第十九話 二人でお風呂
家族以外の女性と風呂に入るなんて初めての経験だ。
顔が熱くなり心臓からドラムみたいな音が聞こえてくる。
俺は恥ずかしくてフィーナのいる方向を見ないようにしていた。
「い、いきなりどうしたんだよフィーナ! そんなに早く入りたかったのか!?」
「仕えるお方に奉仕するのは当り前のことです。わたしの体でよければ好きに使ってください」
たしかに俺は十六歳、プログレス王国ではもう大人だ。
だからそういうことをしても問題はないが……いやでも……。
「気持ちはありがたいが俺たちまだ会って七日だし、早くないか?」
「肌を重ねるにの時間は関係ありません。わたしはそう思います」
「そうか……」
ハッキリと言い切られると何も言い返せない。
こればかりはスキルでも対処不可能だな。
これはもうやるしかないのか!?
「本当にいいんだなフィーナ?」
「はい。アレン様」
俺の背中にフィーナの豊かな胸が密着する。
マシュマロみたいに柔らかい感触が伝わってきた。
ついに大人の階段を昇る瞬間がきたか。
「それではアレン様お背中を流させて頂きますね。わたし尻尾で体を洗うの得意なんですよ」
「おお……ちょっとくすぐったいな」
「故郷の弟もそう言っていました。すぐに慣れると思いますので少し我慢してくださいね」
尻尾でコシュコシュと背中を擦られる。
これはタオルとはまったく違う不思議な感触だな。
犬を撫でた時の手触りに近いが、それよりもしっとりして滑らかだ。
「すごい傷……魔物との戦いでついたものですか?」
「まあな」
本当は王都の剣術訓練でついたものだ。
あの鬼教官、本当に死ぬかと思うほど厳しかったからな。
「次は腕を洗いますね」
腕を横に伸ばすとフィーナが指の先から付け根まで丁寧に洗ってくれた。
尻尾の感触にもだいぶ慣れてきて気持ち良くなってきたな。
上を見ると満点の星空が広がっていた。
「綺麗だな。この森に感謝するのはこれで二度目だ」
「ふふ、もしかして一度目はわたしですか?」
「もちろん。フィーナがいなかったらとっくに死んでたよ」
一人になって孤独のつらさがよくわかった。
王都にいた時はあれほど煩わしかった人の視線が恋しくなる。
「わたしもアレン様と出会えて幸せです。初めてここについた時はもうダメかと思いました」
「わかる。俺も人生終わったと思ったよ。でもなんとかなるもんだな」
建築師のせいで追放されたのに、建築師のおかげで生き延びられるなんて皮肉なものだ。
「あの前も洗いましょうか?」
「それは自分でできるからいい! だ、大丈夫だ!」
「そ、そうですよね!」
さすがに股間を見られるのは恥ずかしすぎる。
俺の照れが伝わったのかフィーナの声も少し上ずった。
肩に手が置かれると彼女の体温がさらに近く感じられた。
しばらく会話が途切れる。
これはいよいよその時が来たってことが。
「あのフィーナ」
「はいアレン様」
振り向くとすぐそこに色っぽい顔があった。
緊張しているのか耳が忙しなくピクピクしている。
俺の体に燃えるような熱が昇ってきた。
これが一線を超える興奮……いや待て、物理的に熱くないか。
ていうか熱い! あっつい!
「フィーナ出ろ! 茹で上がっちまうぞ!」
「は、はい!」
転がるように俺たちは湯舟から飛び出た。
ヤバいヤバい。シチュエーションに気を取られて火の加減をまったく見てなかった。
この風呂は一人ずつじゃないと無理だな。
「……ごめん。もう火は消しておく」
「気にしないでください。わたしあそこで待ってますから」
フィーナはクスリと微笑むと家の方向を指さした。
「続きはそこでしましょう。アレン様」
頬に彼女の唇が触れる。
今夜は長い夜になりそうだ。