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第4章 出会い


 ヴァージリアの偵察隊を撃破したレイは、国境の荒地で、覆いつくすほどの死体が転がる戦場を、近くにある木にもたれかかりながら、疲れ切った表情で見ていた。


 早朝に始まった戦闘は、昼間までかかったためか、戦場にはヴァージリアの兵士と、クリフトラの正規軍の、多くを占める傭兵の死体が重なるように転がっている。


 ――さすがにやりすぎたな……。


 心身共に疲れ切っているせいか、声を発することすら憂鬱になっていた。


 意識は何とか保てているものの、いつ切れてしまってもおかしくはない。


 立つことはおろか、腕を上げて剣を取ることさえもできないため、ここに敵が戻ってきたとしても、もう戦うことは出来ないだろう。しかも、血を流しすぎてしまったせいか、すでに感覚がない所すらちらほらとある。



 青く色付く空には、数羽の烏が、自分がここで力尽きるのを飛びながら待っているようにも思えた。


 すでに遠くに転がる死体の山には、烏が群がり、まだ新しい人間の血肉を漁りながら食べているのが伺える。


 嘴には兵士の鮮血がこびりつき、目玉を一飲みにしながら、遠くの森の方角へ飛び立っていく烏の群れを何羽見たのだろうか。もうすでに分からなくなっていた。



 ――なぜ俺は、こんな思いまでして、戦ったのだろうか……?


 ふと疑問に思うレイ。


 あの無能指揮官であるマルクスは、戦闘が始まった瞬間、怖気つき貴族が占める騎兵隊を連れてさっさと戦場を後にしてしまった。


 自らの見方を置き去りにし、彼は今頃クリフトラの本体と合流している頃だろう。


 指揮官としてあるまじき行為に、非難を通り越して笑いすら感じてしまう。


 もしかしたら、自分だけが逃げたという事実を伏せて、傭兵が反乱を起こしたから一時撤退を余儀なくされたと、誰も知らないのをいいことに事実をでっちあげているかもしれない。


 だが、もうそんなことはどうだっていいことだ。


 彼が、ここに居る者たちを見捨てて逃げてしまった事実に変わりはないのだから。



 しかし、ほとんどのヴァージリアの軍隊を1人で倒してしまった、レイだったが、まだ死地を逃れた訳ではないことは、レイ本人が一番よく分かっていた。


 戦場後の死体を漁りに来るのは、何も烏だけではない。


 荒地を抜けた林の奥で、何やら四足歩行で動き回る生物が、死体の転がった戦場にちらほらと現れ出した。


 レイはそれを見た瞬間、やつらがグールと言う魔物だという事を理解する。


 食屍鬼とも呼ばれる彼らは、全身が黒く、まるで人間になることが出来なかった獣のような醜い姿をしている。


 彼らはどうやら死肉の臭いを嗅ぎつけて、どこからともなく集まってきたのだろう。


 グールの好物は、獣よりも人間の死体だ。そのためなら人間さえ襲うことがあるため、旅人が夜を森の中で明かすなら、真っ先に注意する相手だと言える。


 彼らの知能は魔物の中でも相当低く、仲間意識すら持たないため、獲物をしとめれば、他に敵が居ようといまいと、死体を食べつくす。

 しかも、空腹なグールはもっと質が悪く、生きたまま人間をほうばることさえあるほどだ。

 


 運が悪いことに、この戦場に集まってしまったグールの集団は後者の様だった。


 まだ息のあるレイを見つけると、すぐに3匹のグールが近寄ってきて、目の前で横につぶれた大きな鼻で、臭いを嗅ぎながらやってくる。


 こんな相手、万全の状態なら何という事は無い。だが、逃げることも出ないレイはただ、その場でグールを眺めることしかできなかった。



 グールは臭いでレイのことを感じると、その場でドロッとしたよだれをたらし、襲いかかってきた。


 その時は、さすがに、ここで死んでしまうのかと覚悟を決めざるを得なかった。


 目を閉じ、このまま生きたままグールに食われるのかと思った。


 ――あぁ、くそみたいな人生だったな……。


 最後にそう思い、死ぬ覚悟をしたその時だった。



「大丈夫、私があなたを死なせたりはしないから……!」 


 かすかな意識の中、飛び掛かって来たグールの目の前に、少女がそう言いながら、割って入って来たような気がした。


 こんな血みどろの戦場に、少女なんか居るはずなんかない。


 ましてやこんな自分なんて助けるはずもないことは、頭の中で分かっていたはずなのに、まるで幻のような目の前の光景に、レイはただただ自分の目を疑った。


 そこで、レイに意識は遠のいて行き、最後まで、突然現れた彼女がいったい誰だったのか、分からなかった。




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