Ep2-2 きっとそれは遍く世界残る、唯一つの・・・・
妹、頑張る
「ひゃん、ひゃん、ひゃん」
突然、予想だにもしなかった威嚇。それは俺の妹といわれる犬から発せられたものだった。
バカッ!!
さっきまで夢中で水をむさぼっていた。恐らく、そこに近づきすぎたために、邪魔な俺たちを排除したいがために吠えはじめたのだろう。
その行動は理解できないでもないが、はっきり言うと悪手である。
当然、鮪は妹を視界におさめる。
そもそも、妹は俺と鮪の間に立っていた。
それでも鮪は俺という餌に意識を集中して、妹の方は路傍の石、とでもいうように相手にもしていなかったのだ。
食事の風景の一部、そういった認識だったのかもしれない。
妹の最善の一手は逃亡だった。
当然だ。かなうはずもない相手に立ち向かう。
いまどき、そういった行動は物語の中にでもめったにはない。
そういった行動は蛮勇でしかない為だ。
物語、というものは意外にも影響力を持っている。下手にそういった話を作ろうものなら、影響を受けた人たちが無謀な戦いに明け暮れる羽目になるからだろう。
かなわないなら逃げる、逃げられるのならば逃げる、当たり前のことだ。
なのに妹は威嚇をしてしまった。
本能が欠落しているのか?かなわない相手だと理解できていないのか?
つい先ほどまでであれば、尻尾を巻いて逃げれば、俺が喰われている間に逃げ切ることができただろうに。
どうして立ち向かおうとしているのだろう?
風景は存在を主張し、強調してしまった。
恐らくは妹も敵――――餌だろうか?――――と認識したのだろう。もしくは、ただ単に邪魔に思っただけかもしれない。
ただ一つ言えることは。
妹も俺も死ぬ可能性が高いという事だ。
ばしんっ「ひゃんっ!!」
鮪は突然、やめることなく威嚇し続ける妹を張り飛ばす。
うっとおしぃ
そう言わんばかりの緩慢な動作で妹を吹き飛ばした後、再びこちらに視線を向ける。
いやらしい視線だ。
ちょっとしたお預けを食らったので、もう少し遊ぼうか?そういわんばかりの狂気が見え隠れしていた。
先ほどのやり取りが楽しかったのか?こちらにご執心である。
妹の方にも意識が向けられるのかと思ったが、ある意味、これは妹にとって幸運だった。
まあ、これで妹の奴は逃げられるだろう。
めり込むつま先。
くはっ!!
強制的に吐き出される息、吸い込むことができないが故の苦しみ。
だけど、俺はそれをTVを見るように客観的に眺めていた。
どうせ無駄ならば
どうせ苦しむのなら
さっさと楽にしてほしい
現状に絶望し、心を閉ざす。
苦境から目を逸らし、世界を閉ざす。
きっと、次の俺はもう少しましな一生を全うできるだろうさ
再び張り飛ばされて、今世に別れを告げようとしていた。
再び、俺の目の前に妹が現れるまでは。
鮪から俺を守るように、立ち向かうように。
なぜ?なぜ逃げない?
妹の行動が理解できない。
よっぽどステータスが高いのか?
勝てる算段があるのか?
妹の行動を少しでも理解しようと真眼を発動する。
名前
種族 犬
職種
位階 LC
BLv 0
SLv 0
HP 57/60
MP 10/10
STA 3
ATK 3
DEF 2
MIN 1
INT 1
AGI 3
RES 1
FSE 1
極技
能力
魂源 魂喰
はっ!!
鼻で笑ってしまう。
俺よりは、多少良いようだが、それでも目の前の鮪にとても勝てるとは思えない。
唯の無謀か?
それとも虚勢か?
わからない、わからない、わからない
楽しみを邪魔されたためだろうか?鮪の瞳に苛立ちを感じる。
先ほどよりもやや強い力で、再び妹は吹き飛ばされる。一息にとどめを刺さないのは、もしかすると妹も後で嬲ろうとでも思っているのかもしれない。
流石にこれで逃げるだろう。
さあ、さっさと終わらせてくれ。
再び死神はこちらに視線を合わせる。
度重なる暴力が原因だろうか?嬲る興奮だろうか?その息は荒い。
そして手がふりあげられ
そして再び目の前に影が差し
その手は振り下ろされることなく
その影は逃げることなく
鮪の瞳には驚きと怒りに染められた。
「馬鹿野郎っ!!さっさと逃げろっ!!」
学習しない行動に
理解できない行動に
無謀な行動に、いら立ちを覚え、声を張り上げる。
どうして?
一度は見捨てようとした存在。
自分で行動した結果が招きよせる不幸、放っておけばいいのではないか?そういった気持ちもある。
なのに声を張り上げていた。
どうして?
妹はなおも声を張り上げる。
きっとこちらの言葉を理解できていないのかもしれない。
自分の行動を理解できていないのかもしれない。
だけど本能に従えば、逃げていてもおかしくないというのに。
どうして?
張り飛ばされては再び立ち上がり、俺と鮪の間を遮るように立ち
そして再び声を上げる。
何度も、何度も、何度も。
どうして?
痛いはずだ。
怖いはずだ。
それなのになおも声を張り上げる。
俺をかばうように、立ちふさがる。
どうして・・・・・?
情けなさが心の中で暴れ狂う。
やるせなさが心の中で声を張り上げる。
自己嫌悪が、俺の心を押しつぶす。
どうして?
それはきっとわかっていたこと。
わかっていて目を背けていたこと。
利口だから?そんな理由をつけてわからないふりをしていたこと。
きっとそれは本能で理解しているのだろう。
理性ではなく、心の声に従って行っている事なのだろう。
きっとそれは難しい事ではない。
とても、とてもシンプルな答え。
家族だから
たったひとつ残った唯一の肉親だから
涙があふれてくる。
自分の薄情さに嫌気がさしてくる。
足手まとい?
利口なふりをしていても、ただ小賢しいだけ。
絶望?
ただ単に自分の思い通りにならないことに腹を立て、なかったことにしようとしているだけ。
生き残る手段がない?
ただ、最後の最後まであがき続ける、という事をみっともないとかっこを付けているだけ。
自分が浅ましい。
自分が情けない。
気が付かなかったが、前世界でも努力していた人を嘲笑っていたのかもしれない。
あがき続けていた人たちをみっともないと見下していたのかもしれない。
何もわかっていなかった自分を、特別だと思い込んでいたのかもしれない。
目の前で妹がまた吹き飛ばされる。
その声に力がなくなっていく。
ダメだ。
ダメだ、ダメだ、ダメだっ!!
立ち上がれっ!!
俺にはまだできることがあるはずだっ!!
あがくことができるはずだっ!!
最低でも、妹だけでも逃げる時間を作ることができるはずだっ!!
心に浮かび上がるのは贖罪?
いや、きっとこれは自己満足だろう。
そう、今更、だ。
見捨てようとした存在に手を差し伸べられて改心した?
そんなんじゃない。
きっと、それは自分勝手な逃避行動。
だけど、気付いてしまったからには、俺の愚かさを自覚したからには
このままでは終われない。
自己満足でも、罪悪感でも。
せめて、妹だけでも守らなければ死んでも死にきれない。
心の中にあるものが―――この思いが―――自分を憐れむだけではなく、妹を思っての感情だと思いたい。
やり直すチャンスがあるのならば、俺はもっとましになれるのだと信じたい。
体を再始動するために、心を再始動ように
痛みを無視して、体に力を込める。
だけど、その行為は手遅れとなった。
立ち上がろうと力を込めた瞬間
妹は、まるで最後の力を振り絞るように声を張り上げる。
瞬間
妹から立ち上がった不可視の炎が鮪に襲いかかる。
なんだ?
炎に撃たれた鮪は、一瞬、体を硬直させるが死には至っていない。むしろその瞳に浮かび上がる怒りを強くしただけだった。
そしてより強く振るわれる腕。
そして、妹は
先ほどと比べ物にならないくらいに吹き飛ばされて
その動きを止めたのだった。
対鮪戦はあと1話続きます。
書いていたら長くなったので分割しました。ほぼ同時に入港します。
11/26 ステータスをいじりました。




