83話
ギルドの一階で騒がしくしている中、俺も気になって下へと降りてみると多くの人が忙しそうに動き回っていた。邪魔するのも悪いのでちょうど良い人に聞いてみたいのだが、そんな人は中々見つけることは出来なかった。
「ここに居たのですね」
邪魔にならないように端にいると、ギルドマスターが話しかけてきました。
「何かあったのですか?」
「ええ、それが街の北の方でトロールガーディアンが数体発見されたようなのです。今冒険者たちが対応していますがそれでもいつまで持つかわからないのです」
確かトロールガーディアンはこの周辺にいる魔物の種類としては載っていなかったはずなんだけど、どうしてこんなところに居るのだか。
「他の冒険者はいないのですか?」
「それがちょうどランクの高い冒険者たちは違うところに行ってまして、すぐに向かうのは無理なのです。そこでレヴィさんに行ってもらえないかと思いまして」
「でも私はランクCですよ?」
「ダンジョンを攻略したということもありますので、私は問題ないと判断しました。それにリカルドにも頼みましたので知っている仲であればやりやすいと思いまして、行っていただけませんか?」
「わかりました。北の方でしたよね?」
「はい。そうです。よろしく頼みます」
魔物がいる場所を確認した後、俺はギルドを出て急いで目的の場所へと向かった。この周辺にトロールガーディアンはいないが、一応情報は読んだ中にあったのでどういった魔物なのかはわかっている。
しかし面倒な魔物が現れたものだ。俺は資料室で読んだ内容を思い出しながらもどう対処したらよいかということを考えながら、全速力で走っていた。
普通であれば馬車で向かうような距離ではあるのだが、正直肉体疲労というものがないし身体強化をすれば馬車よりも速く進むことが出来る。なので走った方が早く着くのである。
トロールガーディアンはまずトロールが三メートルくらいの大きさでその力は強く、棍棒を持って攻撃してくる。その速度は速くはないのだが、問題は再生能力を持っているというところだろうか。軽く傷を与えても再生してしまいいつまで経っても倒すことが出来ないということになってしまう。
倒し方としてはその再生が追いつかないように攻撃を繰り返すか、大きなダメージを与えて一気に倒してしまうくらいしかない。まぁ普通のトロールであればそこまでの心配することはないのだ。再生すると言ってもそこまで早く再生するわけでもないらしいが。
だがトロールガーディアンとなると話は変わってくる。普通のトロールと比べて力の強さ、身体の硬さ、動く速さなどが全て上がっていて、再生時間も早くなっているようだ。しかもその身体には鎧を着ていて、ただでさえダメージを与えるのに苦労するのに鎧のせいで攻撃が届きにくいという状態になっているらしい。
どのくらいの強さなのかは実際に戦ってみないことにはわからないが、一応基準としては冒険者ランクAの人たちが数人で倒しに行くレベルのものと書いてあった。
つまり現状では、ランクAに近いと言われているリカルドしか対抗できるような戦力はいないということになる。今抑えている人たちもランクBの人たちということだったので時間稼ぎは出来るが倒すのは難しいということだった。
一体だけであれば倒すことが出来たかもしれないが、数体現れたのだ、どう考えても無理という判断をしたようで、すぐに時間稼ぎをすることにしたから今も無事でいるということを聞いた。
トロールなので基本的には動きは遅いのだろう、だからこそ時間を稼げているわけだが、それも体力が続けばの話だ。
そして近くまで道を走って来て、それから森の中へと入って行った。今いる場所がどこだかわからないが、助けに来てもらいたい以上道からそこまで離れてはいないと思う。しかし道に行っても困るので近くにいるというわけでもないと考えられる。
一回立ち止まって探知範囲を全開にして探すことにする。ここからは運との勝負になるな。さて、どこにいるのやら。
「ん……見つけた」
離れてはいるがそこまで時間のかかるところではない。少しばかり遠いとは思うがまぁトロールガーディアンを相手にしているのだ、許容範囲であろう。
みた感じだとすでにリカルドたちも到着しているようだな。俺もすぐに向かうことにしようか。
木々が邪魔だがそれでも他の人と比べて速く移動できることは変わらない。トロールガーディアンが目視できるような距離まで行くとそこでは見知った顔ばかりが居た。
「私も手伝うよ」
「やっぱり来たか。これで野良の住処全員が揃ったな」
そう、足止めをしている冒険者というのはクリム達、野良の住処の冒険者たちだったのだ。彼らなら自分たちの実力はわかっているし、無茶をすることはないので適任であろう。それでもそれなりに消耗はしているようであるが。
今ここに居るメンバーは野良の住処の冒険者、俺を入れて六人とリカルドに付いて来たであろうホルンたち三人だ。ホルンたちは実力的には戦力外だが、それでも役に立っている。何よりルミエの支援魔法が結構ありがたいということになっているようだ。
トロールガーディアンの数は三体。今はリカルド、アレバ、ギルの三人が引き付けて、他が魔法で攻撃するという形になっている。リカルドを攻撃に回したいところではあるがきついだろうな。
そうなると、
「私が一体ずつ倒していくからそのままよろしく。ルミエは私にはいらないから他の前衛だけよろしく」
「なるべく早く頼むな」
「わかった!」
ルミエの大きな声を初めて聞いたような。それだけ真剣ということなのだろう、俺も早速やりましょうかね。
まずはリカルドが相手をしているやつを倒すことにしようか。攻撃役が増えるのはいいことだし、リカルドを援護しているのがカーシャなので他のクリムたちと比べるとどうしても劣ってしまう。そういった理由もあって先にリカルドにしようと思う。後の二体はもう少し頑張ってくれ。
身体強化の方はすでにしてあるので剣を出して、タイミングを見て一気に距離を詰めた。そして一振りして脚を切り飛ばした。
「あれ?」
上から棍棒を振り下ろされたので一度距離を取って回避したのだが、何の問題もなく脚を切ることが出来たな。予想ではもう少し大変になると思っていたのだが。リカルドも俺が切り飛ばしたことに驚いたのかトロールガーディアンと距離を取って固まっていた。
その隙にトロールガーディアンの脚は再生していって、もとに戻ってしまった。なるほどこれが再生能力というわけか。確かに厄介ではあるが、再生する前に倒してしまえばいいことだ、それも今さっき出来ることが証明できたので大丈夫だな。
トロールガーディアンは狙う目標を俺に変えて、こちらに向かって来た。そして棍棒での攻撃をすれ違うように避けながらも再び脚を切り落とした。そして振り返り棍棒を持っている腕を切った。そうなってしまえばもう怖いものはなく、落ち着いて確実に首を切れるようにし、そのまま一振りした。
トロール種は再生能力はあるが流石に頭と身体がわかれたら無事では済まないようで、倒れて起き上がってくることはなかった。まずは一体目だな。
その後は俺が簡単に倒すことが出来ることがわかったからであろう。俺はもう一体の方へと向かい、リカルドは別の方へと向かって行った。
そして同じように倒すとそれ以上のことはせずに、もう一体を倒せるまで待つことにした。俺のことを見てリカルドもやる気になったのであろう。何が何でも一体くらいは倒してやろうという気持ちが伝わって来た。
そのため引き付け役のギルとアレバはリカルドに協力して、それ以外の人は休憩することにした。倒したトロールガーディアンの解体は全て倒し終わってからということで、他にやることがなくただ見ていることしか出来ないとも言える。
それから少し待った後、ようやく最後のトロールガーディアンを倒し切った。
「あー! もうだめだ。動けん! 解体はよろしく」
前衛の三人が体力の限界のようで解体をあれたちに投げてきた。ご丁寧に解体用の短剣まで渡してきて。ものは良いのでホルンたちが持っているものよりかは良いものだと思う。それを使えばホルンとカーシャでも解体することが出来る。
二人はそれぞれクリムとモノリースに教えてもらいながら解体をするようであった。ルミエはというとずっと支援魔法を使っていて、ものすごく助かったということでその役目は免除ということになり、終わるまで休んでいていいと言われていた。本人は本当に何もしなくていいのか落ち着くことが出来ずにいるが、いつものことだと思うのでまぁいいだろう。
問題は俺なのだが、これでも二体のトロールガーディアンを倒したというのに解体をしないといけないというのは少し納得できないが、解体すること自体はいいのだがやり方がわからないのだ。解体自体今までやったことはなかったし、教えてくれる人もいない。
さてと、どうしようか。よくわからず適当にやっても悲惨なことにしかならないので、とりあえず他の解体が終わるか、休んでいる誰かが復活したら聞いて見ることにしようか。
そうして休んでいると、やっと気づいた様子でクリムが近づいて来た。
「どうしました?」
「やり方がわからなくてね。適当にやるのもダメだし、あそこに寝ている人らも使えなさそうだし待ってた」
「ああ、なるほど。では教えるのでやってみますか?」
「うん、お願い」
そうしてやっとクリム指導の下、トロールガーディアンの解体は終わったのであった。
後はこれらを持って街へと帰るだけなのだが、歩いて帰るのも面倒だな。でもおそらくは馬車は来てないだろうし、結局は歩いて帰ることになるんだろうな。
それぞれマジックバックに解体したトロールガーディアンを入れて、余った分を俺の指輪の中に入れて、動き出した。その歩みは遅く、みんな疲れていることが良くわかるような感じだった。
まぁたまにはいいかと思い、みんなで話しながらゆっくりと街へと歩いて帰って行ったのであった。




