Ep2-3 そして弱者は咆哮した
対鮪戦、決着です
吹き飛んでいく妹が
バウンドする妹が
動かなくなった妹が目に入った瞬間、心が爆発する。
死、という言葉が俺の理性に亀裂を入れる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・!!」
なんで俺はもっと早く動けなかったっ!!
なんで俺はもっと強くなかったっ!!
なんで俺は、もっとましな奴じゃなかったっ!!
心の中に渦巻く後悔。そして自己嫌悪。
殺してやる
自分が情けなかった。
自分が恥ずかしかった。
こんな時でさえ、妹の事を思ってやれない自分が心底憎かった
殺してやる
目の前の鮪にかつてないほどの殺意を覚えた。
殺してやるっ!!
妹は俺を守ろうと敵わぬ敵に立ち向かった。
俺という家族を守るために命を懸けたのだ。
きっとそれは蛮勇と呼ばれる行為なのかもしれない。
だけれどもそれは正しい行為なのかもしれない。
家族を守るために己をかける行為が間違いだって、誰が言えるのだろう?
自己満足だろうと、自己憐憫であろうとも、俺はただ座してこの鮪に殺されてやるわけにはいかない。
当然だ、妹にした報いを受けてもらわなければならない。
それがいかに浅ましい行為であろうとも、
それが如何に愚かしい行為であろうとも、
俺はあがき続けて、そして今できる精一杯の行動を行わなければならない。
鮪に一矢報いなければならない。
体はぼろぼろで、ちょっと動くだけで激痛が走るが、無抵抗ではやられてやらない。
妹の行為を無駄にしない為に。
今、ここにいる俺という存在を無駄にしない為に。
たとえ短いかもしれない生を無為にしない為に。
鮪は妹を殺したと思ったのだろう。
そして新鮮なうちに食べようとしているのか?涎を垂らしながら妹の方に近寄って行っていいる。
当然、そんなことはさせられない。
自分を奮い立たせろっ!!
情けない自分は殺してしまえっ!!
奴を殺すために頭を死ぬほど回転させろっ!!
相変わらず自分の行動を決める指針がない。
例えば、こんな時ならばどう動く?自問自答する。
物語の主人公であったならば?
どう殺す?
激情に任せてとびかかろうとする俺の怒りを知識が押しとどめる。
こういった状況に陥っても、己の保身を考えてしまっているのではないか?自分を嫌悪してしまう。
だけれども、こういったときラノベの主人公はどうしてる?
心は熱く、頭は冷静に
そう、感情に任せて突っ走ってしまえば、例えどんな場面であろうとも勝利はないと思うべきだ。
冷静に、そして冷徹に分析するのだ。
見落としはないか?突破口はないか?
もう一度、真眼を発動する。
慌てていたら見落としがあるかもしれない。テストであれば何度も問題を見直して、見落としがないように注意することが基本だ。
そして俺は奇妙な点に気が付く。
名前
種族 陸鮪
職種 狩人
位階 LC
BLv 2
SLv 1
HP 40/40
MP 5/5
STA 10
ATK 8
DEF 4
MIN 1
INT 0
AGI 5
RES 2
FSE 2
極技
能力
魂源
ステータスが低下している?
なぜっ?
理由はわからない。だけれども弱体化している。
理由をあれこれ考えるよりも、倒すために頭を使うべきだ。
疑問は棚に上げ、改めて自分のステータスを見直す。見落としはないだろうか? 何かしらの希望はないのだろうか?
そして、俺はそれに気が付いたのだった。
経験値 176
途端にアザリーの言葉がよみがえる。
-特定方向に特化した能力じゃなく、万遍なくあらゆる方向に成長を促すための能力-
-何物にも染まらず、何物にもなれる能力-
-成長するために必要なコストは最小限-
そう、必要最低限のコストで成長することができる。
つまりは、最小の経験値を消費して最大限の成長することができる、という事だろう。
そう、やりようによっては逆転の目があるという事だ。
ならば、まずやるべきことは
こちらに注意を向けさせることだ。
妹に覆いかぶさるように立っている鮪。
今にもその牙が突き立てられる、その瞬間。
鮪の方に向かって石を蹴りつけた。
俺の手脚は短く、目で見て石を蹴りつけようにも確認をしながら蹴りつける、という事ができない。
だけれども、迷っている時間がなかったために祈りを込めて、力を込めて鮪に向かって意思を蹴りつけた。
祈りは通じたのか、鈍い音が鮪のいる方から響いてくる。
あれ?
思ったよりも強く蹴ることができたのだろうか?
ステータスを確認してみると鮪のHPは29まで激減していた。
まだ何も能力をいじっていない状態で、思いのほか、戦果を挙げられたようだ。
その戦果に疑問を抱く。けれども幸運と割り切る。注意を引く、という結果だけでなく体力を削る、という結果も得ることができたのだ。何も言う事はない。
当然のことながら、鮪の怒りはこちらに向く。
当然だろう。いまだに立ち上がる事すらできずにいる俺から多大なダメージをもらったのだ。その怒りは計り知れない。
再び鮪からのけりが入る。
殴られ、蹴られ、そして殴られる。
この期に及んでも鮪は甚振ることを優先しているようだ。少しでも鬱憤を晴らしたいのか?
執拗に繰り返される暴力。
手加減されている、しかし、痛みがほとばしる攻撃。
耐えろ、耐えるんだ。
能力はいじることができるようだ。
だけれども、俺には戦闘技術がない。
闇雲に飛び掛かっても避けられるかもしれない。
例えば、凶器を持とうとも戦いなれない人間が、戦い慣れた人間に襲いかかっても返り討ちに会うのが関の山だ。
ならばどうするか?
鮪が油断しているときに、最高の一撃でもって仕留めるしかない。
今は我慢だ。
何よりも、能力をいじる、という行為は思いのほか難しい。慣れていないというのもあるのかもしれないが、鮪を倒せる、と確信できるようにいじるのは時間がかかるようだ。特に痛みで集中できない、というのも理由の一つかもしれない。
時間を稼ぐ、という意味でも耐えるしかない。
一向にやむことのない暴力。
下がり続けるHP。
我慢に我慢を重ねているが、もしかするとこのまま死んでしまうのではないだろうか、そんな気持ちが湧き上がってくる。
我慢だ
絶好の機会?そんな場面はやってくるのだろうか?
我慢だ
一発逆転を狙い今からでも自分から襲い掛かるのがベストなのではないか?
我慢だ
どれくらい自問自答していただろうか?
どのくらい暴行を受けていたのだろうか?
自分のステータスを確認するとHPは一桁となっていた。
ぐったりとなり、痛みがない部分を探すのが難しい。
鮪は、荒い息を吐きながら満足そうにこちらを見下ろす。
そして嘲るように、見下すようにその牙をむき出しにした。
どんな場面でも冷静に。
そしてとどめを刺すかのようにゆっくり、ゆっくりと喉元に牙を突き立てようとする。
チャンスの時こそ、慌てず、冷静に。
まさに、この時が俺の待ち望んだ時だった。
俺に手足はなぜか短い。
普通に攻撃を仕掛けても、思ったように攻撃することができないだろう。
噛みつくにしても、自分から頭を差し出すのだ。失敗すれば一気に地獄へと一直線となる可能性もある。
ならばどうするか?
相手が油断している時を待つしかないだろう。
相手が最も油断する瞬間
それはとどめを刺すときだろう。
死に体になっている相手にとどめを刺そうとしている、その一瞬。
俺は、自分の上げた能力のすべてを相手にぶつける。
生きる意志を吠えるように。
妹の仇を吠え散らすように
その瞬間、俺の魂はステータスに新たなる職種を刻むのだった
職種 → 犬士
ATK 1 → 21(職種Bonus+5%)
AGI 1 → 21(職種Bonus+5%)
経験値 176 → 138
鮪の牙が、今まさにのど元を食い破ろうとした一瞬。
鮪の頭は手が届く範囲に存在した。
妹を甚振り、
そして俺を蹂躙した敵。
それでも、ただ攻撃を仕掛けたらよけられるかもしれない。
そうならない為にも、よけられる前にぶち込むためにも敏捷の数値を上げたのだ。
そう、この一瞬にかけ、その一瞬ですべてを終わらすために。
「~~~~~~~~~~~~~!!!」
声にならない声を張り上げ、右手を鮪の左ほほに向けて叩き込む。
全力で。最速で。全身全霊を込めて。
鮪の牙は俺の肌に触れはしたが食い込むことはなく
鮪の頬は砕け
そして鮪は真上の枝にたたきつけられた。
ドコォッ(パキィッ)
そんな音がしただろう。
真上から降ってきた鮪は、その首があらぬ方向を向き、息絶えた。
勝った。
それは戦闘ともいえない戦い。
自分自身の弱さが露呈した、愚かな一幕。
かろうじて生き残る事は出来た。
だけれども失ったものはあまりに大きかった。
やるせない気持ちを抱え妹の方を見る。
動かない体を鞭打って立ち上がる。
体重をかけると激痛が走る右腕をかばいながら、妹の方へと近寄って行った。
「ごめん・・・・・ご・・めん・・・・・・な・・・・・・・・・・・・」
もっと俺がしっかりしていれば。
もっと俺がましな奴だったら、きっと今頃、妹は元気に跳ね回っていただろう。
やるせない、情けない。
悲しみに暮れる俺の頬を、流れる涙を拭うように
妹は俺の顔をなめていた。
生きていた
そう認識した途端、心の中を色々な感情が駆け巡る。
「見捨てようとして・・・・・ごめんな・・・・・・」
変わらず俺の頬を拭う舌。
泣かないで、そういわれているようだった。
悲しむ俺を慰めるように、元気づけるように、妹はしばらく俺に寄り添うのだった。
僕らはまだまだ生まれたばかりで
きっとこれからも大変なことがたくさんあるだろう。
自分の未熟さに嫌気がさすこともあるのだろう。
だけど俺は約束するよ
もっとましな兄貴になるって
ずっと、ずっと一緒にいるって
だって
家族、なんだから
こうやって見るとステータス部分が原因で長くなってるような気がします。
あと、数字がずれて見苦しいかな?後で手直しをすることにします。
雰囲気が最終回っぽくなってしまいましたが、まだまだ続けていきたいと思っています。
11/26 ステータスをいじりました。




