王都に行くのか?
目の前で眠っているこの剣をどうすればいいんでしょうか?
「剣さん、私の話を聞いてもらえませんか?」
「何? 私はここで寝ていたいの、涼しくて魔力に溢れてるここから出たくない……」
剣さんはだいぶ面倒くさがりの様です。
「私達この町から出たいんです。お願いしますから私達を解放してください」
「勝手に出ればいいじゃない。別に私は出られない細工はしてないし」
「それ本当ですか?」
「そんな面倒くさい嘘吐くわけないだろ」
剣さんの言うことが本当なら、町の出入り口を封鎖しているのは別の人ってことになります。
「剣さん、私に力を貸してください」
「絶対に嫌」
「そんなこと言うとそこから無理に引きずり出して天日干しにしますよ」
私が脅しになるのかよくわからない脅しをすると、剣さんがふわりと浮き井戸から出てきました。
そして一瞬で剣から綺麗な女の人に変身しました。
雪の様に真っ白で、少し吊り上がった目は眠いのか半分だけ開いていて、とても綺麗でした。
そしてただ綺麗なだけでなく、剣さんは私どころかノノちゃんよりも圧倒的にスタイルが良いです。
大きめのワンショルダーのシャツからはおっぱいが零れそうで、ウエストもキュッと引き締まり、短めのパンツからは細く長い足が伸びています。
発育が遅いのは受け入れているつもりでしたが、この人の前だと発育が遅いというよりも発育していないんじゃないかと思ってしまいます……。
「あんたみたいなのに私を天日干しできると思ってるの?」
長い髪を鬱陶しそうにかき上げる姿が大人っぽくて、私には持てないであろう魅力が全身からあふれ出ています。
フラン・イクシル完全敗北です……。
「それじゃあ、私はまた寝るから出て行きたいなら勝手に出ていきな」
「待ってください!」
「何? もう面倒だからここで殺してあげようか?」
引き留めたのは良いけど、完全にノープランです。
何とかこの剣さんを仲間に引き入れないと先に進めない。
「門が封鎖されたままだと問題じゃないですか?」
「どういうこと?」
本当に何がでしょうか……。
「このままだと人は入ってくるけど出て行けないんですよ」
思いつくことを片っ端から言ってみればいいんじゃないでしょうか。
それっぽく言い続ければ相手が勝手に考えてくれるんじゃないでしょうか?
「そして普段なら気づくはずの違和感も、あなたのせいで疑問に思う人はいないんです」
「そうなるとこの町に人が溢れるってことね」
思い付きでしたが成功しました!
私には意外と演技の才能があるのかもしれません。
「後はわかりますよね。私達を手伝った方がいい理由」
私は全然わかりませんけど、この感じだと勝手に感じ取ってもらえるはずです。
「人口が増えてここの井戸を使う連中が増えるのは確かに私としても望まない」
そういうことらしいです。
説明してもらってありがとうございます。
「それなら私は時間を戻さなければいいのね。それくらいなら別に構わないわ」
「詳しくは日が昇ったらお伝えに来ます」
これ以上はぼろが出そうなので、話を終わらせると剣さんは再び井戸に戻っていきます。
よかったこれでなんとか王都に向かえるはずです。
†
翌日、いつものようにアレックスさんのお手伝いを終えると私達三人は昨日の井戸の前に立ちます。
「剣さん、来ました」
ふわりと現れた剣さんは地上に上がり変身します。
人間の姿にタクト様もノノちゃんも感嘆の声を上げます。
正直かなり悔しいですが、今はその感情は抑えておこうと思います。
「昨日の奴らか、それで小さい娘、私は何をすればいいんだ?」
剣さんは早くも面倒そうにしています。
この調子で問題ないのでしょうか……。
「お前は変な奴に何か心当たりはないのか? それがわかれば俺達は動きやすいんだけど」
「お前達以外でか? 悪いが私は井戸の底で寝てたからな、何も知らんよ」
けらけらと私達をおちょくりながら話し、タクト様が苛立つのがわかります。
「先にお前を壊してもいいんだぞ」
「やれるものならやってみろ、昨日と同じく眠らせてやるよ」
お互いに殺気立ち、一触即発な状況です。
「タクト様、剣さん喧嘩はやめてください。私達は早く王都に向かわないといけないんですからね」
「ほう、王都に行くのか?」
王都という言葉に剣さんは興味を示しました。
「興味があるんですか?」
「大ありだ! そうかそうか、それなら話は別だ。一刻も早く向かわないといけないな」
うんうんと首を何度も縦に振り始めました。
剣さんには王都に行く何かがあるのでしょう。
「それで小僧、さっき啖呵を切ったんだから何か作戦の一つや二つあるんだろ? さっさとそれをやって私を王都に連れていけ」
タクト様の何かが切れる音が聞こえた気がします。
本当に今すぐにでも剣さんを叩き壊しそうで心配です。
「タクト様、落ち着いてください。剣さんもなんでそんなに挑発してるんですか? 協力し合うんだからもっと対等に話し合いましょう?」
「ちっ! フランの話から規模と効果は広いうえに強力だ。こんな魔法を使える奴は魔力が高い奴に限られる。だから俺が索敵の魔法を使う。それで目星をつけた後その魔道具がまた眠らせて記憶を消す。これで騒ぎにもならず、俺達は相手の顔がわかる」
盛大に舌打ちした後自分のプランを話してくれました。
「悪くないぞ。だが、それはお前がこの町を覆うほどの大規模な索敵ができるならだけどな」
「大海を知らない蛙は滑稽だが、普通にムカつくな」
そう言って、タクト様は自分の体を中心に魔法陣を広げていきます。
それに気づいた町の人々は、攻撃魔法の準備かと悲鳴を上げ始めました。
「見つけた。俺達以外の記憶を消してくれ」
「わかったよ【半醒半睡】」
剣さんがそう唱えると魔法陣は発動せず、周囲から悲鳴が一つまた一つと消えて行きます。
タクト様の指示通り私達三人には効果は発動していないようでした。
「昨日もこうしてくれればよかったんですけど」
「嫌だよ。面倒くさいから普段はやらないし」
「そうなんですか……」
私はだんだんとこの剣さんについてわかってきた気がします。
この剣さんはかなりの面倒くさがりさんです。