ノノがどうするか悩んでたからな。
初めて見る現象に俺は戸惑っていた。
姿が変わる魔族は何度も見てきたが、こんな変化は初めて見た。
獣人が人の形態から獣の形態に変わる、猫の獣人が虎に変わる魔族も見た。
けど、ここまで異質な変化は初めて見た。
人型のまま獣への変化。
そしてあの魔族の周囲にある謎のヴェール。
断ち切ることは簡単だけど、これはこいつだけの変化なのか? それとも他の魔族にも可能性があるのか、それがわからない。
「メェェエエェェ!!」
信者に構うことなく暴れまわるヤギ頭は、周囲にある全てを破壊し続ける。
家も人も地面も全てを抉り破壊している。
これは観察している場合でもないな。
「まだ、足りない……、足りない!!」
ヤギ頭はそのまま近くにいた信者に食らいついた。
下半身だけになった元信者は地面を赤く染める。
「フラン、ノノ、見るな。見るもんじゃない」
二人に声をかけている間にもヤギ頭は信者を食い尽くす。
「ノノ魔族って全部ああなるのか?」
「わかりません。聞いたことは無いです」
「だよな。俺も聞いたことはない」
そうなるとこいつだけのスキルってことになるのか?
それなら一気に倒すしかないか。
俺はヤギ頭が使っていた戦斧を手に取り、ヤギ頭の前に出る。
「ジャ、邪魔、ドケ、どケ」
違うスキルじゃない。
わかりにくいが目の焦点も合っていないし、言葉遣いもおかしい。
「どけええェェエエ!!」
俺は持っていた戦斧で頭部を切り落とす。
その身を覆っていたヴェールはスキル【鴉雀無声】で無効化され何の抵抗もなく両断できた。
そんな致命傷を無視し、胴体だけで攻撃を仕掛けてくる。
戦斧を防御のため盾に使うが、一撃で破壊しそのまま地面を抉り取る。
「メェェ……!!」
「首を落とされたら大人しく死んどけよ……」
胴体だけが体を沈め、二度目の攻撃の準備をする。
そしてそのまま一直線に俺へ向かってくるが、胴体は俺の体に触れることなく黒い霧に変わった。
「ようやく終わりか」
今までの転生で一度も出会ったことのない魔族だった。
召喚結晶を飲み込んでの身体強化。
痛覚も無くなっていたみたいだし、言葉もおぼつかなくなってきていた。
完全なドーピングってことになるんだろうな。
「タクト様そろそろ出してください!」
こっちのことに集中してて解除するの忘れてた。
その後ハバリトスの信者たちは一人を除いて素直にお縄に着いた。
「これで全員だと思います」
死体の方はあまりの悲惨さに俺が処理をした。
「じゃあ、やっぱりあの司祭はいなかったんだな」
「はい。お兄さんが言っていた魔王は地上に存在するという話を伝えたら何かに気が付いたようだったので、おそらくそこに向かったんだと思います」
つまりハバリトスのお偉いさんなら魔王がいる場所に見当はつくってことか。
それなら魔王の本体を見つけるのは難しくなさそうだな。
それよりも問題はこっちか。
死体を片づけている間に拾ったヤギ頭の魔石が入った袋を見つめる。
こっちも明らかに普通じゃない。
非常に嫌なことだけど、これは王都に向かうしかなさそうだ……。
†
旅路を急ぐ必要があるため、俺達はハバリトスの信者たちをウィルさんに押し付け、アグリール王都に向かう馬車に用心棒として同乗することができた。
「あの、聞くタイミングを逃したんですけど……、なんで洗脳されていないんですか? それにフランちゃんといつあんな打ち合わせしてたんですか?」
「常に洗脳対策はしてるからな」
助かったのは【鴉雀無声】があるおかげだ。
洗脳対策に武器は常に携帯している。
小さな針の様なものでも武器として認識されるため、口の中や、髪の中に隠している。
「それとフランには最初の夜に会いに行ったんだよ。看守も一人だったしちょろっと魔法で眠らせて普通に抜け出した」
「その時に逃げればよかったじゃないですか」
「ノノがどうするか悩んでたからな。フランが説得するって言うから任せた」
ノノの心意もわからないし俺が説得するわけにもいかず、フランなら時大丈夫だろうと思って任せた。
「私って完全にピエロじゃないですか……。私結構葛藤してたのに……」
まあ結果として色々と知ることもできたから俺としては問題ない。
精霊結晶を使ったドーピングを魔族側は使ってくるのがわかったし、魔王の潜んでいそうな場所はハバリトスの幹部なら見当を付けられるらしいしな。
「最初から教えてくれれば、私はお兄さん側についたのに……」
「裏切られたからな、少しくらい仕返ししてもいいかなと思って。な?」
「はい。ノノちゃんを驚かせようとして頑張りました」
「二人の頑張る方向性が意味不明だよ……」
驚かせすぎてしまった感は正直否めないけど、まあ仕返しだしいいかと思っている。
「それで裏切ったはずの私はなんでまだ旅に同行していていいんですか? また裏切るかもしれませんよ?」
「それについては別に構わないかなってフランと話したんだよな」
「はい。審議の結果その時はその時だとタクト様と結論づけました」
「なんで裏切る可能性がある奴を側に置いておくんですか?」
呆れたような口ぶりでそう言って来たノノに俺達は自信を持って答えた
「「友達だから」」
俺とフランの声が重なるとノノは笑った。




