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水しか使えない最強生物  作者: 猫宮るな
15/126

15話

 このアルンという街は上から見ると、大通りで四つに分かれているように見える感じになっている。


 北に行くほど裕福な人が住んでいるようになり、この街の領主が住んでいる屋敷も北側にある。


 冒険者ギルドは大通りに面した中央から少し南寄りに建っているが、その周辺まではギルドがあるおかげで治安は良い。


 ちなみに南に行くほど治安は悪くなっていき、法に触れるようなことしているところもあるという噂がよく出て来る。実際奴隷商なんかもそちらの方にあった。


 比較的大きな街なためか、豊かな土地ゆえか、他の貴族でこの街に屋敷を持っている人たちも多くいるようだ。その貴族たちは当たり前のことだが治安が良い方に住みたいと思うために、そういった貴族の家は北側に多くある。


 しかしまれにお金がないがこの街に住みたいと思う人たちが、しょうがなく北側でないところで屋敷を建てたりするようだ。それでも出来るだけ南側には住むことはないが。


 そんな貴族が改めて北側に引っ越したり、この街に住むことをやめたりする際に、壊すのはもったいないということでそのままの形で売りに出される。


 そういった経緯でいくつかの屋敷が空き家状態になっているらしい。


 俺たちはその売りに出された屋敷の中から今回選ぶわけだが、場所は東、西、とわかれてあり、全部回るのにはとても歩いて回ることが出来る距離ではなくなってしまう。


 そのために馬車で移動しているのだが、街中では馬車での移動も出来る通りと出来ない通りがあるようで、大通りはもちろん、その次の次くらいの大きな通りまでは馬車での移動は可能らしく、それ以上の小さな道では使ってはいけないということだった。


 俺たちが向かうところは、やはり貴族の建物だったからか、全て馬車で家の前まで行くことが出来るところにあったため歩く必要は今回はないようだ。これなら楽だし、街中を歩くことをないので安心だ。


 そうして辿り着いた一件目は、アルンを囲うように出来ている壁沿いにあった。


「まずは一件目ですね。この屋敷は二十年前に建てられました。そして十年前に元々の家主が出て行ったようです。建物は二階建てで、部屋数は多くなっているようです。食堂も一階にありますし、井戸なども敷地内にありますので、生活していく上では問題ない環境になっています」


 アミュールが屋敷の中を案内しながら、この屋敷の説明をしてくれる。


 確かに使用人たちが使ってたであろう食堂は、ギリギリ俺たちのクラン全員が一緒に食べることが出来るであろう広さだし、庭も広く子どもたちにもいい環境になっているとは思う。


 二階にはもちろん一階にも部屋があり、部屋数は十分足りる数だ。流石貴族の建物というところだろうか、無駄に部屋が多い気がする。


 しかしここの問題を上げるのであれば、ギルド、すなわち街の中心からすごく離れていることだろうか。まさか西の一番端まで来るとは思ってもみなかった。


 お店などは周りに住んでいる人も見かけたことから、あるのであろうが俺たちは冒険者として食っていくわけなのだから、出来ることなら冒険者ギルドの近くに住みたいと思う。ギルドに通うのだけで時間をかけることになってしまうからな。


 リカルドも同意見なのだろう。この屋敷に着く前から良くない顔をしているように見える。


 でもマリーの意見はどうなのだろうか。女性目線からも聞いてみないとわからないこともある。俺たちだけで決めてはいけないだろう。俺に関してはこんな見た目でも女性目線には出来ないからな。


 ユアは、まぁ俺にぴったりとくっついてきょろきょろと周りを見渡しながら楽しくやっているからいいだろう。さっきから何が楽しいのか、尻尾をずっと振っている。さっきから当たっているので少しくすぐったいのだ。


 屋敷の中を一回りしたところでみんなの意見を聞いたところ、満場一致でギルドから遠いのでなし、という結果になった。


 アミュールの方も中心から遠いという理由で売れ残っていたため、もしかしたらということで今回俺たちに見せたらしい。まぁ悪いのを先に見せれば、後が良く見えるからな。そういう意味では他の場所は全部近く感じてしまうかもしれない。


 次に行ったのはさっきよりも中央に近く、南寄りにある屋敷だった。


 ここもギルドへはそれなりにかかるが、頑張れば歩いて行けない距離ではなかった。それでも遠いことには変わりはないが、他がだめだったらここという選択もなしではないのだろう。そんなふうに思える距離だ。


 建物は四十年近くの建物であるらしい。印象的なのは屋敷の周りが高い壁で囲まれてあって、外の様子が全く見えないようになっていることか。


 前に住んでいた貴族が相当周りの環境が嫌だったらしく、こうして見えないように壁で囲ったということらしかった。


 んー、俺はこういった閉鎖的なのはどうかと思うのだが、他の意見も聞いてみないことにはわからないからな。


 そうして見終わった結果、日当たりが良くなくて洗濯ものが乾きにくいだろうとマリーの意見が真っ先に出た。


 リカルドも日当たりを気にしているようだった。後、遠いとも小さく言っていたな。


 そういうわけで次のところへと行くことになった。


 次はさらに南に行きギルドにはすごく近くなり、普通に歩いても行けるような距離だった。


「それでここはどういった問題を抱えているんです?」


 俺はアミュールに向かってそう言ってみた。


「な、何のことですか?」


「一件目は西側の一番端で遠く、二件目は壁で囲まれていて日当たりが悪い、ここまでくればここも何かが理由で売れ残っている建物だと思うのが普通じゃないですか?」


 売れ残っているところなんて、おそらくはどこか問題がある建物ばかりなのだろう。良い物件であれば売れ残る理由もないのだから。


 しばらく俺がじっと見ていると、諦めたのか話し始めた。


「まぁ最初から話すつもりだったのでいいのですが、ここはどうやら治安がとても悪いらしく、周りでは喧嘩は毎日のように起こり、流血沙汰も多いとか。そういった理由から住む人がいないということらしいです。街の南側なので当たり前と言えばそうなのですが」


 なるほど、治安ね。まぁ確かに女性や子どもは心配にはなるけれど。そう思って他の人はどうだろうと見てみると、そこまでリカルドは気にしていなそうで、マリーは少し顔をしかめていた。


 まぁおおむね予想通りだな。


 ユア? ユアはさっきからきょろきょろと辺りを見渡している。さっきからずっとこんな様子である。俺から離れないというのは絶対らしく、気になってもそこへ向かって行ったりはしないようだけど。


 建物自体はいい感じのものだった。二階建てで食堂も大きく、部屋数もある。そしてお風呂もあるらしく、マリーとユアなんかはとても興味を惹かれていたようだった。


 その後も回って他のところの建物も見たのだが、庭はやけに広いが屋敷はその分小さくなっているとか、屋敷が二つに分かれているところとかそういう特殊なものばかりであった。


 そうして予定していた物件見学はお昼を少し過ぎたくらいの時間帯で終わったのであった。


 アミュールとはその場でわかれ、話は昼ご飯を食べながらということになった。そして俺とリカルド、マリーの三人で今日見た中で一番いいと思ったものを上げていくことになった。ユアはどこも面白そうに見ていたこともあって、別に聞かなくてもいいだろう。それよりも今は食べることに夢中になっている。


「俺はあの一番近いところがいいと思ったな」


「あの治安の悪いところですか」


リカルドはあの治安が悪いと言っていたところがいいと判断したようだ。


「私は冒険者ギルドのことを置いておくのであれば、西の端のところがいいと思います」


 つまりどこもいいと思わないということだね。


「そうだなー。私もあの治安が悪いと言っていた場所が、今日見た中では一番良かったかな」


 周りが迷惑という問題さえなくなれば、お風呂もあっていいと思うんだけどな。


「まぁ治安が悪いのは確かに心配だよね。特に私たちはあのひどい環境にいたのだから余計にそう思うし。他のところは改装するってのは出来ないの? 全部じゃなくて一部だけとかでも」


「それは俺も考えたんだけどな、改装するにも金は掛かるし、許可を取らないといけないし、それから日数も掛かるということで、無理だな」


「そっか、そこでお金を使うと他のことで使うことが出来なくなるかもしれないもんね。無理かー」


 そこでみんな静かになってしまった。問題は治安か、どうにかならないかね。


「リカルド、治安が悪いのはどうにかならない?」


 無茶ぶりもいいところで聞いてみることにしたところ、意外な言葉が出てきた。


「どうにかなるかもしれない、いや、わからないが、今日俺が行って見て大丈夫そうならその場所をクランの拠点として大丈夫になると思う」


「え? どういうこと?」


 マリーもわからないのか不思議そうな顔をしている。


「今日の夜にあそこら辺を仕切っているやつに話を付けることが出来れば、あそこで暮らしても子どもたちも安全になると思う。でも話してもダメだった場合は目を付けられる可能性もあるから近くに住むのは止めといた方がいいだろうな」


「つまり乗り込んで、話を付けると?」


「ああ、そういうことだ」


「大丈夫なの? 一緒に行こうか?」


「いや、俺一人で大丈夫だ。これでも俺は強いからな、適当なそこそこの組織の一つくらい一人でも余裕だ」


「まぁそういうのであれば、任せるけど。無理はしないようにね」


「わかってるさ」


 そういうことで、リカルドに任せることにした。マリーも話を聞いてて、任せることに同意したのであった。とても心配そうな顔はしていたが。


 どうやら、俺がユアとイチャイチャしている間に仲良くなっていたようであった。いや、イチャイチャはしてないか。



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