一人だと耐えられそうになかったんだ
みんなの所に戻ろうとおもったが、よく考えたら集合場所も決めていないことに気がついた。
仕方なく最初に分かれた路地裏に戻ってみると、フランとノノがどこかで買ったらしいパンを食べながら談笑していた。
「よかった。ここにいなかったらどうしようかと思ってたよ」
「お兄さんが待ち合わせ場所を決める前に跳び出したんですよ。なので仕方なくここで待ってたんですからね」
「悪い悪い、すぐに見つかると思ってたんだよ」
不満がありそうなノノにとりあえず謝る。
二人が食べている間に大体の事情を聞くと、アーガスが営んでいる店を見つけることができたらしい。
若い夫婦で経営しているらしいく、話を聞こうとしたが、シス自身が全員一緒の方がいいと言ったため俺を待っていたらしい。
「話を聞くくらいなら別に俺はいらないだろ。俺がいても役に立たないだろうし」
「彼女も思うところがあるのかもしれませんよ。勝手な想像ですが、シスさんは私達にも話を聞いてもらいたいんだと思います」
「訳ありってことか……」
ノノがそう感じたならそうなんだろう。
エルトアの様に心は読めないだろうが、それに似た何かをノノはそういう機微に対しては敏感だ。
「それでシスはどうしたんだ?」
「シスはタクト様も見つけていた場合のためにお店の前で待っています」
「そんじゃ、その武具屋に向かうか」
†
アーガスの店は大通りから一本外れた住宅街にあった。
鍛冶なんかもするはずなのになぜこんなところなのかと思ったが、店の名前を見て納得した。
アーガス金物店。
武器を売っているのではなく、日用品などを扱っている店。
確かにこれは訳ありなのだろう。
「遅かったな」
「悪い、俺も探してたんだけど見つからなくてな」
向かいの家の屋根から飛び降りてきたシスと軽く言葉を交わす。
俺にもわかるほどにシスは落ち込んでいた。
「では、行きますよ」
ノノの言葉にシスは刀に姿を変え、フランに抱えられる。
店の中に入ると、看板通り金物で溢れていた。
燭台なんかの日用品に包丁の様に台所用品、その奥にわずかばかり剣や盾などの武具が置かれている。
とてもシスの様な刀を作り出した人の子孫とは思えない。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
俺達が中に入ったことに気がついた若い男性が店の奥から顔を出す。
藍色の髪は短く刈られ、優しい目をした好青年。
その男性が出てきた奥の部屋からこれまた人の好さそうな女性が軽く会釈をしている。
「初めて見ますが、最近この辺に越して来た方ですか?」
「いえ、少しこの刀についてお話を――」
「帰ってくれ!!」
ノノがシスを持ち話しかけた瞬間、店が震えるほどの大声で怒鳴られてしまう。
さっきみた優しい笑顔は完全になりを潜める。
奥から女性が顔を覗かせるが、男性は手で制し俺達に明らかな敵意を向けていた。
「あの、少しお話を――」
「出て行けと言っているんだ!! そんな呪われた刀をここに持ち込むな!」
ノノは何とか食い下がるが、それでも男性は聞く耳を持たず、ひたすらに出て行けとしか言葉を発さない。
これは無理だと悟り俺達は店を出た。
そして男性に睨まれながら路地裏に入る。
「シス、あれは一体なんだ? 聞く耳持たないってレベルじゃないぞ?」
シスは人の形に戻り「やっぱりだめか」とつぶやき地面に座り込んだ。
「金物屋になってる時点で気づいてた。やっぱり私はどっかの山奥でひっそり暮らしていた方がいいんだろうな」
「勝手に黄昏てんじゃねぇよ。こっちは初対面でいきなり怒鳴られたんだぞ。コミュ障にとっては大ダメージだ。フランを見てみろ」
フランは店を出てから一番ショックを受けていた。
薄っすら涙を浮かべながら小さくなってしまっている。
「急に怒鳴られるとこうなるんだぞ。自分何か怒らせることしちゃったかな? あれかな、これかなってひたすら悩むもんだ」
「それはすまなかった。本当にすまないと思っている。ただ、一人だと耐えられそうになかったんだ」
フランに続きシスまで落ち込んでしまい、ノノに肘で押され俺も反省した。
「それでシスさん、何がどうしてああなったのか聞かせてもらえますか?」
「よくない話なのはわかってる。お前を呪われた刀って言ってたしな」
「それなのに話を聞きたいのか?」
「私はシスのお話聞きたいよ。それでシスが悪いなら私はシスを謝らせる。逆ならさっきの人に謝らせる」
「お前はまだ俺達に何も話してくれてないだろ。なんでアーガスって人を探していたのかも知らないしな」
どんな話でもいいから聞かせろと迫る俺達に観念したのか、シスはぽつぽつと今までの事を話し始める。
†
始まりは七百年くらい前、私がこの世に生まれたころの話だ。
私を生み出したのはシュリ・アーガスという鍛冶師だった。
出不精の彼は伸ばしっぱなしの藍色の髪をいつも後ろでまとめ、髭も伸びっぱなしでとてもではないがカッコいいとは言えない見た目だった。
なんて汚い人なんだろうと生まれてすぐに私は思っていた。
「いい刀ができたな」
私を持ち上げたシュリは子供の様に純粋な顔で笑った。
「おい、ガレット。見てくれ俺の最高傑作ができたぞ」
シュリがそう呼ぶと扉の向こうから子供の手を引いた女性が現れた。
女性の名前はガレット・アーガス。
シュリの妻で金色の髪がとても綺麗だった。
子供の名前はトルク・アーガス。
二人の子供でガレットのおかげかとても可愛かった。
「本当に綺麗な刀ね。そんな綺麗な刀で折れてしまわないかしら?」
「これからその試し切りに行く」
妻と子供の前なのに、シュリは新しいおもちゃを買ってもらった子供の様にはしゃぎ外に出た。
試し切り用の巻き藁を準備し、シュリは私を振った。
何の抵抗もないまま巻き藁を通過した私に、二人は大喜びだった。
「これなら王国軍に献上する武器も問題ないだろう」
「そうね。この刀が量産できれば王国お抱えの鍛冶師にもなれるわ」
「そうだな。国から援助があれば施設も拡張できるし生活も楽になる。そうなればお前の負担も減らしてやれる」
二人は手を取り本当に嬉しそうだった。
この二人の側を離れるのは少しだけ嫌だったが、二人が喜んでくれるならそれでもいいと思っていた。
できれば私を大事に使ってくれる人が良いな。
そう思っていた。
それから数日が経ち、異変が起きた。
私が魔力を溜め始めた。
「この刀をすぐに壊さないと私達は殺されてしまうわ!」
ガレットのそんな言葉が私にまで届いた。
なんで壊されるんだろう、昨日まであんなに手入れをしてくれていたのに。
「刀がモンスターになってしまえばたくさんの人が死ぬのよ。そうなればあなたへの非難は免れないの」
私がモンスター?
ここ数日の間で試し切りとして私はモンスターを切ったこともあった。
不気味な目ををした狂暴なあいつらに私はなるらしい。
それは嫌だったし、そうなる前に壊れるならそれはそれでいいかと思っていた。
でも、口も利けない、自分で動くこともできない私は二人が決めたことに従うことにした。
「わかっている。それでも俺は自分で作った子供達を殺したくない」
鍛冶師としての矜持なのか、シュリは自分が作り上げた物を壊すことはしなかった。
何も切れないなまくらな武器も、紙の様な脆い盾も彼は大事に保管し手入れをしていた。
「わかりました。私もあなたのそういうところが好きで夫婦になりました。あなたがそういうならあの子は守りましょう」
その時のガレットの言葉が私の中に響いた。
力強いその言葉が何よりうれしかった。
「そうなるとあの子はどこかに隠す必要があります。たとえあの子がモンスターになっても、誰も殺めないようにあの子を隠しましょう」
そしてシュリは私を大事に抱え、ガレットはトルクの手を取り、炉に使う薪を保管する山小屋に私を隠した。




