笑って言えるように
「お前達、少し私に付き合ってはくれないか?」
宿舎を出ると、シスは刀から人の姿に変わった。
相変わらず見た目は完璧なのだが、中身が面倒くさがりで性悪だと知っているせいか、いまいち美人だと思えなくなってしまっている。
「私は大丈夫だよ、シスは王都に来たかったんですもんね」
「私も構いませんよ」
「暇つぶしになるなら別にいいぞ」
「そうか助かる。私一人ではおそらく話もしてくれないだろうしな」
随分としおらしくなったものだ。
大通りに出る気にはならず、俺達は路地裏でシスの話を聞くことにした。
「私はアーガスという者が経営している武具屋に行きたいんだ」
「そこには何かあるのか?」
「私を作ってくれたシュリ・アーガスの子孫がいる」
要は製造者の子孫に自分の姿を見せたいってことか。
それくらいなら暇つぶしにはなるだろうな。
「お兄さん、それくらい楽勝だぜ。って顔してますけど、一人では探せないでしょう?」
「何を言う、俺だって屋根の上から店を探すくらいできるぞ」
十三番隊の宿舎を探している時にわかったが、やはり探し物は上からに限る。
視野も広くなるし遠くまで確認できる。
「そうですかそれなら先に行ってください。私達は宿を取ってから探し始めますから。それで待ち合わせ場所ですが――」
「それじゃあ行ってくる。【トランスペアレント】」
俺はそのまま高く飛び、アーガスの経営する武具屋を探し始める。
「この町で一番高い所から探すか」
俺は一際背の高い塔に昇る。
他の建物の三倍はありそうな時計塔は、王城の敷地の近くに設置されている。
その高さは、王の住む城よりも高く、町の隅々まで見渡すことができる。
簡単に王城に侵入できそうだが、時計塔の下には複数の警備員が待機しているし、今までの経験から言って確実に守護の魔法がかけられているはずだ。
一瞬壊して侵入してみようかと思ったが、面倒事になりそうだし目立つので止めることにした。
そんなことよりも、眼下に広がる町を見ている方がいい。
網目状に広がる道、規則正しく並ぶ建物、道を彩る人々、所々流れが滞っているのはおそらく喧嘩か何かだろう。
中に入るのは嫌いだが、こうやって外から眺めるのはとても気分がいい。
「誰かいらっしゃいますか?」
突如屋根の下、時計塔に併設されている展望台から女性の声が聞こえてきた。
彼氏と待ち合わせか?
あの警備を突破するとはどこかの盗賊同士の逢引かもしれない。
だとしてもこんなところでデートとはムカつくことこの上ないな。
「屋根の上ですね。下りてきてくれませんか?」
そんなやんちゃなことする男でもモテるのか……。
いや、結構品がありそうな話し方だから大人に思ったけど、もしかしたら子供なのかも知れない。
「私はもう子供という年齢ではありませんよ」
えっ、俺の声が聞こえてる?
流石にそんなはずは――。
「聞こえていますよ。どなたかは存じませんが、少し一緒にお話ししませんか?」
どうやら俺の心が読めるらしく、そうなると俺がここにいても意味はないだろう。
俺は屋根から降りた。
そこにいたのは美しい女性だった。
処女雪の様に白く綺麗な肌は意匠の施された白いドレスよりも美しく、長く艶のある純白の髪は太陽の光を反射しきらめき、時計台を吹き抜ける風になびいている。
それほどまでに美しい女性の目は、魔法陣の書かれた布が眼帯の様に覆っている。
その魔法陣は見覚えがある、たしか魔力を抑える魔法だ。
「よくご存じですね。装着者のMPを使用し永続的に効果を発動する魔法です」
「えっと、聞いていいのかわからないが、あんたは罪人か何かか?」
どうせ心を読まれるなら直接聞いた方がいいだろうと。不躾だと思いながら聞いた。
そんな風には見えないが、心を読めるならいくらでも犯罪の手立てはある。
「違いますよ。私は、エルトア・ヨルセウスといいます。よろしくお願いしますね、如月拓斗さん」
「そこまで読まれるとは思ってなかったよ」
心を読むのは表層だけじゃないってことか。
今まで出会った連中の中でも上位に来るほどの魔力を持っているのか。
「本当に勇者様っていらっしゃるんですね」
「そこまで俺の正体を暴かれるとこっちとしては楽だけどな」
わざわざ言葉を選んで話す必要もないってのは、個人的に助かる。
だけど驚きのあまり向こうの事を聞き忘れてしまった。
「そうでしたね。改めまして王族ヨルセウスが長女エルトア・ヨルセウスと申します」
「王女様か、通りで物腰が落ち着いていると思ったよ」
気品や雰囲気は確かに王族然としているが、もしかしてこの世界の王族は魔力が異常に高いのか?
「違いますよ。私が異形なのです、これは異形を抑えるための拘束具です」
王女は諦めにも似た微笑みを浮かべ、そっと自分の眼帯に細い指が触れる。
異形とは何かを聞いてもいいのだろうか?
もしかしたら場合によっては手伝えるかもしれない。
「そうなった理由、聞いてもいいか?」
これはしっかりと声に出さないと失礼になるような気がした。
「はい。ですが、あまり面白い話ではありませんよ」
「そういうのには慣れてる」
「十三年前私は森で魔族に攫われました。お母様の大好きな花を摘むために森に入りました。私と護衛の方々で籠一杯に花を摘み、そろそろ帰ろうかと思っていました」
続きを口にしようとする彼女の肩が震え始めた。
失礼かと思いながらも、俺は王女の手を握る。
氷に触れたかと思うほどに冷え切った手が俺の手を強く掴む。
すると少しは恐怖がまぎれたのか「ありがとうございます」と頭を下げてから話を続けた。
「その時奴らは現れました。禍々しい五体の魔族が現れたかと思った直後、周囲が……、周囲が、血に染まりました……」
その光景を思い出したのか、顔からは血の気が引いていた。
やめさせようかと思ったが、今なお強く俺の手を握る彼女を見て俺は次の言葉が出るのを待った。
最後まで聞き、俺が必ず魔王を倒すと、辛い過去を辛かった過去だと言えるようにするといってやろう。
「一体の魔族が、私に近寄ってきたところで私の記憶はありません。その後、私は玩具にされたのか実験に使われたのかわかりません。気がついたら私は異常な程の魔力を持った状態で城に居ました。そして魔族に穢された王女として王位継承権のはく奪、今は周囲には死んだとして奥座敷に軟禁されています」
「軟禁って、それならなんでここにいるんだ?」
「フフ、カッコいいこと言ってくれるんじゃなかったのですか?」
「まだ、最後まで聞いてないだろ」
なんかいいように手の平で遊ばれている感じだ。
「こんなところにいるのは魔法でたまに抜け出しているからです。といっても抜け出していることはバレています。今私が来ることができるのは遠くてもこの時計台までですから」
王や王妃も悪人ってわけじゃないのか。
軟禁というよりも人の手が届かない所に隠しているということか。
「それでは私はそろそろ戻ります。拓斗さん、魔王を倒してくださいね。私が今を辛かったと笑って言えるように」
先回りで言われてしまうと、反応に困り俺は頭を掻くくらいしかできない。
「そうだ、アーガスって人がやってる武具屋を知らないか?」
「ごめんなさい、私にはわかりません」
そう言えば眼帯をしてるんだった。
ここによく来るらしいから知ってるかと思ったけど、眼帯をしているから周囲は見えているはずはないのか。
悪いこと言ってしまったな……。
「お気になさらずに、目で見えなくてもあなたの声は聞こえていますから」
そう言って王女は、見えているかのように躊躇いなく階段を下りて行った。
見つからないし、そろそろフラン達と合流するか。




