19.
僕は、トワの死にたいという願いを叶えたいと思っていた。
それが、今の僕にできることであり、前世で彼女を救えなかった自分への償いになるのだと。
なのに、さっき少年の手を取るトワを見て、誰にも渡したくないと思ってしまった。
彼女を失いたくない。
そう思ってしまった。
けれど、彼女は長い年月、死を願いながら生きてきたのだ。
レンギョウはもういない。
魔女は現れない。
彼女が待っていたのかもしれない勇者が、自分を討ちに来ることも、もうない。
いずれ、魔女が現れないことに気づいた国は、その理由を確かめるために動き出すだろう。
この世界で彼女の存在を知り、記憶が蘇ったあの日から、ありとあらゆる本を読んできた。
このまま王都へ行ったところで、国の図書館に答えがあるとは限らない。
それならば、僕がトワのために死ねる方法を探すより、城に戻ったほうが、彼女の願いが叶う可能性は高いのではないか。
以前の僕なら、それが一番良いと考えたはずだ。
でも、もう彼女を城に帰したくない。
ずっとトワと一緒にいたい。
――そう思っている自分に、気づいた。
「ナギ、着替え終わった?」
その声で顔を上げると、部屋の入り口に少女が立っていた。
「フウカ、どうした?」
着替えを終えたナギが、少女のもとへ歩み寄る。
「えっと……一緒に祭り歩きたいなって」
フウカは俯き、両手の指先を擦り合わせている。
「なんだ、そんなことか」
ナギは小さく笑い、フウカの頭を撫でた。
その瞬間、フウカは耳まで赤く染まった。
そこへ、ココと着替えを終えたトワが戻ってきた。
「あら、フウカ?大丈夫?少し顔が赤いわよ」
ココが声をかけると、フウカはぷいっとそっぽを向いた。
「大丈夫よ!……ナギ、行きましょ!」
フウカはナギの手を引き、集会所の外へ出ていった。
「シロ、今日はお疲れ様。祭りを楽しんで」
ナギは後ろを振り向き、トワに声をかけた。
去り際、フウカが一瞬こちらを見た気がした。
「……ごめんなさい。あの子、昔からナギが好きなのよ」
ココは二人が出ていった扉を見つめ、ため息をついた。
「ナギは気づいていないみたいだけど……シロに取られるんじゃないかって、あんな態度を取っているのだと思うわ」
ココは呆れたように笑った。
「今日は、ありがとう。私は、母の手伝いに行くわ」
そう言い残し、ココも部屋を出ていった。
「僕たちも行こうか」
僕はトワに声をかけた。
「……うん」
彼女は短く返事をすると、僕の上着の裾を掴んだ。
思わず、彼女に目を向ける。
「……はぐれたら困ると思って」
トワは小さく呟く。
「そうだね。離れないように気をつけて」
僕は高鳴る鼓動を落ち着かせようと、ゆっくり息を吐いた。




