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(セイト視点)
翌日から、彼女との変わった生活が始まった。
楽しみにしていた彼女との生活のはずなのに、城に足を踏み入れた瞬間、僕の表情は一気に曇った。
そこら中にホコリが積もり、クモのような魔物の巣が張り巡らされ、魔獣たちが汚したシミがあちこちに残っている。
「……どの部屋でも好きに使って」
そう言われて見て回った空き部屋は、どれも同じように荒れ果てていた。
一か所だけまだマシな場所があったが、そこはきっと昨日倒したあの子が使っていた場所なのだろう。
その近くの別の部屋を軽く片付けて一夜を過ごしたが、我慢ならずあまり眠れなかった。
それで現在、僕は城中を大掃除している。
魔物や魔獣たちが、遠目にこちらの様子をうかがっていた。
住処や縄張りを荒らされると思っているようだ。
「君たちの生活を荒らすつもりはないよ」
僕は安心させるように微笑んだ。
「ねぇ……私の願いを叶えてくれるんじゃなかったの?」
彼女は訝しげに問いかけてきた。
「君に協力はするよ。でも、ここはまともな人間が住めるような場所じゃない……あまりに酷すぎる」
「とりあえず、掃除からだな」
そう伝えると、彼女はあからさまに不貞腐れていた。
数日かけて城の中をきれいにした。
魔物や魔獣たちの環境も整えてやると、彼らは明らかに喜んでいた。
問題は彼女の居住スペースの方だった。
中を見せまいとする彼女を振り切り、無理やり中へ入る。
むせ返るほどの塵とホコリが積もり、窓がいつから開かれていないのかも分からない。
彼女がいつもいる場所だけが、ぽっかりと空いている。
彼女に生活能力がないのは、うすうす気づいていた。
前の世界で、彼女は母親の操り人形のようだったのを、僕は覚えている。
掃除をしながら、昔の彼女と前世の記憶を重ねて思い出していた。
初めて彼女に出会ったのは、母校の文化祭。
特に興味もなく、友達と連絡を取り合う後輩を少し見て帰るつもりだった。
途中で、女子生徒に声をかけまくっていた友達とはぐれ、なんとなく校舎をうろついていた。
気づけば、一年生の教室の前まで来ていた。
彼女は、クラス展示の受付に立っていた。
文化祭ということもあって、周囲は化粧や髪型、服装で華やかに個性を出している。
そんな中、彼女の自然な美しさだけが目を引いた。
覗くつもりはなかったはずなのに、思わず声をかけていた。
「中、見ても良い?」
「はい、どうぞ。もし良かったらこのクラスに1票お願いします」
「後で入れておくよ」
「君、名前は?連絡先教えてよ」
普段なら絶対に言わないはずの言葉が、口をついていた。
「……ごめんなさい、教えられません」
表情を変えずに淡々と答える彼女の前に、教室の中から一人の女性が飛び出してきた。
「家の娘に近づくなんて許しません。どこかへ行きなさい」
そう言って、僕は中を見る前に追い払われた。
「お母さんはもう帰ります。ナンパには気をつけなさい、隙を見せないことね。終わったら必ず連絡するのよ」
影から様子をうかがっていると、女性はまくし立てるように言い残して去っていった。
女性が完全にいなくなったのを確認してから、彼女に声をかけ直した。
「今度こそ中見ても良い?」
「先程は、母が失礼しました。どうぞ」
彼女は変わらず無表情で答える。
中で展示物を見ていると、クラスメイトらしい女子が彼女に話しかけていた。
「――さん、ごめん。これから先輩のステージ見たいから、残りの時間もお願いできる?」
「特に見たいものもないのでいいですよ」
その時、思いがけず彼女の名前を知ることになった。
ツイてる……そう思った。
はぐれていた友達と合流し、後輩に彼女のことを話すと、探りを入れておくと約束してくれた。
ほんの出来心のはずだった。
数日後、後輩から報告が上がる。
彼女の連絡先を知る者は限られているらしい。
親が全てを管理しているということだった。
それと、数枚の写真が送られてきた。
文化祭前や当日の写真で、彼女がクラスメイトとともに控えめに写っている。
微かに笑みを浮かべているものもあった。
僕はひどく心を打たれた。
彼女のすべてを手に入れたい。
あの母親から救い出したい。
そんなことを考え始めていた。
ようやく彼女の部屋の掃除を終え、開かずの窓も開けられるようになった。
僕は懐かしさと、再び彼女の近くにいられる喜びを胸にしまい込み、隅で様子をうかがっていた彼女へ視線を向けた。




