本当にややこしくしてやがるな
私達がその場所に着くと、一人の男性が眠りについていました。
「この人なんですか?」
見たところ他の人とと変わりない気がします。
お顔は精悍で誠実そうで、髪や髭も整えられていて素敵におじ様と言った風貌です。
この人が門に魔法なんて仕掛けるのでしょうか?
「そうだな。明らかに怪しいしな」
「そうですね」
「えっ、そうなの?」
私にはとても素敵な男性に見えるのに、もしかして私だけ別の人を見ているのでしょうか?
「フランちゃんの疑問もわかるよ。王都にいるなら何も怪しくないからね」
私にはノノちゃんが何を言っているのかよくわかりません。
王都とここの違いってなんでしょうか?
「わかりやすく言うと、周りに比べてこいつは浮いてるんだよ。周りを見ればわかるけど、他の連中は土がついてたり動きやすい恰好だろ?」
タクト様に言われて周囲を見ると、確かにこの人の服装は綺麗すぎる。
しっかりと仕立てられた服で、カジュアルではあるけど気品があります。
「逆に領主だとしたら、安っぽいだろ? だからこいつはこの町の人間じゃない。それなりに高貴な立場なのに護衛の一人も無し。だから怪しいってことだ」
「納得しました」
確かにカジュアル過ぎてとても自分の治める民に見せる服ではない。
つまり町人でも領主でもないってことらしいです。
「そんじゃ、こいつを連れて行こうか」
タクト様は男性を抱え、人目のつかない場所に担ぎこみます。
なんでもこれから事情聴取を行うらしいです。
「おい、催眠を解いてやってくれ」
「魔道具使いが荒いな」
そう言いながら解除してくれました。
次第に周囲が騒がしくなってきました。
それから少しして男性も目を覚ましたようです。
「お前達は誰だ?」
目を開いた一瞬で状況を認識したらしく、すぐに私達から距離を取り構えました。
倒れている時はわかりませんでしたが、中々に身長が高く、強そうに見えます。
そして視線を一周させ、タクト様で視線を止めます。
「その動きはやっぱり国王軍の兵士か。門の所のあれをやったのは――、っていきなり攻撃はやめろよ」
流石国王軍と言っていいのでしょうか、素人の私が見ても綺麗な一撃をタクト様に向かい放ちました。
「俺達には攻撃の――ってやめろって! 話し合いを――」
矢継ぎ早な攻撃にタクト様は反撃せずに避け続けます。
あれはあれでまた凄いです。
私には線しか見えません。
「お前達みたいな怪しい連中に教えることは何もない!」
「なら俺が勝ったら解除してもらうぞ」
「やれるものならやってみろ!」
タクト様は何度か後ろに跳び、男性と距離を取ります。
そして距離を取ったのに今度は悠々と男性の元に歩いていきます。
何をするつもりなのでしょうか?
ただ真直ぐに向かうタクト様はさっきまで攻撃された位置まで近づいていきます。
それなのに男性は構えたまま微塵も動きません。
タクト様は何もしていないのに男性は激しく汗をかいているようです。
「あの小僧、中々面白いことをしているな」
「剣さん、何かわかるんですか?」
「純粋な力量差を見せているようだ。もうすぐのっぽは悪あがきをするだろうよ」
剣さんの言う通り、男性の体がわずかに動いたかと思いましたが、それよりも早くタクト様は男性の拳を受け止めます。
受け止めるというよりも攻撃する前に塞がれたという方が正しいかもしれません。
「次は蹴りかな」
剣さんが言う通り次は足が塞がれます。
男性は攻撃する前に封じられ、戦意が喪失している様に見えます。
これで決着がついたのでしょうか?
「ははっ、あののっぽ度胸だけはあるようだ」
そう言った次の瞬間男性が消えました。
いえ、吹き飛んだとかではなく、姿が見えなくなるほどにその場で風車の様に回転しました。
そして止まった時には男性はその場に膝を着きます。
「俺はタクト・キサラギ。俺達はただ王都に用があるんだ。だからあの門にかけられた魔法を解除してくれ」
「わかった。俺はシュバマグ・アインツィヒ。ここまで実力差があると、いっそ清々しいな」
門に向かう途中で全員の顔が歪みます。
「俺は本当にこれを使ったのか?」
アインツィヒさんは目の前にある魔法を見て驚きます。
「お前じゃないのなか?」
「いや、ここに魔法を使ったのは俺だ。昨日俺が人払いの魔法をかけた。でも、こんな強力な魔法じゃないぞ……」
「そういうことか……、やっと全部つながった。一度ここから離れよう。ここだと落ち着いて会話もできないからな」
私達は一度その場を離れ、ここに来てから何度通ったかわからない喫茶店に入りました。
「やっぱり原因はそこの魔道具だな」
タクト様は私の持つ魔道具を指さします。
「何回も同じ日を繰り返すってのは本当に厄介だな。フランの話だと同じ行動を何度も取ってしまう」
そこで私もノノちゃんも事情を理解しました。
理解できていないのは、今の事情を理解していないアインツィヒさんだけです。
「魔道具とか繰り返すとかどういうことだ?」
私達がこれまでの事情を説明するとアインツィヒさんも理解しました。
「つまり俺は魔法をかけたことも忘れ、何度も同じ魔法を重ねてしまったということか……」
アインツィヒさんは自分のやったことを悔やみ天を仰ぎました。
気持ちはわかります。
気づかないとは言え、誰もこの町から出られないように魔法を何重にも重ねてしまったのですから。
「助けを呼ぼうにも手紙も送れない……」
「おい魔道具、眠らせるのを止めれば俺達はあの魔法を解除するがどうする?」
「小僧、それはやめた方が良いと思うぞ。ここの住人は私が眠らせているからあの魔法に気が付いていない。それを止めるってことは、皆があの魔法に気が付くってことだ」
「本当にややこしくしてやがるな」
現状は最悪です。
助けも呼べず、助けが来ても一日で終わらせないと意味がない。
八方塞がりという奴です。




