第11話
「待ってください!! ランスさーん!」
城から出たランスは背後から声をかけられた。
振り向くとそこには一人の少女がいた。
「ああ、私、エイミアと言います」
ランスには見覚えがあった。
年の頃は16歳ほど、他の少女たちは7歳から12歳くらいといったところであったため目についた。
加えて、国王のコレクションたちは皆幼いながらに容姿端麗な者ばかりだが、エイミアの容姿は一際優れていた。
鋭い切れ目でありながらどこか愛くるしさを感じさせる整った目鼻立ち、流れるようなウェーブのかかった金髪、艶のある白い肌と年の割には出るところは出て締まるところは締まった肢体を露出の高いゴシックロリータで包んだ姿は、16歳という年齢にしてすでに万人を魅了する人並み外れた艶やかささを持っていた。
エイミアは頭を下げて言う。
「助けていただいて、ありがとうございました」
別にランスはそんなつもりは無かったが、事実だけ見ればそうなのだろう。
「それでその、お願いがあるんですが……」
「お願い?」
「私を連れて行ってください!」
「……どういうことだ?」
エイミアが何を言っているのかイマイチ飲み込めてないランスは首を傾げた。
しかし、エイミアはそんなランスの手を両手で握ってきた。
「アナタは私の王子様ですから!!」
さらにランスの理解が遠くなるワードが飛び出してきた。
「私……急に、2日前にあそこに連れていかれて、怖くて……だから、ランスさんが現れたとき思ったんです。ああ、この人は私を救いに来てくれた運命の人だって!」
なるほど、新入りだったのかとランスは頷く。確かに、エイミアの目は他の少女たちと違って死んではいなかった。むしろ感情豊かな輝きに満ちている。
というか、キラキラしすぎである。
「俺は、別にお前を救いに来たわけじゃ」
「それに、強い男の人って素敵ですし……」
ポッ、と顔を赤らめるエイミア。
人の話を聞く気は全く無いようである。
「ですから、どうか私を一緒に連れて行ってください!!」
ランスはしばし黙って、今、エイミアが言った言葉を整理する。
「……分からないな。せっかく自由になったんだから、わざわざ俺と一緒に来る意味が分からない」
「私がそうしたいからです!! 本当になんでもしますよ? 何かしてほしいことありますか? それこそ、その、エッチなことでも……」
エイミアは目を少し潤ませて上目遣いでそう言いながら、ランスの体に身をもたげてくる。
「いや、特に無いが」
ランスは表情一つ変えずにそう言った。
「そんなぁ。なにか、何かあるでしょう?」
そう言われてもな、と、ランスは腕組みをして考える。
「……ああ、一個だけある」
エイミアの表情が、ぱぁっと明るくなった。
「俺を、殺しにきて欲しい」
「え?」
ランスはきょとんとするエイミアを引きはがして、その場を去ろうとする。
その背後から、エイミアの声が聞こえた。
「分かりました!! ランスさん!! それをあなたが望むなら。私はアナタを殺しに行きますからねー」
口にしている内容は物騒であったが、元気な声でエイミアはそう言った。
□□□
ミシマ・カケルは肌触りのいいカーペットの上で目を覚ました。
何が起こったかは分からないが。どうやら自分は死んでいないらしい。
そう言えば、目前に迫った死の恐怖に気絶する直前、何者かに体を抱え上げられたような感覚があったが。
そんなことを考えつつ体を起こす。
「……ここは、どこでしゅかね?」
そう言って、周囲を見回して言葉を失う。
まず目に飛び込んできたのは、黒。
内装は大きな協会の中そのものなのだが、とにかく目につくもののほとんどが黒い。床も壁も天井も装飾品も、全てが深い黒である。唯一の他の色はミシマが先ほどまで倒れていたカーペットの赤色だろうか。
だが、それ以上にミシマが自らの目を疑ったものがある。
教壇の後ろの壁に備え付けられた、大型の液晶モニターである。
魔法による独自の発展をしているが、この世界の技術レベルは中世ヨーロッパのそれに近い。なればこそ、絶対にあってはならないものがそこにあったのだ。
しかも、モニターが映している映像は先ほどのランスとミシマの戦いであった。
どうやって撮ったのかはさておき、かなり高画質の録画技術である。
「ああ、素晴らしい。神々しいまでの強さだ。なあ、君。そうは思わないかね?」
モニターの前に置いてある回転式の豪奢な椅子。
その椅子がクルリと回って、声の主がミシマの方を向いた。
「な、なんだお前は……」
ミシマはその姿を見て、声を詰まらせる。
漆黒のカソックに身を包んだ、黒い髪の少年である。
その顔立ちは至って平凡、現代日本に生まれ育ったミシマの感覚で平凡である。
「それはさておき、一先ずはお互いこの邂逅を喜ぼうじゃないか。この世界では同郷の者との出会いは貴重だ。そうだろう?」
しかし。その瞳を見たとき。
ミシマはゾワリと自らの身が総毛立つのを感じた。
黒い瞳。日本では当たり前のものだが、その奥に秘めたドロドロとした黒い輝きは、尋常のそれではない。ランスとは真逆。あの白い瞳を無謬にして絶無の光とするなら、この少年は混沌にして全てを飲み込む闇。
少年は豪奢な椅子に座ったまま、ニヤリと、まるで神話に出てくる悪魔のごとき歪んだ笑顔を作って言う。
「初めましてミシマ・カケル。私は中央正教会最大教皇ユウヤ・アストラティウス。もっとも、アストラティウスはこの地位についてから持った名前でね。日本での名前はサトウ・ユウヤだ。なんの変哲もなくて覚えやすい名前だろう?」
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