おまけの話
と、そんな光景をたまたま目撃してしまったカイルは、その場で思い切り固まる。
「えーと……」
カイルを案内していたネリーは、なんと声をかけていいか分からず、思わず言葉を探してしまう。
「こりゃ、情熱的な」
対照的にリルディ護衛のためにその場にいたアランは、面白そうに口笛を吹くが、ネリーに睨まれ肩を竦ませる。
王として激務をこなすカイルだったが、ひと時だけでもとリルディのもとへとやってきたのだ。
そこで目撃したのは、ラウラを抱きしめるリルディの姿。
別にそこにやましさがないのは重々承知している。
だが、そうであっても何となく面白くない。
それに聞いてしまった、聞き捨てならない言葉。
「”大好き”か……」
ボソッと呟き項垂れるカイル。
その言葉は自分だけのもので、特別な響きが含まれているのだと思っていた。
まさか、他の者に向けて、こうもすんなり口にしているとは思いもしなかった。
「あの子、恥ずかしげもなく、けっこう”大好き”って言いますよね」
「そ、そうなのか?」
「そうそう。けどさ、免疫ある俺ですら、ちょっとドキドキしちまうし。免疫ない奴とかだと、大変なんだよなー」
「……」
まさに免疫がなかった人物が一人。
アランの言葉に大打撃を受ける。
「姫さんの“大好き”は挨拶みたいなもんだからな。つっても、真に受けた輩は一人や二人じゃないけどな……って王様! 殺気。めっちゃ殺気出てるから」
カイルからどす黒いオーラが放たれ、その場は一気に殺伐とした雰囲気が漂う。
「それで、真に受けた輩は?」
「まあ、あれだ。過保護連中に排除されて、姫さんには想い届かずだったな」
騎士であるクラウスや幼馴染のアルテュールがガードしていたため、いつもリルディは気づかず仕舞いだったのだ。
(そのおかげで、恋愛ごとにはとことん鈍くなったわけだけどな)
それなりにモテるのに、本人はその自覚はゼロ。
「王様も苦労するよな」
「安心しろ。そういう輩が出てきた場合は、跡形もなく抹消する」
アランの言葉を違う意味に捉えたカイルは、即座にそう言い放つ。
「笑えねーんだけど」
王という地位とカイル自身が持つ魔力。
冗談ではなく、本気できれいさっぱり消すことが出来るだろう。
「だ、大丈夫です! 私たちがきっちり目を光らせていますから」
ネリーは慌ててそう言い放つ。
いつも冷静沈着であるこの王が、リルディが絡むと暴走するということを、嫌と言うほど知っている。
「あぁ。だが、伏兵は意外に近くにいるものなのだな」
リルディと語るラウラを見ながら呟く。
この日から、ラウラはカイルから“小さなライバル”認定を受けたのだが、もちろん本人は知る由もないのだった。
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(拍手お礼SS小説は、おまけのおまけ話となっています)