原初の魔王だ
王都から一斉に悲鳴が聞こえ始める。
あまりに突然の魔族の襲来に全ての住人が悲鳴を上げる。
そして俺達の前にも二体の魔物が落ちてきた。
人間の魔族と獣人の魔族、俺達を挟むように立ち、にやにやと口角を持ち上げどう嬲ろうかとこちらを見ている。
「その女共を差し出せ――」
声を出した魔族の首を切ると魔族は黒い霧に変わる。
すぐ反対に居る魔族に向かうが、すでにシスによって倒されていた。
「お前強いんだな」
「これでも七百年魔力を溜めてるから。このくらい楽勝」
フランとノノが心配だったけど、これなら俺は魔王をぶっ飛ばせるな。
ウィルさんから貰った剣もどこまで持つかわからない、確実に倒すためには武器が必要か。
「一度アーガスの店で武器を補充する」
「私が武器になってやるぞ?」
「周りを見ろ、魔族が多すぎる。お前にはフランとノノを守ってもらいたい。二人はシスと一緒に行動して町の人を救え」
全員が頷き、俺達はアーガスの店に向かう。
店の前に現れた魔族をシスが倒し、四人で店の中に入る。
「武器をを数本お借りします」
「おい、お前等勝手に店のを持っていって何を――」
「魔族を倒します」
ノノはそのまま槍と斧を棚から持ってきた。
「投擲用ではないですが、お兄さんなら問題ないですよね? 後は何が必要ですか?」
「俺は大丈夫だ。後は盾を構えて待機、俺は十三番隊の宿舎に向かう」
「わかりました」
必要なことを伝え終わり、俺は屋根の上に昇る。
今なお空から降りてくる魔族を何とかしないといけないな。
数はそれぞれ五百あればいいだろう。
「【ファイアボール】【アイスボール】【サンダーボール】【ウィンドボール】」
四種五百ずつの魔法陣が周囲を埋めつくす。
地面に着く前に全部叩き落す。
魔法陣から、炎、氷、雷、風四種類の魔法が一斉に放たれ、空にいる魔族を全て打ち落とす。
次は地面に居る奴らか。
「【スキャン】」
俺の足元から生まれた魔法陣は、一気に広がり王都全てに広がる。
魔法陣が触れた物が俺の頭の中に流れ込み、魔族だとわかる全てに魔法をぶつける。
「やっぱりタクトくんか、随分派手にやったね。それで私は何をすればいいのかな?」
「住人の避難と討ち漏らした魔族の討伐を頼む。俺はあれを何とかする」
「手伝おうか?」
「必要ない【ウィンド】」
派手に魔法を使ったおかげで予想通りメイサがこちらに来てくれた。
必要なことを伝え終わり、俺は風の魔法を使い体を浮かせ、サンダーバードの元に向かう。
途中でなおも降り注ぐ魔族を何体か打ちながらサンダーバードの背に乗る。
そこに居たのは数えるのも嫌になるほどの数のイミュニティーと魔族。
人間、ドラゴン、スライム、獣人にエルフやドワーフ。
多種多様な魔族がサンダーバードの背で出撃のタイミングを待っていた。
「魔王はどこだ?」
「教えるわけ――」
ドワーフの魔族の首を一撃で切り落とす。
同族の体が黒い霧になったことに怒り、魔族の群れが一斉に突撃してきた。
一太刀につき二体倒す。
魔法を交えながら波の様に押し寄せてくる魔族を全て倒していく。
サンダーバードの背中が魔石で埋め尽くされる頃には、魔族は恐れから攻撃の手を止めていた。
「俺は魔王に用があるんだ。いい加減出してくれるか?」
「【コンテインメント】」
魔法を唱える声と共に、大量に残っていた魔族は一瞬で姿を消した。
誰もいなくなった奥から一人の男が姿を現す。
俺よりも少しだけ背の高いその男は、驚くほどに線が細い。
しかし闇の様な漆黒の短い髪、真黒な眼球の中心にある瞳は血のように赤。
その目で見られるだけで、鳥肌が立つほどの殺意を隠す気は一切ない。
「お前がヴァルグロでいいんだよな」
見た目はいつもの魔王と変わりはない。
それなのにこの殺意のせいで、いつもと違っている気がしてしまう。
「我の名を知っているということは、初めてではないわけか。何度目だ?」
「何を言っているんだ?」
「そのままの意味だ。お前は何度転生してここにたどり着いたのかと聞いている」
こいつは何を知っているんだ?
というか、なんで知っているんだ?
今まで一度もそれを魔王から聞かれたことはない。
だから魔王は俺達の事情は知らないと思っていたが、違うのか?
「我はお前達勇者がなぜいるのかを知っている」
「それなら俺が何故ここに居るのかも知ってるよな」
お前達? フランやノノ達の事じゃないよな、だとしたら達ってのは誰の事だ?
嘘を吐いてこちらの情報を聞こうとしているのか?
「お前の様子からして、他の世界の魔王は何もしていないってことか」
「それならお前は何をしたんだ?」
他の世界の事も知っている?
異世界を渡れるのか? そんなイレギュラーな魔王を神が放っておくとは思えない。
「それはこいつから聞いたんだよ」
魔王は召喚結晶を割った。
そこから飛び出して来たのは一人の人間だった。
俺と近い年の男子が力なく地面に倒れ込んでいる。
すでにこと切れているのかそいつは指一本動かさない。
「我を倒すために来た最初の勇者。いわばお前の先輩だな」
嘘だ……、嘘だと信じたい……。
でも、そこに倒れている男子の姿が自分と被ってしまう。
こんな顔どこにでもいる。
アジア系の顔、十代の男、元の世界にもこの世界にも普通に存在しているその姿が俺と重なる。
「こいつを拷問して、薬を飲ませ、魔法を使い全ての情報を聞き出した。神と呼ばれる奴から貰ったスキルも魔法も全て。その結果壊れてしまったがな」
足で勇者を蹴るその姿に俺は駆けだす。
考えるよりも先に足が動く、手が動く、魔王を殺すという殺意だけで俺は動いた。
俺の剣は一度の攻撃で魔王の体を三等分に切った。
「数多の魔王を倒したお前なら知っているだろう? 心臓を壊さなければ我は殺せない」
切った先からすぐに修復する。
「うおおぉぉおお!!」
二度、三度と剣を振るうがいくら魔王の体はすぐに再生する。
「幾度も転生を重ねた勇者に改めて名乗ろう。我が名はヴァルグロ、全ての世界で最も早く魔王となった原初の魔王だ」




