クエストカウンター以外で受ける特別なクエスト
キューちゃんと別れた私は、ベンチに座ったまま何をするか考える。
(図書館のお手伝いはするとして……レベル上げ……いや、アコースティックギターでライブしようか。歌姫の『昼つ方シンフォニー』は、アコースティックギターでも良い感じだろうし。そうと決まれば、ライブをしてから手伝いに行こう)
昨日と同じ広場に行き、アコースティックギターを使って、『昼つ方シンフォニー』と『合わない視線は空虚』を披露する。すると、観客の中から、『歌姫の曲だ』という言葉が聞こえてきた。
お姉ちゃんが夢中になるくらいに有名なNPCだし、曲に聞き覚えがあってもおかしくはない。
(あまり印象は良くなかったかな。でも、楽譜貰ったし、こっちでも歌う前提っぽいけど……)
取り敢えず、昨日と変わりなく投げ銭を受けている。全部で20万マニー。今回は間に合ったのか喜んでいるプレイヤーもいた。皆が喜んでくれる。その光景は、私がライブをする原動力となっている。
「あ、あの……」
「ひゃ、ひゃい!」
唐突に声を掛けられたから驚きつつ、そちらを見ると小さな女性プレイヤーがいた。
「さっきの……歌姫の曲って……」
「あ、は、はい……」
一体何を言われるのだろうか。でも、それも受け入れて前に進むと決めた。だから覚悟の上だ。覚悟を上回る攻撃かもしれないけど。
「み、耳コピですか!?」
「へ? あ、えっと、違います……」
「あっ、そ、それじゃあ、NPC……?」
耳コピでもなくちゃんと演奏出来ていたから、NPCかと疑われる事になった。初めてライブを聴きに来てくれたのかな。多分、歌姫の方のファンなのだと思う。
「あっ、プ、プレイヤーです……が、楽譜を手に入れたので……」
「ああ、なるほど。失礼しました。そういうイベントがあるんですね。ありがとうございます!」
私が何故歌姫の曲を演奏出来るのか教えて欲しかっただけで、特に文句があるわけじゃなかった。その事に、私は心の底から安堵した。正面きっての文句は覚悟が決まっていても怖いものだから。
女性プレイヤーは私に手を振って去っていった。
(お、驚いた……で、でも、鷲衣さんとのコミュニケーションが取れるようになってきたかも! ちゃんと受け答え出来た!)
自身の成長を実感しつつ、私はその場を撤収していく。まぁ、成長どころかスタートラインの何十メートルも後ろにようやく来たくらいだと思うけど。
その後、いつも通り図書館のお手伝いをしてカウンターの司書さんに報告すると、司書さんがニコニコとしていた。
「ねぇ、お掃除は好き?」
「え……あ、は、はい……」
実際には別に好きでも嫌いでもないけど、こういうときに反射的に肯定してしまう自分が情けなくなってくる。
「それなら良い仕事というよりも適任な仕事があるんだけど、やってみない?」
「し、仕事……ど、どんな内容……な、なんですか……?」
「こういう仕事なの」
司書さんが紙を私に渡す。それはクエストカウンターにあるクエストの用紙と同じだった。仕事の内容は大きな屋敷の掃除。随分昔に住む人がいなくなって、内部が汚くなっているから、それを掃除して欲しいというものだった。
「…………ゆ、ゆゆ、幽霊屋敷……」
「幽霊はいなかった気がするけど?」
「な、なななるほお……」
「やる?」
クエストの報酬は、40万マニー+αと書かれている。この追加部分がちょっと気になる。ただ屋敷の掃除という事はかなり時間が掛かりそう。
「あ、期間は一週間……これなら出来るかも」
「そう? じゃあ、お願いね」
「あ……」
独り言で呟いた事でそれがクエスト引き受ける判定になってしまった。今更断る事も出来ないし、一週間の期限があるからどうにかなるはなると思うけど。
図書館を後にした私は、クエスト欄を見て屋敷の場所を確認する。居住区の奥の奥にあるらしい。
(時間的には余裕あるし、少し進めておくかな。う~ん……鷲衣さんにお願いしたら、手伝って……いや、さすがに悪いか。いや、友達になるために……いや、迷惑か……)
自分の中で何度も何度も反論していくけど、結局今から誘う勇気は出ずに、普通に頑張ろうと決めて屋敷へと向かって行く。
そうして、屋敷の前まで来ると、私の表情は自分でも分かるくらいに強張っていた。その理由は目の前の屋敷の惨状だ。
壁に蔦が張り付きまくり、庭も雑草などが生い茂っていた。この敷地全てを綺麗にしないといけない。それも一週間で。
「まぁ……家具も全部掃除しろじゃないから出来なくはないだろうけど……」
屋敷の門に触れると、ウィンドウが出て来る。
『屋敷の敷地に入りますか?』
選択肢のはいを押して、屋敷の敷地内に転移する。勝手に侵入されるみたいな事はないみたい。庭に入ると足元に草刈り機が落ちていた。
「…………使い方分からないんだけど」
使い方は分からないけど、これを使うしかない。どうにかして使わないとと思って草刈り機を手に取ると、目の前に説明書が出て来た。
「説明あるのね……まぁ、それもそっか。今時マンション住みとか当たり前だし、使った事のある人の方が少ないもんね」
説明書通りに操作すると、刃が回転する。そのまま説明通りに草刈り機を振って雑草を刈っていく。ゲーム内で草刈りをすると思っていなかった私は、草刈り機を振りながら頭の中で曲作りをしていた。
(次の曲は、私の想い……鷲衣さんへの想いを込めて作るかな。伝わっても伝わらなくても、私が鷲衣さんに対して感じている感謝を込めたい)
私に対して、あんなに親切に接してくれる事。こんなコミュニケーションを取るだけで一々苛立ちを覚えそうになる人間を相手に優しくしてくれる事。その事への感謝を込める。
曲作りに集中しながら、ただ草を刈るだけの機械になっていく。そのまま三十分作業を続けていると、メッセージを受信する。受信したメッセージの送り主はフォルティさんだった。意識を切り替えて、メッセージを読む。
『お仕事終わったから、リラさんさえ良ければ一緒に行動しない?』
この場所に来てもらうのは難しいと思うので、中央の広場で集合にして貰う事にした。屋敷の敷地から出ると、ちゃんと私が刈った分の草はなくなっていたので、一回で掃除する必要はないという確証が得られた。
急いで中央の広場に来ると、ベンチにフォルティさんが座っていた。
「お、お待たせ……」
「ううん。私の方こそ急にごめんね。今日は何をしていたの?」
「え、えっと……ア、アコースティックギターでライブと……や、屋敷のお掃除……だよ……」
「?」
「あ、え、えっとね……」
私は図書館で受けたクエストについて説明していく。
「へぇ~、クエストカウンター以外で始まるクエストは、何かしらお金の他の報酬があるって話だから、ちゃんとクリアした方が良いと思う。私も手伝えるのかな。パーティーを組んだら私も手伝えるかな」
フォルティさんとパーティーを組んで屋敷へと向かう事になった。フォルティさんもこのクエストが気になるみたい。




