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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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第1話 どうやら異世界転生ってやつ?

どうやら、異世界転生ってやつをしたみたい。

うん。なんか流行ってたもんね。

ただ、なんで転生したかは、はっきり覚えていない。事故だったのか、病気だったのか、それとも眠って起きたらこうなっていたのか。

……まあ、いい。

読者のみんなも、たぶんそこにはそんなに興味ないよね?

重要なのは、二十五歳の普通の会社員だった私が、目を覚ましたら十八歳の伯爵令嬢になっていたということだ。

そしてこれは、いわゆる令嬢ものっぽい世界に異世界転生した私が、現世で大好きだった垢抜け知識を元に成り上がっていくお話。

――になる予定である。

たぶん。

「……誰?」

朝、鏡を見た私は、しばらくそこから動けなかった。

知らない顔が映っている。

髪は柔らかな焦げ茶色。肌は白く、目元も口元も派手ではない。十八歳らしい若さはあるけれど、一目見て誰もが振り返るような華やかな美少女、というわけでもなかった。

なるほどね。

伯爵令嬢。地位は、まあまあじゃない?

でも、すごく垢抜けない。いわゆる芋女って感じ。

顔立ちは、うん。確かに控えめ。

ただし、私は鏡にぐっと顔を近づけた。

「……パーツ配置、神じゃない?」

思わず声に出た。

目そのものは大きすぎない。でも左右の間隔がちょうどいい。鼻筋も主張しすぎず、口元とのバランスも綺麗。輪郭には柔らかさがあって、顔全体に変な癖がない。

現世の私なら、かなり理想としていたはずだ。

派手ではない。でも、整っている。

そしてこういう顔は――やり方次第で、かなり化ける。

「お嬢様?」

背後から声がして振り返ると、若い女性が不思議そうな顔で立っていた。

エプロンのついた服。

なるほど。メイドだ。

「どうかなさいましたか?」

「あ、えっと……」

名前が分からない。

困った。

すると彼女はますます心配そうな顔をした。

「お嬢様、本当に大丈夫ですか? ローラが分からないなんておっしゃいませんよね?」

ローラ。

助かった。

「ローラ」

「はい」

「実は私、異世界転生したみたいで」

「…………」

ローラが一度、二度と瞬きをした。それから、なぜかほっとしたように微笑んだ。

「まあ。また新しいお話を考えていらっしゃるのですね」

「違う。本当の話」

「今回は異世界なのですね」

「だから本当に――」

「前回は、たしか隣国の王子様と身分を隠して旅に出るお話でしたでしょう?」

「何それ」

ちょっと面白そう。

……いや、違う。

「私、そういうことよく言ってたの?」

「はい。お嬢様は昔から、お話を考えるのがお好きでしたから」

なるほど。

このお嬢様、もとい私のことでもあるが、元のエレナ空想家だったらしい。

「小説家になればよかったのに……」

「しょうせつか?」

「あ、何でもない」

どうやら、この世界では少し言葉の感覚も違うらしい。

私はもう一度、鏡の中の自分を見る。

記憶は、ある。

正確には、この身体がこれまでどう生きてきたのか、ぼんやりと分かる。

私はエレナ・ベルフォード。十八歳。ベルフォード伯爵家の長女。

家族仲は悪くない。両親も優しい。兄もいる。虐げられていたわけでも、婚約者に捨てられたわけでもない。

ただ、人前で話すのが得意ではなく、社交の場ではいつも目立たないところにいた。

友達も、ほとんどいない。一番よく話していたのは、このローラだったらしい。

頭の中ではいろいろなことを考えていたのに、それを外にはあまり出さなかった。

……元のエレナ。

今、どこにいるんだろう。

私がここにいるということは、あの子は――。

そこまで考えて、やめた。

分からない。

調べる方法もない。

私がここで延々と考え続けたところで、答えは出ない。

だったら

「きっとあの子なら、新しい人生をそれはそれで楽しんでるよね」

「お嬢様?」

「何でもない」

あれだけ頭の中で物語を作っていた子だ。もし本当にどこか別の世界へ行ったのなら、案外、上手に楽しんでいるかもしれない。

そう。私のように。

だから、しんみり考えるのはやめた。

それから数日。

私は、この世界を観察した。

まず、衛生環境。

問題なし。

お風呂には入れる。歯も磨ける。トイレも普通に綺麗。化粧品もあるし、食事も美味しい。

メイドとは普通に仲良く話しているのに、階級制度はしっかり存在する。

魔法はない。

なのに、生活には妙に便利な道具が揃っている。

一方で移動は馬車。服はドレス。夜会があり、貴族がいる。

どうなってるの?

「この世界について真面目に考えると負けな気がしてきた……」

髪を梳かしてくれていたローラが首を傾げる。

「何のお話ですか?」

「こっちの話」

要するに。

私が快適に美容を楽しめる異世界。

そういうものだと思うことにする。

暮らしやすいので、目をつぶろう。

現世の私は、ごく普通の会社員だった。

仕事をして、帰りにデパコスを見たり、可愛い服を買ったり、休日には友達とカフェに行ったりする。

美容関係の仕事をしていたわけでもなければ、インフルエンサーだったわけでもない。美容アカウントを作ってみようかな、と一度くらい考えたことはあるけれど、結局やらなかった。

ただ、美容やファッションを考えることが、昔からどうしようもなく好きだった。

自分に何が似合うのか考えること。

どうしたら、もう少し可愛く見えるのか試すこと。

同じ服でも、髪型やアクセサリーで印象が変わるのを見ること。

顔のパーツ配置、重心、色、素材、髪、メイク、服、アクセサリー。

それだけじゃない。

姿勢や表情、目線、笑うタイミングだって、人の印象を変える。

気づけば、頼まれてもいないのに膨大な知識が頭の中に溜まっていた。

友達を見て、

この子、絶対こっちの髪型の方が可愛いのにな。

とか

そのリップより、もう少し青みが少ない方が似合いそう。

とか

勝手に考えていた。

もちろん、言わない。

求められてもいないのに、人の外見に口を出すなんて普通に失礼だ。

だから、この知識を本気で使う機会はほとんどなかった。

でも、一回くらい使ってみたかった。

私は鏡を見る。

十八歳のエレナ。

控えめな顔立ち。柔らかな輪郭。細い肩に、華奢な上半身。そして今のところ、その良さをほとんど活かしていない髪と服。

「…………」

来た。

私のターンだ。

まずは、この子を一番可愛くしてみよう。


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