第34話「湯上がりの無防備と、平安乙女の下着事情」
大浴場「極楽の石風呂」の完成により、吉平一家の夜の生活は劇的な変化を遂げていた。
体の芯まで温まる風呂上がりは最高に心地よく、四人の乙女たちは湯上がりの火照った体を冷ますため、吉平が作ったゆったりとした部屋着(あるいは薄い単衣)一枚という、極めて身軽な格好でくつろぐようになったのだ。
しかし、それが吉平にとって、別の意味で命を削る過酷な試練の始まりだった。
「あー、極楽極楽っ。石のお風呂って、いつまでも足先がぽかぽかしてて最高ねー」
サチが縁側にゴロンと寝転がり、バタバタと両足を揺らした。
その瞬間、ゆったりとした部屋着の裾が重力に従ってめくれ上がり、健康的な太ももの付け根、さらにその奥の「絶対に見えてはいけない領域」までが、何の防御もなく吉平の視界に飛び込んできそうになる。
「さ、サチ! 裾! 裾を押さえろ!」
吉平が慌てて顔を背けると、今度は背後から甘い声が聞こえた。
「吉平様、明日の商いの件ですが……」
葵が吉平の隣に座り、机の上の木簡を覗き込むように前かがみになる。帯で胸を縛っていない彼女の単衣の襟元がたわみ、規格外の豊満な質量が、その先端の気配までもを伴って、吉平の目の前にぶらんとぶら下がった。
「あ、葵様! 襟元が緩んでます! 丸見えです!」
「何を慌てているのですか師匠。入浴によって高まった陽の気を循環させるため、こうして風を通すのが陰陽の……」
部屋の隅では、桔梗が謎の霊力体操と称して、単衣の袖や裾をパタパタとはためかせ、チラリズムどころか全開に近い状態で踊っている。
さらに極めつけは、天井から降ってきた声だった。
「吉平様、お風呂の火の始末、完了いたしました」
見上げれば、ハンモックから上半身を乗り出して逆さ吊り状態になった美影が報告をしてくれていた。しかし、逆さになったことで彼女の着物の裾が完全にめくれ下がり、白くて滑らかな下半身が、月の光に照らされて神々しいまでに露出してしまっている。
「み、美影ぇぇっ! お前は忍者なんだから重力に逆らうな! 丸出しだぞ!」
吉平は両手で顔を覆い、真っ赤になって絶叫した。
「お前ら、いくら家の中だからって無防備すぎる! 頼むから、せめて下着くらい着けてくれ!」
吉平の悲痛な叫びに、四人の少女たちは不思議そうに顔を見合わせた。
「したぎ? なにそれ?」
サチがきょとんと首を傾げる。
「吉平様。したぎ、とはいかなる布のことでしょうか。私たちは今、一番下に着る肌着である『小袖』を身につけておりますが……」
葵の言葉に、吉平は嫌な予感がして顔を上げた。
「いや、小袖の下だよ。胸を支えたり、下半身の……股のところを隠すための、体に密着した布のことだ。男のふんどしみたいなやつの、女の子バージョンだよ」
吉平の説明を聞いて、四人は「ああ」と納得したように頷いたが、桔梗が呆れたようにため息をついた。
「師匠、何を寝ぼけたことを。我々女性が、そのような窮屈な布を股や胸に巻きつける風習など、都のどこを探してもありませんよ。野山を走る男衆ならともかく、女性は小袖の上に袴を穿き、着物を重ねるだけです」
「……えっ」
吉平は凍りついた。
歴史の授業で聞いたことはあった気がする。平安時代の女性は、何枚も着物を重ね着する十二単の文化があるため、一番下は基本的に「何も穿いていない(ノーパン)」状態なのだと。
普段は重い着物や袴で隠れているから問題ないのだろうが、今は風呂上がりで薄着一枚。
「っ……てことは、お前ら今、その布一枚の下は……完全に、すっぽんぽんってことか!?」
吉平が顔から火を吹きそうになりながら確認すると、四人は少しだけ頬を染めながらも、小さく頷いた。
「そ、そう言われると恥ずかしいけど……でも、これが普通だし」
「吉平様がそこまで気になさるのなら、私、これから吉平様の前では常に布をめくって……」
「馬鹿なこと言うな美影!」
吉平は頭を抱えた。
今までは風呂に入らず、重ね着をしていたから気にならなかっただけだ。しかし、清潔な風呂の心地よさを知り、薄着で過ごすことを覚えた彼女たちにとって、この「ノーパン・ノーブラ状態」は、風紀的にも衛生的にも危険すぎる。
湯上がりの汗や、女性特有の衛生面を考えても、洗える下着は絶対に必要だ。
「……よし、決めた。俺が、お前たちに最強の『したぎ』を作ってやる」
吉平が真剣な顔で立ち上がると、少女たちは「新しい服ができるのね!」と無邪気に喜んだ。
しかし、女性用の下着を自作するということは、すなわち「彼女たちのスリーサイズを正確に測らなければならない」という、とんでもない地獄(天国)の儀式が待ち受けていることを、この時の吉平はまだ完全に理解していなかった。




