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パラレルユニバースオンライン~コミュ障女子高校生のリア充への道~  作者: 月輪林檎
自らの心を自覚し向き合う時間

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好きのきっかけは小さく、想いは極大

 練習が終わり、伊織と天花は伊織の部屋に戻って、それぞれの寝床に入っていった。環境が変わっているが、陽キャの順応能力の高さを見せた天花は、すんなりと眠りに就いた。

 天花が心配だった伊織も自然と夢の中に入っていった。


 そんな中で、丑三つ時過ぎ。天花は起き上がってトイレへと向かった。用を済ませて、欠伸をしながら伊織の部屋に戻る。部屋に戻った天花は、自分の布団に戻ろうとして、ふとベッドで眠る伊織の方を見た。


(そうだ……琴坂さんも一緒の部屋だった……)


 魔が差した天花はベッドに近づいていき、伊織の顔を覗きこむ。少し長めの前髪が掛かっているので、天花は伊織を起こさないようにしながら前髪を退かす。


(あっ……やっぱり綺麗……)


 伊織の寝顔を見た天花は、かつて見た伊織の顔と重ねていた。雪の受験日。高校に入る直前に雪によって見えにくくなっていた排水口に滑った天花を、後ろを歩いていた伊織が慌てて受け止めた。

 コミュ障の伊織は、そこからコミュニケーションを取る事も出来ず、天花を立たせた後、天花に頭を下げてからそそくさと受験会場である高校に入っていった。


 天花は、その時に受け止めてくれた伊織の顔を見て一目惚れする。受験中も伊織のことばかりを考える程に夢中になり、受験が終わった後も光莉、星奈、水音が恋煩いにでもなっているのかと思うような状態になっていた。

 高校に入り、伊織と同じクラスになった事を神に感謝し、即座に隣の席を取った。

 その後も授業中に伊織の横顔などを盗み見て呆ける事が多く、最近になってそもそも全く話していないという事に気付いた程にただ見ている事が幸せとなっていた。


 そういった事があったからこそ、伊織と本格的に話せるペアワークが行われた際、身体が前のめりになり、伊織との距離感を見失ってしまった。伊織の顔が間近で見られるという状況だったという事も大きい。

 そんな天花は、今でも伊織の事を見ているだけで、自身の胸に幸せな温かみが生まれている。


 胸が温かくなるのを感じていた天花は、自然と自分の手が伊織の唇に伸びている事に気付き、慌てて自分の手を止める。


(駄目駄目……寝込みを襲うなんて……でも、ちょっとくらい……いや! 駄目!!)


 天花は、自制心を強く持ち、少しだけズレてしまっている伊織の掛け布団を直してあげ、自分の布団に戻って眠りに就いた。


────────────────────


 鷲衣さんの寝息が聞こえてくる。どうやらちゃんと眠れたようだ。


(一体……何だったんだろう……?)


 ふと意識が覚醒したら、鷲衣さんが私の前髪を払っていた。何度か薄目で鷲衣さんを見ていたけど、鷲衣さんはそれには気付かなかったみたい。そもそも暗いし、見えなかっただけだったのかな。

 私をジッと見て、何か手を伸ばしてきていたみたいだけど、その手を自分で止めてから、私の布団を掛け直して布団に戻っていった。

 その行動の真意は分からないけど、手は私の顔に伸びていたようにも思える。


(何か……襲われるのかと思って期待しちゃった……『期待しちゃった』?)


 自分で自分の思考を疑問に思ってしまった。なんでそう考えたのか。私にはまだ分からなかった。


────────────────────


 翌日。朝起きた私は、鷲衣さんを起こさないようにして洗面所に行き顔を洗う。


(ふぅ……昨日のは夢だったのかな)


 記憶にはしっかりと残っているけど、昨日の夜にあった出来事が夢だったのか現実だったのかは判別が付かない。鷲衣さんに確認するという方法もあるけど、そんな手段を使えるのなら、私はコミュ障になっていない。

 部屋に戻ると、鷲衣さんが身体を起こしてぼーっとしていた。目がとろんとしている。そのまま寝ているかのよう。


(起きてる……寝てる?)


 どっちか判別が付かないので、鷲衣さんの傍に腰を下ろして目の前で手を振る。すると、鷲衣さんはピクッと反応して私を見た。


「あ……おはよう……琴坂さん……」

「お、おはよう……わ、鷲衣さん……だ、大丈夫……?」


 ちゃんと挨拶もしているし、時間も認識しているみたいだから大丈夫そうだけど、心配なので確認はしてみた。


「ああ……うん……時々……こうなる……調子良い時は……普通に……起きれる……けど……」


 どうやら鷲衣さんは朝に弱いらしい。調子良い時っていうのが、どのくらいの頻度かにもよるけど、割と大変そうだ。どうしたら良いのかと思っていると、鷲衣さんは徐に自分の頬を両手で叩いた。


「ふぅ……顔洗ってくるね……」

「あ、う、うん……た、タオルは洗面所にあるよ……」

「うん……ありがとう……」


 フラフラと鷲衣さんが歩いて行くけど、ちょっと心配になる。なので、バレないように後ろから追う。少し縮こまりながら洗面所に入っていく鷲衣さんを見送っていると、背後に気配を感じて振り返ると、お母さんが呆れた目をしていた。


「何してるのよ」

「わ、鷲衣さんがフラフラだから様子見……」

「朝弱いのかしら。私が見てくるから、制服に着替えなさい」

「は~い」


 お母さんにバトンタッチして、私は自分の部屋で制服に着替えてリビングに降りる。既に朝ご飯が出来ているので、テーブルに着いて朝ご飯を食べていると、制服に着替えた鷲衣さんも降りて来た。顔を洗ったからか、少しすっきりしたような表情になっていた。

 鷲衣さんもテーブルに着く。


「いただきます」

「召し上がれ。私は午後には行っちゃうから、伊織は鍵をちゃんと持っていきなさいよ」

「ん~」


 口に物が入っているので、呻くことで返事をする。そもそも毎日鍵は鞄に入っているので大丈夫なのだけど。


「天花ちゃんの合鍵はこれね。忘れないように」

「はい。ありがとうございます」


 鷲衣さんが合鍵を受け取った。これで、いつでもうちに帰る事が出来る。私がいないと入れないってなると、色々と困るからね。


「二人のお弁当は用意しておいたから」

「ありがとうございます」


 今日の夜からお母さんがいないので、夕食やお弁当なども自分達でやらないといけない。いつもは一人だから気楽だけど、鷲衣さんもいるし、ちょっと張り切っちゃおうかな……張り切っちゃおうかな!!

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