我の最高傑作、グロリアだ
「名乗りも終わった。そろそろ実験を始めようか」
ヴァルグロはそう言って元勇者に手を伸ばす。
「させねえ!」
「イミュニティーよ、時間を稼げ」
伸ばした手を切断するが、即再生されてしまう。
鬱陶しそうに顔を歪めた魔王がイミュニティーを呼ぶと、即座に大量のイミュニティーが姿を現す。
全身を白い衣装で包んだ魔族の群れが、一斉に俺に襲い掛かってくる。
「鬱陶しいなこいつ等!」
剣を振るっても瞬間移動で当たらない。
仮に当たってもこの量が相手では焼け石に水。
向こうの攻撃は当たっても痛くはないが、向こうの思惑通り時間だけが無駄に過ぎていく。
イミュニティーの奥では魔王が元勇者に手をかける。
「今の勇者よ、魔族が生まれる瞬間を見たことがあるか?」
「なっ――!」
その言葉と共に、元勇者に魔王の魔力が流れていくのが見えた。
このままだと拙い、【物換星移】で場所を入れ替えないと。
しかしイミュニティーの群れが邪魔をしているせいで、二人の姿見えない。
それならと槍を手にかけるが、構えた直後にイミュニティーが自ら槍に刺さりにくる。
そのまま斧に手を触れても全て防がれてしまう。
「知っているぞ、お前が入れ替わろうとしていることも、我をそのまま殺そうとしていることもな」
「それなら正面突破しかないだろ!」
時間が無いと一点突破を仕掛けるが時既に遅く、俺の突進は元勇者に止められてしまう。
それどころか、攻撃も仕掛けてくる。
前蹴りから掌底、更に蹴り、イミュニティーの投擲。
今までの魔族よりも強力で俺にもダメージを与えられるほどの攻撃。
「残念だったな、魔族の勇者になったそれを止められるか?」
「楽勝だよ!」
今の攻撃からしてまだ俺の方が強さは上だ。
問題はこいつがスキルを使えるのかどうかだな。
剣を改めて握り直し元勇者に切りかかるが、当然の様にイミュニティーが盾になり元勇者に届かない。
先にイミュニティーを倒そうにも、次から次へと湧いてくるせいで一向に数が減らない。
持久戦に持ち込まれるのは辛いな。
「【ファイアボール】」
俺は距離を取り、数百の魔法陣を展開し敵を包囲し、瞬間移動をしても意味がいない程の数を全てを放つ。
数多の爆撃にサンダーバードも巻き込まれ、悲鳴を上げながら高度を下げていく。
そして煙が晴れた中立っていたのは、不死身の魔王と魔石に変わったイミュニティー、そして全身を防具で固めた元勇者だった。
「これで邪魔はいないだろ!」
「我らが勇者グロリアに勝てると思っているのか?」
「それがそいつの名前か?」
「元の名前を忘れてしまったのでな。急ごしらえだがいい名前だろ?」
人間の名前なんて覚える必要は無いってことかよ。
元勇者は手に持った巨大な剣をこちらに向け、距離を詰めてくる。
振り下ろした一撃を受け止め武器を破壊する。
俺と同じスキルを持っているなら、防具は壊せなくても武器は壊すことができる。
しかし、元勇者の手には壊れたのとは別の剣が現れている。
そしてそれは反対の手にも握られており、不意を突かれた俺はそのまま切られてしまう。
「それは一体なんだ?」
「グロリアのスキルだ。どうやら渡されるスキルもバラバラのようだな」
無限に湧き出る武器ってところか。
それがわかれば別に問題はない。
そんで、スキルがバラバラっていうなら、あの防具も壊せるかもしれない。
今度はこちらから仕掛ける。
向こうの剣を弾き飛ばし、懐に潜り込み全力で剣を振るう。
鎧に触れる確かな感触を手に受け、そのまま振りぬく。
鎧が砕けた感触が手に伝わるが、その後は空を切ってしまう。
鎧を脱ぎ捨てたらしく、間合いの外に元勇者が移動していた。
そしてその体には新しい防具が装着されている。
「やはりグロリアよりお前の方が上みたいだな」
「そうみたいだな。このままやったらお前の負けだぞ」
「そうでもないさ。グロリア、これを飲め」
ヴァルグロの手には召喚結晶が握られていた。
ヤギ頭の事を思い出す。
ただのアイドウロンで力があれほど増したなら、ヴァルグロが持っている魔族の召喚結晶を飲んだらどうなるかは自明だ。
手に負えなくなってしまう可能性の方がデカい。
俺はサンダーバードが悲鳴を上げるほどに踏み込む。
サンダーバードが痛みと共に大きく揺れ、魔王は手から召喚結晶を地上に落とす。
「それだけはさせねぇぞ」
「何をしようとしたのか知っているのか」
「知ってるから阻止してんだよ」
魔王の体を一刀両断し、すぐに元勇者に攻撃を仕掛ける。
俺の攻撃は防具を身代わりに全て防がれてしまう。
どうやらあのスキルは武具を生み出し、生み出した武具に換装できるらしい。
しかも新しく生み出した武具が能力を発言しているらしく、俺の【鴉雀無声】が通用しない。
こちらの攻撃も向こうの攻撃も通じず、泥仕合でしかない。
焦りが増えるこちらに対して向こうは余裕を見せている。
時間を稼いで何をするつもりだ?
考えを巡らせる俺の視界が唐突に変わる。
目の前には誰もいないが、サンダーバードの背に乗っていることは変わりない。
「【ボム】」
足元に魔法陣が浮き上がり、その周囲には俺が倒した魔石が散らばっている。
魔法陣に呼応するように魔石が一斉に輝く。
周囲を白く染める閃光、耳を劈く爆音、風すらも感じない炎熱、鼻の奥に痛みすら感じる噴煙。
一瞬の爆発に俺の感覚が封じられる。
これを待っていたのか?
どこからくる? どこから攻撃を仕掛けてくる?
身構える俺に反して魔王も元勇者も攻撃を仕掛けることはしてこない。
それからどれくらいの時間が経ったのかはわからないが、ようやく俺が周囲を感知できるようになり、俺は目を疑う。
「やあ、勇者殿。ようやくこちらを見てくれたな」
目の前に居たのは魔王と元勇者ではなく、魔王と怪物だった。
足だった部分は無数の蛇に変わり、八メートルを超える巨体を支え、腕は他のアイドウロンの物が全部で十対、皮膚は固いドラゴンの鱗、頭部のみは元勇者のままなのに、その事実が何よりも歪で恐ろしい。
「我の最高傑作、グロリアだ。どうだ、美しいだろ?」
「醜悪で吐き気がするよ」
「そうか、それならやれグロリア」
グロリアは深淵を体現した様な真黒な瞳で俺を見つめる。




