2人の幹部
ワタルたちが前線に着くと、既に他の冒険者と兵士たちも多く着いており、大規模な戦闘が始まっていた。
戦況は、まだ数で劣っている人間側が不利に見えるが、すぐに数も多くなり巻き返すだろう。
「俺とエレナが前衛、マリーとレクシアが後衛でいくよ。死なないことを最優先で考えてね」
ワタルの指示に3人が頷き、それぞれ武器を構える。
全体を見回して魔族が多く人間が少ない場所を見つけ、4人でそちらへ走って向かう。
「名刀白夜、その力を試す絶好の機会だ」
敵の大軍に近付いたところで、エレナが脚に力を込めて一気に距離を詰める。
魔族たちはエレナの速度に反応できず、ろくな反撃もできないまま切断されていく。
「魔法剣」
ワタルも負けじと夜想曲の剣に水を纏わせ、魔族たちに向けて横薙ぎに振る。
斬れ味よ向上し、刀身も数倍になった夜想曲の剣は、1度振っただけで多くの魔族を両断する。
「これだけ敵が多ければ、魔法が輝くのう」
「そうだね。私達も頑張らないと」
マリーとレクシアは、ワタルとエレナとは別の方向へ、同時に電撃を放つ。
無詠唱で素早いその魔法に、魔族たちは痺れ、運が悪いものはそのまま死んでいく。
死ななかった魔族も、動けなくなったところをほかの人間が倒していく。
魔族の大軍との戦闘は、徐々に人間側が有利になっていく。
それは喜ぶべきことだが、ワタルの胸には別の思いが浮かんでいた。
「順調すぎるね」
「敵の幹部がいるという話だったが、奥か?」
エレナも同じことを思っていたようだった。
魔族たちの数はかなり減っており、いつもならこのぐらいのタイミングで、奥にいる魔族の大将が撤退を始めるはずだが、今回はそれがない。
その時だった。
魔族たちが左右に分かれ、その奥から2人の魔族が姿を現す。
「あれが目標か」
「我と貴様が行くほどの相手には思えんな」
「幹部が2人やられている。油断するな」
「我が人間如きに倒されるというのであるか?」
「慢心は敗北を生み出す」
「相変わらず堅物であるな、貴様は」
1人は全身を紫色の鎧で包み、腰に黒い剣を差している騎士。
もう1人は姿形こそ人間そのものだが、放つ雰囲気が明らかに人間のそれとは違う。
どちらもワタルの方を向いており、対峙しただけでワタルは自分と相手との力量差を感じ取る。
「お前らが幹部だな!」
「全員でかかれ!」
その魔族2人が動くよりも、人間側が数十人の規模で一斉に襲いかかる。
周りの魔族は動く素振りも見せず、騎士の方はチラリと人間たちを見て剣に手をかけ、人間の姿をした魔族はため息をつく。
「我の視線を塞ぐでない」
2人の魔族の腕がぶれたかと思えば、騎士に襲いかかった人間たちはその場に倒れ付し、人間の姿をした魔族に襲いかかった人間たちは、血を飛び散らせ肉片となってボトボトと落ちる。
「殺さぬのか?」
「雑魚を何人殺しても意味がない」
2人の魔族は人間たちなど気にもとめず、話している。
「エレナ、見えた?」
「あの2人が腕を振ったのは」
ワタルとエレナは、その場から一歩も動けなかった。
今までの相手とは格が違う。
嫌でも思ってしまう。
そこへ、マリーとレクシアが合流し、それに気付いた2人の魔族がワタルたちへ体を向ける。
「さて、自己紹介といこう。我が名はコラール。悪魔である」
「ロンド。黒騎士と名乗ろう」
幹部が2人。
ワタルの予想が的中してしまった。
「ワタル、左右から行くぞ」
「……わかった」
エレナの声に、ワタルは素早く頭を切り替え、敵を見据える。
後ろのマリーとレクシアに援護の合図を送り、2人同時に走り出す。
「向かってくるか。貴様は手を出すでないぞ」
コラールは1人で相手をする気なのか、ロンドを後ろはと下げる。
「はああっ!」
エレナは一瞬だけ加速を使って深く踏み込むと、コラールの腹へ横薙ぎを放つ。
さらに一拍遅れ、ワタルがコラールの首元へ突きを放つ。
「なんだ、この程度であるか」
どちらも2人にとって完璧なタイミングでの、懇親の一撃だった。
それを、コラールはそれぞれ指2本で掴み、防いでいた。
「まだ終わりではないだろう?」
「っ……このっ!」
コラールは指を2人の剣から離し、煽るようにそう言う。
2人は連続で剣を振るが、その全てを弾かれ受け流され、1度も当たらない。
「雷槌」
何度目かの攻撃を弾かれたところで、2人は同時に後ろへ下がる。
そこへ、詠唱を終え雷の槌を右手に持ったレクシアが、コラールへそれを振り下ろす。
コラールは片腕を上げ防ごうとするが、雷の槌は腕を伝って電撃をコラールの体へ流す。
「今のは少し効いた。が、まだまだであるな」
今までの幹部なら、これで動きが止まるなどしていただろう。
しかしコラールは、ダメージなどないかのように笑い、レクシアへ拳を放つ。
「う、おっ!」
咄嗟にワタルが間に入り盾で防ぐが、その威力はとても耐えられるものではなく、盾は砕け散りレクシアごと後ろへ吹き飛ばされる。
幸いダメージも少なく、盾もすぐに再生を始めるが、時間がかかりそうだった。
「消し飛べ」
コラールの周囲に人がいなくなったのを見て、マリーが展開していた魔法陣の魔法を発動する。
使う魔法は爆発魔法。
聖魔法よりも、一撃の破壊力が高い魔法を選んでいる。
マリーの魔法は狙い違わずコラールに直撃し、凄まじい爆風と煙が舞い上がる。
ワタルたちが警戒して見守る中、ゆっくりと煙が晴れていく。
「傷を負ったのはいつぶりであろうか。素晴らしい魔導師であるな」
着ていたスーツが所々焼け焦げ、その体にも火傷を負ったコラールが姿を現す。
その顔は笑っており、この戦闘を楽しんでいるようだ。
「マリー、俺が渡した魔法陣と詠唱をお願い」
「構わんが、それまで黙っている相手ではなさそうじゃが?」
「俺が時間を稼ぐ。5分ならなんとかするよ。レクシア」
ワタルはマリーへ指示を出し、レクシアを呼ぶ。
「ワタルくん、もしかして……」
「うん、やるよ」
レクシアは少し迷いを見せたが、ワタルの顔を見て魔剣へと姿を変える。
今からやるのは、レクシアの身体能力を底上げする力だ。
神に近付く力と引き換えに、使用者に激痛を与えるという諸刃の剣だ。
「私が行っても足でまといだろう。ここでマリーのことを守ることにする」
「頼んだよ、エレナ」
今は周囲の魔族は動いていないが、そらが続く保証もない。
エレナにマリーの近くにいてもらうことで、その点は安心できるだろう。
「魔剣か。楽しませてくれるのであろうな?」
「油断してると怪我しますよ」
ワタルはゆっくりとコラールの方へ歩いていき、あと数歩で斬れるところで立ち止まり、対峙する。
もう1人の幹部であるロンドを見るが、ロンドはまったく動かず傍観しているだけだ。
「他に注意を向けるよりも、目の前の我に全神経を注ぐべきであろうな」
「疑り深いもので」
視線の動きもバレていたのか、コラールにそう忠告され、ワタルはその通りにコラールに集中する。
少しでも気がそれれば、その瞬間に殺されるような相手だ。
まずは目の前のコラールを倒す。
そう心に決め、魔剣レクシアを構える。




