第36話「規格外の令嬢と無防備くのいち」
「あ、葵様……失礼します」
吉平はゴクリと唾を飲み込み、葵の背中に腕を回した。
先ほどのサチや桔梗の時と同じように麻紐を回そうとしたのだが、吉平の手がピタリと止まった。
「……吉平様? どうなさいました?」
「紐が……足りません」
吉平が用意していた麻紐の長さでは、葵の豊満すぎる胸の周りを一周させることができなかったのだ。
「あら、いけませんわね。吉平様、もう少し紐を強く引っ張って、私の体に食い込ませてみてくださいな。そうすれば届くかもしれませんわ」
「そ、そんなことしたら痛いじゃないですか!」
「いいえ、吉平様になら、少し痛くされても……あっ」
葵がわざとらしく吉平の腕に寄りかかると、その柔らかく暴力的なまでの質量が、吉平の腕をむにゅりと押し包んだ。
「あ、葵様! 自分で紐を足すから! 寄りかからないで!」
吉平は顔から火を吹きそうになりながら、慌てて新しい紐を継ぎ足し、なんとか葵の採寸を終えた。彼女のウエストは驚くほど細く、そこからお尻にかけての曲線は、まさに計算し尽くされた美の黄金比だった。測り終えた吉平は、精神力を使い果たしてフラフラになっていた。
「よし、これで全員……」
「吉平様、私をお忘れですか!」
シュタッ! という音と共に、天井のハンモックから美影が音もなく飛び降りてきた。
「わっ! びっくりした……そうだな、美影の分も作らないと」
「はい! さあ、私の体の隅々まで、その紐で拘束してください! 忍びとして、いかなる尋問にも耐えてみせます!」
美影はなぜか両手を後ろで組み、胸を張って尋問を受ける囚人のようなポーズをとった。
「尋問じゃないってば。普通に立っててくれればいいから」
吉平が苦笑いしながら紐を回すと、美影はサチたちのように恥じらうどころか、吉平の体にピタリとすり寄ってきた。
「み、美影? 近いぞ」
「吉平様、下着というのは変装にも使えるのですよね? ならば、私の体の形を、紐だけでなく吉平様の手のひらにもしっかりと記憶させておくべきかと……」
「そんな忍術はない! じっとしてろ!」
ドタバタの採寸儀式をなんとか乗り越えた吉平は、四人分の寸法が記された木簡を握りしめ、そのまま作業部屋へと倒れ込んだ。
しかし、休んでいる暇はない。彼女たちがノーパン・ノーブラで過ごしている危険な現状を打破するため、すぐに裁縫に取り掛からなければならないのだ。
当時の日本には、現代の下着に使われるような「ゴム」は存在しない。伸縮性のない布をどうやって体にフィットさせるか。吉平は現代の「ラップドレス」や「ふんどし」、そして「紐付きのビキニ」の構造を思い出しながら、商人から買っていた極上の柔らかい絹と綿布を裁断し始めた。
肌に触れる部分は縫い目が当たらないように工夫し、通気性と保温性を両立させる。胸を優しく包み込み、背中や脇の紐でサイズを調整できる「ブラジャー(のようなもの)」と、腰の紐で結ぶ「ショーツ(のようなもの)」。
吉平は村の裁縫上手な女性たちにも手伝わせず、徹夜で自分一人で針を動かし続けた。万が一、女性たちもつくってほしいと言われたら…またも採寸修行になりかねないからだ。




