189 呪術師と守護獣
◇◇
村人からは一方的に呪者を倒しているように見えた守護獣達だったが、実は苦戦していた。
解毒され解呪され、病を癒やしてもらったばかりなのだ。
体力もなければ、精霊力も足りない。
「モォォォ!(数が多すぎる!)」
「メエエエエ!(これでは、守り切れぬ!)」
「ブボ! ボボボボ!(泣き言はきかぬ! 命をかけるのだ!)」
猪が牛とヤギと叱咤する。
「ほほう! (一匹一匹は弱いぞ!)」
「きゅいきゅい! (普段であればこの程度の呪者に後れをとらぬものを!)
梟と鷹が、小さい呪者を屠りながら叫ぶ。
「メエメエ!(精霊達をまもることも忘れてはならぬのだ!)」
守護獣達は少し離れた場所に精霊達を隠している。
精霊達を守護するために、鳩や雀達がついているが、そちらにも気を配らねばならない。
「ブボボボ! (人も精霊も、絶対に守護してみせるのだ)」
守護獣達はギリギリの状態で、呪者と戦い続けた。
◇◇
守護獣と呪者の戦いを、村から少し離れた場所から見守っている者が二人いた。
「北の沼地の魔女」の教主と幹部だ。
ちなみにダムの近くで、スイとダーウに捕まったのは、前男爵だった物を作ったデニスである。
「獣どもが! 邪魔をしおって! 数が足りぬ! どんどん作らぬか!」
教主は右目と右耳を呪者達とつなげて、情報を集め、呪者達を指揮していた。
「これ以上数を増やしても、一匹ずつの質が……」
教主の指示の下、呪者を製造しているのは幹部だ。
「……質などどうでもよい。数さえあれば、どうとでもなる」
「御意」
幹部は小さな呪者を量産していく。
「それでよい」
教主は甲虫ほどの呪者を操り、村を襲わせる。
「ふふ、鳥達が慌てておるわ」
小さな呪者を担当している鳥達は十羽しかいない。
残りの十羽は精霊の守護についているからだ。
「む? これは……」
大量の小さな呪者を操っていた教主が、守護獣の鳥十羽に守られている精霊に気づいた。
教主自体は精霊を見ることはできない。
だが、精霊を食らう呪者は、当然精霊を見ることができる。
そして、いまの教主は呪者と視覚と聴覚をつなげている。
だから、精霊を見ることができた。
「……まだ完成しておらぬ技法だが……試してみる価値がある」
沢山の衰弱した精霊達。そして、傷ついて弱った守護獣達。
デニスが開発した呪術の奥義を試すにはうってつけの相手だ。
「力を貸せ。精霊の結晶化と守護獣の呪者化を試みる!」
「御意!」
教主は幹部に指示を出す。
まず、沢山の少し大きめの地面を這う呪者で、守護獣達と精霊達を遠巻きに囲む。
そして特殊な極小の飛ぶ呪者を作り出し、守護獣達と精霊達が隠れている上空に配置していく。
「よし、準備は整った」
次の瞬間、守護獣達と精霊達が固まっている部分の周囲と上空に呪術の魔法陣が出現した。
地上と空中の魔法陣は互いにつながり、一つの巨大な魔法陣となっている。
その魔法陣は呪者の体によって刻まれた特殊なものだ。
「我らの奥義たる呪法を、味わうがよい」
教主はそうつぶやいて、にたりと笑った。
◇◇
「ピィ!(まずい!)」
雀の守護獣が気づいたときには遅かった。
濃密な呪いが、守護獣達と精霊達を包み込む。
守護獣達は精霊を必死にかばったが、かばいきれない。
『『『―――――!』』』
呪いに包まれて、精霊達は言葉にならない悲鳴をあげた。
呪いに包まれると同時に、守護獣達は本能的な恐怖を覚えた。
自分自身が作り替えられてしまうような、自分が消えるかのような恐怖だ。
「きゅきゅ! (抵抗しろ!)」
「ぴぃぃ(わかってる!)」
守護獣達の強い意志も、呪いによって徐々にむしばまれていくかのようだ。
意識が薄くなり、心と体に侵入する何かに抵抗するのが難しくなっていく。
「ぴ……ぴぃ……(ル……ルリアさま……)」
雀の守護獣は、薄れゆく意識の中、優しいルリアを思い浮かべた。
◇◇
「おお! うまくいった! このままいけるぞ!」
「我らの勝利ですな」
精霊の結晶化と守護獣の呪者化の呪法は思いのほかうまくいっている。
もはや負ける要素が無い。
ヴァロア大公や王家どころか、世界を支配できる。
「ふ……ふは……ふはははははははは」
勝利を確信し、高笑いしながら、呪者を通じて精霊達を見ていた教主の目に、
「きえれえええええええええ!」
「ガウガウガウ」
大きな馬と大きな犬が飛び込んできた。
◇◇◇◇




