第31話「大浴場建設計画」
吉平の部屋の天井裏に吊るされた、特製のハンモック。
凄腕の忍び(自称)でありながら、ただの腹ペコな空き巣から吉平の居候へとジョブチェンジした美影にとって、そこは極上の聖域となっていた。
しかし、同居人が四人に増えたことで、吉平の家にはある深刻な問題が発生していた。
「順番待ち」である。
「ううっ、お湯がすっかりぬるくなっちゃった……」
その夜、四番目に木桶の風呂に入った美影は、肩を震わせながら小さくくしゃみをした。
吉平が沸かしてくれたお湯も、四人が連続で使えば最後にはすっかり冷めてしまうのだ。しかも吉平に至っては「俺は男だから水浴びでいいよ」と、寒空の下で井戸水を被っている始末である。
「吉平様、申し訳ありません! 私のような泥棒がお湯を使うせいで、吉平様が冷水風邪引きの行に……っ」
「いや、行じゃないから。でも確かに、この木桶じゃもう限界だな」
翌朝、吉平は四人の少女を居間に集めると、一枚の木簡を広げた。
「冬の風邪予防と衛生管理のために、みんなで一度に入れる『大浴場』を作ろうと思う」
「大浴場!? あの、貴族のお屋敷にあるような立派なやつ?」
サチが目を輝かせる。
「でも師匠、それほど巨大な木桶を作るとなれば、太くて立派な木材が大量に必要です。村の大工衆の手には余るのでは?」
桔梗が至極真っ当な疑問を口にした。
「だから、木材は使わない。近くの川原に落ちている『丸石』を集めて、漆喰で固めて石造りの浴槽を作るんだ。石は一度温まると冷めにくくて、芯から体が温まる最高の風呂になるぞ」
吉平の提案に、葵がパチンと扇を叩いた。
「素晴らしいですわ。いずれ村全体のための公衆浴場を作る際の、良い試金石になりますね」
こうして、吉平一家の「大浴場建設プロジェクト」が幕を開けた。
午後になり、五人は荷車を引いて冷たい風が吹く川原へとやってきた。
「よーし、手頃な丸い石をどんどん集めるわよ!」
サチが日頃の農作業で鍛えた腕力で、ぽんぽんと石を荷車に放り込んでいく。
「むっ、この石からは微かな陰の気を感じます……却下です」
桔梗は相変わらず斜め上の視点で石を厳選しており、作業が恐ろしく遅い。
冷たい川原に、賑やかな笑い声が響き渡る。
しかし、石を集めただけでは風呂は完成しない。極楽の大浴場を錬成するための、吉平の次なる物理チートがいよいよ火を噴く時が迫っていた。




