40 戻りたくないのにー!!
私は、王、ガシスに強引にお城に連れてこられた。
まさか、ガシスが、森にまで来るとは・・・・。
油断していたところがあった。
でも、本当に運が悪いなあ・・・。上手く行けば、アマノ王女も連れてこられたのに・・・っ!
と、ガシスは見慣れた部屋に私を入らせた。
そして、近くの者に「二人だけにしてくれ」と頼むと、一緒にいたはずの見知らぬ人たちがみんな、去っていった。
「アマノ、本当に探したぞ」
ガシスは真剣、そのもの。
いや、ちょっと待って。
え?こういうの、玉座の間とかで話すものじゃないの?
え?いつから、このシステムに??
「だから、私はアマノ王女じゃありませんって」
もう、呆れて反論した。
「じゃあ、お前は誰なんだ?」
おっ!やっとまともに聞き入れてくれそう!
「私は天野姫。異世界の者です」
・・・・・なんか、今更、自己紹介みたいになっちゃった・・・。
まあ、ずっと聞いてくれなかったからしょうがないけどね。
しかし、ガシスはなぜか、ムッとした表情になった。
「何を言う。やはり、お前はアマノじゃないか」
「なんでそうなるんですかっ!!」
また、この人は決めつけて・・・っ!
ホント、頑固っ!
本当の「アマノ王女」は今、森の中で変なことしてるのに・・・!
「だって、お前はいっつも言い訳をするときに『テンヤ』なんとか?・・って異世界の者だが、知らんが、
知らん人の名前をあげてごまかしてるじゃないか」
その「知らん人」はあなたの目の前にいますけど??
でも、それは初耳だなあ・・・・、私を都合のいいように使ってっ!
私はアマノ王女の分身じゃないから!!
まあ、顔そっくりだから、分身ぽいけどさあ・・・。
「でも、ガシス。本当のアマノ王女は先ほどの森にまだいますって」
「本当も何も、お前がアマノだろう?本当に懲りないな・・・もう、呆れたぞ」
あ~あ、アマノ王女のまいた種のせいで、呆れられちゃった・・。
そういえば、アマノ王女は私に迷惑なことしかしてない・・・。
バナナの皮といい、私を身代わりにするといい・・。
もう、私も呆れた・・・。
私が口を結んで何も言えなくなっていると、ガシスはこのすきをついて、今度は明るい表情で話し始めた。
「アマノ、もう逃げさせないぞ」
「だから、私は」
「紹介しよう!・・・新しい侍女だ!」
ガシスは、ちっとも言い分を聞いてくれない。
私の言葉をふさいでさえ、いる。
あ~あ・・・前と同じだ。
だんだん、思い出してきた。
だから、私が逃亡したのもうなずける・・。
「レイチェルだ」
ガシスは、奥にいた侍女を目の前に連れてきた。
え?・・・・・その前に、いたんだ・・・気が付かなかった。
そっか・・・・、メアイ、クビになったんだっけ。
新しい侍女-レイチェルは、そのメアイとちがい、可愛らしさがなかった。
少し、眉間に寄り気味の眉毛。
大きな釣り目、左は赤・右は黒・・・という、特殊な瞳。
ギザギザに切られた、セミロングの髪。
少し・・・・怖いな・・・。
「初めまして、レイチェルです」
『初めまして』と言いながら、雰囲気や声のトーンは、全然『初めまして』と歓迎していなかった。
声にすごみがあるというか、トゲがあった。
そして、明らかに私を警戒している―いや、違う。これは・・・睨んでる?!
私、初めて会ったけど・・・?
なんか、悪いことしたっけ?
あからさまにライバル感出してるけど?
「今日からメアイの代わりにアマノの侍女をつとめることになった。どうぞ、仲良くしてくれ」
「分かりました」
言ったのはレイチェル。
「じゃあ」
ガシスはそう言うと、静かに部屋を去っていった。
レイチェルはガシスがいなくなるまで、横目でとらえていたが、いなくなるのを確認すると、私をまた睨んだ。
「アマノ様、緊急の時だけ、私を呼んでくださいね。
言っときますが、緊急とは、このお城で火事や事件が起きた時のことです。甘えたりしないでください。
私はあなたのワガママに一切付き合うつもりはありませんから」
レイチェルは「フン」と鼻を鳴らすと、音を立てながら、歩き去っていった。
なんだろう・・・軽くつららを食らった気分・・・。
あの人、冷たいな・・。
でも、多分、レイチェルは「アマノ王女」だって勘違いしてるんだ。
いいよ、私はアマノ王女とは違うから・・。




