17話
顔を赤くして、上機嫌そうにしているリカルドを見て、俺は何とも言えない気持ちになってしまった。
そう言えば、マリーはどうなんだろうと横目で見てみると、その表情は無事に帰って来た安堵と、酔って帰ってきた怒りなどが入り混じったような、そんな複雑な表情をしていた。
そしてユアはと言うと、リカルドの様子を確認してからすぐに俺の後ろへと逃げていた。まぁここは冷静になって何をするべきなのかを考えて、俺が大人になろうではないか。
「それで私たちはあの屋敷に住むことは出来そうなの?」
聞きたいことと言えば、これしかないだろう。後のことはどうでも良い。さっさと聞くことを聞いて、この酔っ払いから逃げよう、そう思ってしまった。
俺が聞いたらリカルドは近づいてきて、俺の横へと座り肩を組んできた。リカルドが俺に近づき始めてから、ユアはさらに避けるようにして俺から離れた。
「ああ、この俺が絞めてきたからな! もうあの連中は俺の言いなりよ!」
うざい、とてつもなくうざいがここは我慢だ。
なんかリカルドのイメージが崩れていくような気もするが、それを聞くことが出来たのであれば、もうこの酔っ払いに構ってやる必要もなくなった。
俺はリカルドの腕を抜け出して距離を取った。俺という支えが無くなったからか、そのまま倒れるようにベッドに横になってしまった。
そしてその隙に、ユアとマリーの手を取ってその部屋を抜け出した。
思えば、ユアが自分から、俺から離れたのは初めてかもしれなかった。
「さて、聞きたいことは聞けたことだし、私たちも行動を始めますか」
「しかしレヴィ様、リカルドさんはあのままでいいのですか?」
「まぁあれは今は使えないでしょ。でも待っているのは時間の無駄だし、出来ることをしよっか」
「かしこまりました。私もお手伝いいたします」
「ありがと、よろしくね」
マリーも協力をしてくれるそうなので、出来ることからやっていこうと思う。
ということで、まずはあの物件に決まったことを伝えないといけないのかな。伝えるのはギルドマスターにでも言えばいいだろう。
「んじゃ、まずはギルドマスターのところにでも行こうか」
「ギルドマスターですか?」
「うん、あの人に言っとけば、何とかなるでしょ」
「しかし急に行っても大丈夫なのでしょうか?」
「まぁ、全部リカルドのせいにしておけばいいよ」
「はぁ」
少し呆れられたような感じではあったが、反対はされないのでいいということで三階へと上がっていく。そして部屋の前へと辿り着き、扉をノックした。
「どうぞ」
中から声が聞こえてきたので、俺たちは扉を開けて中へと入った。
部屋の中では奥の机のところで、ギルドマスターが仕事をしているようだった。さらに今から俺たちのせいで忙しくなってしまうだろうことに申し訳なさを感じたけれど、忙しいのは、まぁ俺たちのこともあるのだろうけど、話が進むということで勘弁してもらいたいところではある。
「レヴィさんたちでしたか、リカルドでしたらまだ帰って来たという報告は受けていませんよ」
「ああ、その件でしたら、先ほど無事に帰ってきました」
「そうでしたか、でしたらここにリカルドがいないというのは、何かあったのですか?」
「それがですね」
俺は先ほどの出来事をギルドマスターに話した。
その結果、話終わる頃にはギルドマスターも呆れたような顔をしていた。
「なるほど、わかりました。まぁ酔っている状態でも彼が大丈夫と言うのでしたら、大丈夫なのでしょう。では、そこの物件に関しては、クラン、野良の住処が所有するということでよろしいですね」
「はい、お願いします」
「わかりました。その後はどうしましょうか。リカルドが復活するまで待ちますか?」
「いえ、待つことなく、出来ることを少しずつ自分たちでやっていこうと思いまして、ここに来ればやれることも分かるのではないかと思い来てみました」
「そうですか、確かに出来ることはやっておくことは良いでしょうからね。わかりました。では、今から話を進めていきましょうか」
俺たちは話し合った結果、今日の内に何人かで屋敷の掃除をしてしまうことになった。
掃除するための道具や移動する際の馬車も貸してもらえることとなり、後は誰を連れて行くかを決めるだけだろう。
そして掃除しながら生活に必要なものを確認するというのも、やってきて欲しいそうだ。布団や家具なども住む前に用意できるかどうかわからないが、早いことに越したことはないということだった。
一通り話し終えた俺たちはここで話し込んではやることが進まないということで、早速行動に移ることにした。
俺たちは誰が行くのかを決めて呼んでくることを、ギルドマスターは馬車などの手配をしてくれるそうで、ひとまず解散してすぐにギルドの裏口に集まることになった。
「男たちはみんな呼ぶことにして、他のメンバーはマリーにお願いしてもいい?」
「はい、もちろんです。みんな行きたがるとは思いますが、馬車にはそんなに入りませんからね。適当に呼んでくることにします」
「よろしくね」
役割分担ということで、俺は他のクランメンバーのことはほとんど知らないので、こういうのはよく知っていそうなマリーに頼むのが間違いないだろう。
そうなると、俺のやることが無くなってしまうわけだが、リカルドの様子を少し見てから先に下に行っていることにする。
部屋に着いて中を覗いてみると、出るときと全く変わらない体勢で眠っていた。すごく気持ち良さそうに寝ている。
それを見た俺は静かに扉を閉めた。
「先に下に行ってようか」
俺はユアと共に一階へと降りて行った。
ギルドの裏口へと行くと、ちょうど馬車が来るのが見えた。ギルドの職員が乗っているため、おそらくはあれを貸してくれるのだろう。
そして馬車が着くタイミングで、ギルドからはギルドマスターが一人の職員を連れて外に出てきた。二人の手には掃除道具を手にしていているようだ。前々から準備していたかのように仕事が早いな。
そして、その後にマリーが何人か連れて、ギルドから出て来るのであった。
「おそらくこれで足りると思いますが、他に必要なものがあれば職員たちに言って下さい」
「ありがとうございます」
ギルドマスターはそう言うと、ギルドの中へと入って行った。
俺はマリーに道具などを見てもらって大丈夫そうか聞いた。
「はい、大丈夫だと思います」
そう返事が返って来たので、俺たちは屋敷へと向かうことにした。行くメンバーは俺にユア、マリーに男四人と女二人の九人だ。
御者をするのは男たちが出来るということなので任せることになった。
俺はその横に座り、道案内をすることにする。もちろん定位置になっている横にはユアの姿もある。俺たちが小さかったため、ギリギリ馬を操るのに邪魔にならないように座ることが出来た。
リカルド以外の男たちは一括りにしていたが、今日やっとその名前を知ることが出来た。名前は、ギル、アレバ、クリム、モノリースというものだった。
ちなみに今御者をやってくれているのがクリムで、彼は大人しい性格で優しそうな印象だった。クリムは気遣って話しかけ続けてくれるようで、気まずくなるということはなく楽しい時間を過ごすことが出来た。
そんな時間はあっという間に過ぎ、まぁ近かったから当たり前なのだが、クランの拠点となるところへと着いた。
その後はみんな自分から率先して行動に移っていった。
男四人は重たいものなどを運んだりして、基本的に女性陣の指示で動いていた。
ユアはもともと戦力に数えていないのか、俺の手伝いをすればいいとマリーに言われていた。
問題は俺なのだが、俺もこともそこまで期待はしていないような雰囲気だった。まぁこんな見た目だしわかるのだが、期待されていないと余計に頑張ってやってやろうと思うものだ。俺は二階から攻めていくことにする。
まず、廊下は後回しにして、一番遠くの部屋から入って行き窓を開けて行った。そしてここからが俺の見せ場である。
まず、水を生み出して、そしてその水を回転させながら床や壁に当てていき、埃や汚れなどを取っていく。ここで注意する点なのだが、力を強くし過ぎると壊れたりしてしまうので、力加減が大事になってくる。
最後に汚れた水を外に捨ててしまえば、部屋の掃除の完了である。
これにはユアも驚いた様子で見ていたが、すぐに慣れてしまったのか、二個目の部屋では楽しそうに俺がやっているのをすごい! すごい! と言いながら見ていた。
同じ要領で他の部屋もやっていき、思っていたよりもずっと早く終わってしまったのであった。
まぁやったのは全部空き部屋だったので何も気にするものがなかったのが大きいところだった。
しかし二階には空き部屋だけではなく、書斎や執務室などもあるみたいなので、そちらの方はそう簡単には終わることはないだろう。
まぁ何がいるもので何がいらないのかわからないため、ひとまずその部屋には俺は手を付けずに他にやることがないか聞きに下へと戻った。
下に戻って報告をしたら驚かれたが、こう水を生み出してパッパッとやったと言ったら、なぜか納得してくれた。もっと疑ったりするものではないかと思っていたのだけど。
その話をしたからか、次の掃除場所はお風呂掃除となった。
この屋敷には大きなお風呂があり、ぜひとも入りたいと思っていたのだ。お風呂には魔道具が使われているので壊さないように掃除をしてくれと言われた。
魔道具はギルドマスターの部屋のベルしか知らないので、どう言うものか興味があったのだが、気持ちを抑えてまずは掃除することにした。
まぁあっという間に終わってしまうんだけど、それに水の捨てる場所を考えなくていいこの場所はさっきの部屋よりも大きいのに対して、早く終わってしまった。
その後も主に何かを洗うことや庭の草刈りを手伝い、途中でお昼休憩を挟みながら、屋敷の掃除は終わったのであった。
ちなみに草刈りではユアも手伝ってくれて、俺が刈り取った草を両手にたくさん持って運んでくれていた。その一生懸命な姿を見て、可愛いと思ってしまうのであった。
そんなこんなでみんなの協力のもと、日が落ちる前に終わり、ギルドに戻ってくることが出来たのだった。




