12話
ギルドマスターの部屋を出て寝ていた部屋に戻った俺たちは、その後はのんびりとユアと一緒に過ごしていた。
その中で色んなことを聞き出しながら話しているうちに、ユアのことが少しずつわかってきた。
ユアは年齢は十歳で、獣族の猫人ということがわかった。
獣族というのは何かしらの、例えば犬や猫などの動物などの特徴を持った人間のことで、人族、これは一般的な人の特徴しか持っていない人のことだが、よりも全体的に身体能力が優れた種族となっている。
その代り、魔法を使うことを基本的に苦手としているらしい。逆に獣族しか使えない魔法を持っているということもあるそうだが。
転生の際、竜王も獣族と言っていたので、種族としての枠組みは同じということになるのだろうな。
竜の特徴って何だろうな、翼や尻尾、後は鱗あたりだろうか。何にしても強そうだ。竜王に転生したのはあの女の子だったから、あの子であればあってもいいかなとも思っている。一緒に転生した中でまともそうに思えたしな。
他の二人はめんどくさそうなので、関わらないで済むのであればそれに越したことはないな。勇者とか魔王とか別に嫌なことがあったわけではないが、どちらも気にしないといけないことが多過ぎて面倒に思えてしまう。
他にもユアが親との思い出や教わったことなどを話してもらいながら、時間が過ぎていった。
どのくらい話していたかはわからないが、二人で話している中、扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞー」
俺が返事を返すと、扉を開けたのはリカルドだった。
「昼飯の準備が出来たから来てくれ。みんなと食べれるように部屋を用意してもらったからそっちで食べることになった。そこでクランの返事も聞かせてくれるようにしてあるから」
どうやらもうそんな時間になっていたようだ。
みんなというのはおそらく捕まっていたみんなのことなのだろう。クランの話をもう決めるのかとも思ったが、考えてみるとこのギルドにいつまでもいるわけにもいかないから決めるのであれば早い方がいいのであろう。もっと自分の今後に関わることなのだから考えて欲しかったのだけど。
「わかったよ」
俺は返事をし、ユアと一緒にリカルドの後に付いて行った。
部屋は同じ階にあるらしく、移動したのはほんの少し歩いただけだった。
そしてその部屋に入るとそこは二十人くらいだろうか、そのくらいの人数が入れるような広さの縦長の部屋だった。
すでに他のみんなはいるようで、食事も並べてあり、座って俺らのことを待っていたようだ。
子どもたちも騒がしくすることなく女性たちのことを良く聞いているのか、大人しく座っていた。
「俺らは奥だな」
俺とリカルド、そしてユアは空いている一番奥の席に座ることになっていた。もちろんユアは俺の隣である。
席に着くと、リカルドが立って周囲を見渡してから、コップを持った。
「それじゃみんなも持ってもらって、さっき言ったクランの話は食事の後にして、まずは食べようか。レヴィに助けてもらったことに感謝を込めて、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
いや、俺が助けたって確かにそうなるのかもしれないけど、改めて言われるのはなんか、恥ずかしいというか。何というか。
俺が一人で恥ずかしがっている間、他のみんなは気にすることなく、楽しそうに目の前の食事を食べていた。
なんかもっとこうなんかないのかな。一人で恥ずかしがっているのが馬鹿みたいじゃないか。
「どうした? 食わないのか?」
終いにはリカルドにそう言われてしまった。
「食べるよ、食べますとも」
もう勝手にしろ。そう思いながら俺も目の前の食事に手を付けることにした。
まぁなんであれ、目の前のこの楽しそうな光景を見ることが出来れば、良かったと思うのであった。
ずっとひどい環境で、頼れる人もいないような場所で過ごしてきたんだ。ずっとこんな光景が続けばいいなと思った。子どもは楽しそうに笑っているのが一番だし、それは大人にとっても同じことだと思う。
そんな賑やかな食事も終わり、ついにクランの話へとなった。
ギルドマスターとの話が終わってから、すぐにリカルドとアルターナが話をしてくれていたらしく、昼まで考える時間を作ってくれた。ここにいないアルターナにも感謝しないとな。
さっきも思ったが、俺からすればこれからの自分の人生なのだからもっと考えて欲しいとは思ったのだが、まぁしょうがないのだろう。いつまでも今のままというふうにはいられない。
自分たちだけでは稼ぐことも出来ず、明日の食事も手に入れることが出来るかどうかすらわからないのだから。
「そろそろ話に移ることにするか。というかまぁ、返事自体は話を持って行ったときにみんな返事を返してもらっていたのだが、それでもしっかりと考えてもらったわけだったんだが、返事は変わらないのか?」
リカルドがみんなに対してそう、話しかけていたのだが。
返事をしてもらっていたとは? どういうことなのだろうか。答えはすでに出ているという感じにも受け取れる。
みんな力強く頷いたり、はい、という返事も返したりしている。子どもたちは言っていることがわからないのか、不思議そうな顔をしている子たちもいたけど、返事を返したみんなはそのことに同意しているようだった。
どうやら、俺の知らない間に話が進んでいたようだった。
「私たちはみんな、帰る場所もなく、行く当てもないものしかいません。それに助けていただいた恩を返したいと思っているのです。出来ないことや迷惑をかけることもたくさんあるとは思いますが、精いっぱい出来ることを努めさせていただきますので、どうかよろしくお願いします」
女性たちの代表なのか、一人の女性がそう言って頭を下げると、他の人たちもみんな頭を下げた。
「そうか、わかった。では、一緒に頑張っていこう」
そう言ってリカルドはその返事に対して返すのであった。俺が空気だな。
んー、話に付いていけてないな。何か話が勝手に進んでいるようだし、わけがわからん。
「なぁ、話が勝手に進んでいるようだけど、どうなってんの?」
俺はこれ以上話に付いていけなくなるのはまずいと思い、リカルドに聞いてみることにした。
「ああ、すまんすまん。実はだな、さっき話をしに行ったときに、みんなそのクランに入れさせてくれと言ってきたんだ。その時はレヴィもきちんと考えて欲しいと言っていたからな、改めてきちんと考えてもらって答えはみんなが集まった時にするということになったというわけだ」
「それはみんなにきちんと話を聞いたの? みんながいるこの場だと、みんなの答えに合わせてしまって自分の意見が言いにくくなるんだよ。だから本当は嫌なのに嫌だと言えなくなるから、個別の方がいいと思うんだけど」
「それについては俺も経験があったからな、一人ずつ話をしたさ。でもここいるみんなはさっきも言っていたが、帰る場所がなくて困っている人しかいないんだ。子どもも含めてな。だからこのクランを作るという話は唯一の救いみたいなもんなんだよ。だからみんな協力してやっていこうということがさっき決まったわけだな」
「そう、それならいいんだけど」
「それにここにいるみんな、レヴィに少しでも恩を返したいと思ってるんだよ。だからまぁなんだ、これからよろしくな」
「わかったよ。みんなもこれから色々と大変だと思うけどよろしくね」
「「「はい!」」」
俺がみんなに対してそう言うと、気持ちがいいくらい揃った返事が返ってきたのであった。
「でも、リカルドもいいのか?」
俺は確認を取らないといけないと思いそう聞いてみると。
「ああ、俺も含めて戦闘奴隷だった俺たちはたぶんクランに入らなくても、生活していくことが出来るのだろうな。でもな、俺たちも助けてもらった身だ、だから俺たちも協力してやっていきたいと思うしあいつらも子どもたちの面倒を見たりしてか、ぜひ協力させてくれって言ってきたんだよ」
その言葉を聞いて、男たちの方を向くとみんな力強く頷くのであった。
「わかったよ。それじゃ、リカルドたちもこれからよろしくな」
「よろしく頼む」
こうして俺たちのクランが作られることが決まったのであった。
そして食事も話すこともとりあえずは終わったので、この場は解散になることになった。
今後の細かい話はギルドマスターも交えて話さないといけないのであろう。それに子どもたちもずっとこの場所にいることは耐えられないだろうからな。
俺も立ち上がって、部屋を出ようとすると、ユアが抱き着いて来て俺のことを見上げてきた。
「レヴィ! 私も頑張るから、よろしくね!」
「ああ、よろしくな」
満面の笑みに対して俺も笑顔で返すのであった。
「レヴィ、ギルドマスターのところに話に行くから一緒に行くぞ」
そんな中邪魔するようにリカルドが俺に向かって言ってきた。
「なんで私も?」
「何当たり前のことを言ってんだ。ユアも一緒でいいから、ほらさっさと行くぞ」
そう言うと、前を向いて歩きだしてしまった。
それを見て、なんで俺も行かないといけないのかわからないまま、俺もユアと手を繋いで、リカルドの後を追って歩き出したのだった。




