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王道、半マイルを駆け抜けろ  作者: 切身魚/Kirimisakana
12/18

粉砕プライドえれじぃ

明けましておめでとうございます。

ボカロ曲のタイトルみたいになっちゃいましたが、語呂が良いのでこれで行こうとおもいます。

 この城で捕虜を世話をすることになったと聞いて、料理人頭は内心で思った。


「ここのめしが美味いから、釈放されたくないって言いだすようにしてやる」


 思ったし、調理場の仲間らと、軽口まじりで言い合ったりもした。

 すると早朝の仕込みをしているとき、見張りの一人がやってきてぽそりと耳打ちしたのだ。


「深夜に吐いてたぜ、晩飯」

「ナヌ」

「しかも便器に吐きゃいいものを、ナミダシラズの花壇に」

「なぁあ?!」

「声が大きい」


 見張りが制するより早く、調理場の仲間は耳ざとく聞きつけて寄ってくる。


「ナミダシラズに吐いたって?」

「どういうこった」

「えっまさか、あの年でもう」

「だからって相手誰よ?」

「……ピッチン、とか?」

「えっまさか」


 不妊の薬草(ナミダシラズ)の話だけに、話が脱線するのは仕方ない。

 一方で料理人頭は、眉根を寄せて考え込んでしまった。

 王国を名乗る隣国では、ちょいと口にできんような風俗があると聞くが。よもや、自分の料理を吐き捨てられるとかちょっとないわー。ありえないわー。まことかよー。

 

 彼はショックを受けていたのである。

 

 テーブルに出すばかりになっていた麺麭パンを見張り番が勝手にちぎり、ジャムもつけて口に運ぶ様子も、視界の隅でとらえているが、咎めるという考えが浮かんでこない。

 

 そのくらいショックだった。


 料理人頭の様子がおかしいのに気づいて、調理人や下働きもややあって口を閉ざし、じっと上司のほうを伺い見る。

 誰も、何も言い出せない気まずい沈黙のなか。

 勝手にスープを飲みほした見張り番が、椀を置く音。それが、やたらと大きく響いた。


「気になるなら、教導師せんせいに訊いてみりゃ良いんじゃないか」

教導師せんせいにか」

「ご馳走さん」

 とあくび混りに出てゆく見張り番の背中に、料理人の一人が「水桶に漬けてけや」と声かけするに至って、やっと。料理人頭は自分の仕事を思い出した。


「ほらほら、無駄口叩く時間はないぞ。麺麭のかごとジャム壺を食堂に運ぶんだ。火はもう落として、急いだ急いだ!」


 あわただしく動き出す仲間に混じって、自身もお玉を手に動かしながら。料理人頭は、

 

(後片付けが済んだら、教導師をつかまえて聞いてみよう)


 と心に誓っていた。

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