全く考えていなかったバンド名
翌日。学校が終わり、家に帰った私はパラユニにログインする。鷲衣さんは今日はログイン出来ないという事なので、私が一人でシェリアさんとアルシャさんをおもてなしする必要がある。
ログインした私はシェリアさんとアルシャさんに学校にいる間にしっかりと考えたメッセージを送る。一応、二人ともログインしているみたいなので、返事は返ってくるはず。返ってくる……返ってくるよね。
屋敷に腰を掛けて待っていると、五秒ほどで返事が来た。シェリアさんからだけだけど。
『堅すぎ。メッセージくらい軽く送りなさい。取り敢えず、ユートアルパの広場で待っているわ』
駄目出しされてしまった。
(ビジネスメールのやつ参考にしたのが駄目だったのかな……参考にするものを変えないと)
頭の中で反省しながら、屋敷を後にして中央区に走る。中央区の転移ポータルがある広場に来ると、すぐにベンチに座っているシェリアさんとアルシャさんを発見する事が出来た。
「おま、お待たせしました……!」
「走ってきたの? そんなに急がなくても逃げないわよ。私達からお願いしているんだから」
「あ、は、はい……あ、えと……その……あっ、こ、こっちにどうぞ……?」
「はい。話が出来る場所に案内して頂けるんですね。ありがとうございます」
アルシャさんの察しの良さが本当に助かる。鷲衣さんに大丈夫と言った以上、ちゃんとしないといけないというプレッシャーを自分で自分に掛けてしまい、ちょっとテンパってしまっていたから。
私は何度も後ろを確認しながら案内を始める。
「いや、だから逃げないわよ。前見て案内しなさい」
「あ、は、はい……」
ちゃんと付いてこられているかが心配になって確認しちゃうのだけど、それ自体が相手に失礼だという事に気付いて反省する。もてなしの心が私には備わっていなさすぎる。
人をもてなしたのが、鷲衣さんが初めてだから経験のなさが前面に出ている。そもそも鷲衣さんに関してもちゃんともてなせていたとは思えないし。
日本人にはもてなしの心が備わっているというから、私は日本人じゃなかったのかもしれない。
「あんたは、肩に力が入りすぎなのよ。別に会社の上司とかが相手じゃないんだから、もっと気楽にいなさいよ。まぁ、私も会社の上司がどんななのかは知らないけど」
「は、はい……あ、こ、ここです……」
私が屋敷の前で立ち止まると、シェリアさんは分かり易く、アルシャさんはよく見れば分かる感じで驚いていた。
「はぁ!? こ、ここがあんたの持ち物なの!?」
「あ、は、はい……せ、正確には……フォ、フォルティさんもですが……」
「クランを作ったんですか?」
「い、いえ……ク、クエスト報酬で……あっ、そ、その……な、中に入るのに……パ、パーティー申請を……し、しますね……」
二人にパーティー申請を出すと、すぐに承諾をしてくれたので二人を屋敷招待する事が出来る。屋敷の中に入ってしまえば、周囲のプレイヤーを意識して会話をする必要がなくなる。
そのまま二人を地下室へと案内する。そこを見て、二人は同じような表情になった。
「なるほど。ここで練習している訳ね」
「は、はい……あっ、そ、そうだ……え、えっと……こ、これから……よろ、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく」
「よろしくお願いします。今日はフォルティさんはいらっしゃらないんですか?」
「あ、は、はい……よ、用事があるって……」
「まぁ、リアルの用事なら仕方ないわよね」
「は、はい……あ、そ、それと……こ、これが屋敷の権利……で、です……こ、これで、お、お二人も……じ、自由に出入り出来るはず……で、です……」
「…………まぁ、ないと困るものね。受け取るわ」
シェリアさんは、何か迷っていたような様子だったけど、最終的に権利書のコピーを受け取ってくれた。これが屋敷を使えるようになるために必要な手続きだ。これさえ出来れば、後は自由に使って貰える。
「あ、後……そ、その……メ、メアドとかって……お、教えて貰えませんか……?」
このゲーム内で手に入れた楽譜であれば、ここで見せて共有出来るけど、私やお母さんが作ったものは共有するとすればメールとかの方がやりやすい。
なので、最初の難関としてメールアドレスを聞くというものが存在した。取り敢えず、ここは突破しないといけないところなので、ちゃんと最初にお願いした。ゲーム内だから聞こえていないけど、現実にある私の身体は心臓の鼓動が高速になっていると思う。そのうち注意のメッセージが流れるのではと思うくらいに緊張している。
(私の心臓をバスドラムに使えるのでは……)
変な思考をしていると、二人から返事が来る。
「良いわよ。メールってか、SNSとかも交換しておいた方が便利よね。グループ作れるし。ちょっと待ちなさい」
最近のゲームは外のメールやSNSと繋がっている。中にいても、ちゃんと確認出来るようになっているけど、その内容は自分にしか見えない。その辺りの配慮は行き届いている。
私もメニューを開いておく。すると、シェリアさんとアルシャさんからメールアドレスとSNSのアカウントの情報が送られてくる。
そこで、私が失念していた事があった。それはSNSのアカウントがリアルネームになっているという事。
「あ、あの……こ、これ……」
「ん? ああ、別に良いわよ。悪用なんてしないでしょ?
「それだけリラさんを信用しているということです。もしあれでしたら、リラさんはゲームの名前でやって頂いて構いませんよ」
「あ、いや、えと……」
悪用するかしないかで言えば、私もシェリアさんとアルシャさんが悪用するとは思えない。だから、そこは問題ないと思うのだけど、問題は鷲衣さんだ。鷲衣さんが嫌だと言ったらどうしようという不安が少しだけある。
「フォルティさんにも同じように言って下さい。私達は気にしません。もし気にされるのであれば、別のSNSにしますか? ネームをサーバー毎に変えられるものがありますから」
「あ、い、いえ、こ、このままで……」
二人のアカウントを登録する。これで私のリアルネームも向こうに伝わってしまった。シェリアさんは、織原琴乃さんで、アルシャさんは、天川鷲利さんと言うらしい。
「さてと、グループも作ったけど、このバンドの名前って何?」
「へ?」
シェリアさんとアルシャさんが揃って私を見ているのを感じる。でも、特にこのバンドの名前を決めていた訳では無いので、私も何も答えられない。ここが現実世界だったら、きっと汗がじっとりと出て来ていたことだろう。
「決めていないみたいですね」
「ご、ごめ、ごめんなさい……」
「別に良いわよ。特に決めないでも問題はないわけだし。ただ、これからこっちでバンドとしてやっていくなら、バンド名があった方が観客は推しやすいと思うわよ」
「軽く候補を決めておいて、フォルティさんも合流してから詳しいところを話し合ってみるというのが良いかもしれませんね」
「な、なるほど……ちょ、ちょっと……め、メッセージを送ってみます……」
鷲衣さんに、色々と確認のメッセージを送る。迷惑になるかもしれないけど、メッセージはいつでも見られるし、返すのも後で問題ないから送っておくだけ良い……そのはず。
そう思って送ったら、すぐに既読が付いて、グループの招待にリアルネームで参加した。
『初めまして。パラユニでフォルティの名前でやっています。鷲衣天花です。バンド名の件については、そちらにお任せします。少し考えましたが、こちらでは良い名前が思い浮かびませんでしたので』
割と短い時間だったと思うけど、パッと良い名前が思い浮かばないから、じっくり話し合える私達に任せてくれるということかな。
「何が良いかしら。私達の名前から考えると…………七夕かしら……琴と鷲が連想出来るもの。リラもこと座からでしょ?」
「あ、は、はい……」
琴坂伊織。鷲衣天花。織原琴乃。天川鷲利。全員七夕の琴と鷲が入っている。そこから考えて、名前を付けてみるみたい。
「セブンスタ……これは駄目ね」
「まぁ、煙草だしね」
「セブン……イブニング……おしゃれで可愛いのが良いわよね。スターフェスティバルとも言うんだったかしら」
「そのままの訳じゃなくて、略する感じでも良いかもね」
「略……セブイブ? 何かしっくりこないわね……リラは何か意見ある?」
「うぇ? あ、い、いや、えと……」
突然振られたので、変に狼狽えてしまった。特に良い名前が思い付いているわけじゃないので、答える事も難しい。でも、何かしら考えないと。
「ミ、ミルク……」
「ミルク? ああ、天の川ね。確かに、七夕に関係あるものね。ミルキーウェイ。ミルクリバー……ミルクストリーム……ラクトリバー……名前って難しいわよね」
「いっそ、七夕から離れたら良いんじゃない?」
「せっかく琴と鷲が揃っているのよ? 使うしかないじゃない」
「あ、ステラミルク……」
思い付いた名前をぽつりと呟くと、シェリアさんが私の方を見る。
「天の川は、星の集まりだものね。確かに有りだわ。ちょっと可愛いし」
「決定にしますか?」
「あ、い、いえ、フォルティさんにも……か、確認します……」
フォルティさんに確認のメッセージを飛ばすと、すぐに返信が来る。
『天の川のことかな? 良いと思う。ちょっと可愛い感じがするし』
取り敢えずフォルティさんも気に入ってくれたみたいだ。
「気に入ったみたいね。じゃあ、ステラミルクで仮決定ね。他に良いアイデアがあればって感じだけど。一週間何も出なかったら、正式に決定って事で」
「は、はい……」
何となく呟いた言葉が、そのままバンド名になってしまった。まぁ、確かにちょっと可愛いかもしれないし良いかな。




