人がやってきてぽそりと耳打ちしたのだ。
「深夜に吐いてたぜ、晩飯」
「ナヌ」
「しかも便器に吐きゃいいものを、ナミダシラズの花壇に」
「なぁあ?!」
「声が大きい」
見張りが制するより早く、調理場の仲間は耳ざとく聞きつけて寄ってくる。
「ナミダシラズに吐いたって?」
「どういうこった」
「えっまさか、あの年でもう」
「だからって相手誰よ?」
「……ピッチン、とか?」
「えっまさか」
不妊の薬草の話だけに、話が脱線するのは仕方ない。
一方で料理人頭は、眉根を寄せて考え込んでしまった。
王国を名乗る隣国では、ちょいと口にできんような風俗があると聞くが。よもや、自分の料理を吐き捨てられるとかちょっとないわー。ありえないわー。まことかよー。
彼はショックを受けていたのである。
テーブルに出すばかりになっていた麺麭を見張り番が勝手にちぎり、ジャムもつけて口に運ぶ様子も、視界の隅でとらえているが、咎めるという考えが浮かんでこない。
そのくらいショックだった。
料理人頭の様子がおかしいのに気づいて、調理人や下働きもややあって口を閉ざし、じっと上司のほうを伺い見る。
誰も、何も言い出せない気まずい沈黙のなか。
勝手にスープを飲みほした見張り番が、椀を置く音。それが、やたらと大きく響いた。
「気になるなら、教導師に訊いてみりゃ良いんじゃないか」
「教導師にか」
「ご馳走さん」
とあくび混りに出てゆく見張り番の背中に、料理人の一人が「水桶に漬けてけや」と声かけするに至って、やっと。料理人頭は自分の仕事を思い出した。
「ほらほら、無駄口叩く時間はないぞ。麺麭のかごとジャム壺を食堂に運ぶんだ。火はもう落として、急いだ急いだ!」
あわただしく動き出す仲間に混じって、自身もお玉を手に動かしながら。料理人頭は、
(後片付けが済んだら、教導師をつかまえて聞いてみよう)
と心に誓っていた。




