反動が凄いな……
サンダーバードの死体は、その巨体に見合った大きさの魔石を残し黒い霧に変わって姿を消した。
落下するグロリアは、いくつもの木々をなぎ倒し転がるように森を破壊する。
俺も、そのまま地面にクレータを作り地面にたたきつけられる。
「【スキャン】よし誰も人はいないな」
索敵をし、周囲に誰もいないことを確認した。
「――――、――――!!」
何を言っているのかわからない奇声を上げるグロリアは、ビルと同じくらいの大きさで俺を見下ろす。
流石にここまでになると、普通の俺では手に負えない。
だから俺は切り札を使うことにした。
【餓鬼偏執】神に貰ったスキルの中でも破格のステータス上昇。
しかし名前の通り、全身強化の代わりに敵を殺すまで周囲を顧みない。
他人の声も、姿も認識できず敵のみを殺す機械に成り下がる。
これを使うためにここに落ちてきた。
俺を見下ろすグロリアは、俺に巨大なハンマーの様な腕を振り下ろす。
その腕を俺は弾き飛ばす。
【餓鬼偏執】の発動。
神経が研ぎ澄まされ、血の流れまで感じ、体に力が溢れ、世界を破壊できそうな気になる。
そして理性が薄くなり、目の前のグロリアに殺意が生まれる。
「早く終わらせようか」
俺はグロリアが振り下ろす二度目の攻撃を切り裂く。
心地いい悲鳴が聞こえた。
「【ファイア】」
切り裂いた腕に炎を放つ。
炎は傷口を登り、右半身を燃やす。
反撃に放たれる腕を真正面から受け止め肩から引っこ抜く。
その悲鳴に心がスッとする。
足になっている蛇に引っこ抜いた腕で殴りつける。
ダルマ落としに失敗したらしく、グロリアは転倒した。
修復を開始する、蛇を次々に毟り取る。
「【アイス】」
復活が遅くなるように毟った先から凍らせ、立ち上がれないようにする。
回復しようと自ら凍っている部分を壊そうとする悪い腕を、全て切り落とす。
聞こえる悲鳴全てが俺に幸福感を与える。
手足全ての動きを凍らせると、グロリアの顔は恐怖に染まっていた。
鋭い歯は噛み合わないのかカチカチと音を鳴らし、深淵の様な瞳には涙がにじむ。
俺は怯え震えるグロリアの胸に剣を突き立てる。
何度も何度も何度も何度も何度も魔石を探すために剣を突き立てる。
「い、いやっ、そっ、そこ」
「ここにあるのか」
突然人の言葉を話し出したグロリアは、自分の鋭い歯をへし折り、自分の体に突き刺した。
おそらくそこにこいつの魔石があるのだろう。
俺は示されたその場所に剣を突き立てた。
わずかに緊張で硬くなった肉を絶ち、硬い感触が一瞬触れすぐに砕ける。
そしてグロリアの体は黒い霧になり姿を消した。
そこに残るのは、グロリアと同様に複数の魔石と召喚結晶が混ざり合う異形の魔石の残骸だけだった。
グロリアの討伐を終え【餓鬼偏執】が切れる。
すると自分の抑え込まれていた感情が一気に溢れ出す。
腕を引き千切った感触、足を毟り取った感触、肉が焼かれる匂い、度重なる悲鳴。
今まで快楽と認識していたそれらが、一斉に逆転し、吐き気がしてくる。
胃の中の物を全て吐き出し、ようやく頭が正常に動き出す。
「相変わらず、反動が凄いな……」
いつもの心の反動からくる気だるさと、グロリアから受けた傷を合わせた反動が大きく、俺は座り込んでしまう。
落ち着くまで少し状況を整理しておこう。
魔王は王女を連れて西の方に逃げ出した。
王都は争いの音も落ち着いている、グロリアも倒したし、ここはとりあえず平気だ。
体の傷は追いかけている内に治るだろう。
「タクトくんにしては、大分派手にやられたみたいだけど、立てるかな?」
何か来ていると思ったけど、メイサだったか。
そしてその背後にはフランとノノ、そしてシスがいた。
「お前らまでなんでいるんだよ、アーガスはいいのか?」
「はい。、無事に終わりました」
「シュリの眠る場所も教えてもらったしな」
「本当に大変だったんですからね」
急ににぎやかで空気が弛緩した。
三人共体は汚れ傷だらけになっているのに、どこか楽しそうで、そんな三人を見ているとフッと反動は無くなり、穏やかな気持ちに戻ることができた。
「感動の再開はわからなくもないけど、僕が来たのは彼女達を連れてくるためじゃない。王女様が攫われたらしいんだけど、知らないかい?」
「知ってる。魔王が連れて行った。これから追いかけるつもりだ」
「それなら僕も連れて行ってくれ、足手まといにはならないよ」
「私達も付いて行きます!」
メイサが同行を進言すると、ノノも勢いよく手を挙げた。
「悪いけど、メイサだけの方が……」
「お二人が洗脳を受けたらどうしますか? 魔法で閉じ込められたら? そんな時フランちゃんが必要ですよね?」
「ああ、そうかもな……」
「王女様を助け出すとき、お二人だけで逃げられますか? 魔王を抑えて魔族と戦う。そんな危険の渦中に王女様を置いておくつもりですか?」
「そうだな」
ノノに言いくるめられている自覚はあるのに、反論が出てこない。
メイサに視線を向けると、肩をすくめている。
「わかったよ。連れて行く」
メイサが反論しないということは、おそらく三人は足手まといにはならないということだろう。
俺がいない間に何があったのかわからないけど、メイサが認めるくらいの何かがあったのだろう。
「それで、どうやって追いかけるの? 僕は走ってもいいけど、この子達じゃ追いつけないでしょ?」
「それだと遅い。メイサは三人を守ってやってくれ、本気で追いかけるから【プロテクト】【アーリー】【ウィンド】」
三つの魔法陣が発動する。
二つは自分に、そして一つは四人に発動する。
防護の魔法は球状に四人を包み込み、風や重力からみんなを守る。
そして加速と風の魔法で俺は宙に浮く。
「タクトくん、この状況ってもしかして僕もお荷物扱いなのかな?」
「喋ってるとした噛むぞ」
全員が口をきっちりと閉じたことを確認し、全力で飛び出した。
音速の壁を壊しながらの全力飛行だ。




