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バクサン!~服が爆散する俺と爆散させたい彼女たち~  作者: りつりん
向き合うことを決めた幼馴染による爆散カーニバル
13/47

どうして

 そして迎えた放課後。

 結局、いつもの蓮に戻ることのなかった彼を、私と美里ちゃんで肩を貸しながら家まで運んでいった。

 出迎えてくれたのは蓮のお母さん。


「ご無沙汰してます。蓮、なんだか調子悪いみたいで、私たちで付き添ってきました」

「あらあら、この子ったら。ごめんね。麗奈ちゃんに、えっと……」


 蓮のお母さんはちらりと美里ちゃんを見る。


「あ、七瀬美里と言います。この間、転校してきたばかりで、蓮君と同じクラスの友人です」


 ぺこりと頭を下げる美里ちゃん。

 私とは対照的に、よく手入れされた栗色の髪が、ふわりと揺れる。


「あらあら、そうだったの。この子ったら、お友達になったばかりの子にまで迷惑かけて。ほら、蓮。自分で歩けるかしら?」

「おふん?」

「そうそう、おふんしておふりなさい。それからおふるのよ」

「おふおふおふん」


 全くもって意味は分からないけど、蓮は意味を介したようで、靴を脱ぎ、そのまま家へと上がる。

 さすが親子、だと思う。

 まあ、昔から蓮のお母さんって不思議要素あったしね。


「蓮君のお母さん、なんだかすごいね」


 私の耳元と美里ちゃんが囁く。


「だね」


 私は蓮の背中を見つつ、美里ちゃんと苦笑いしあう。

 すると、蓮は廊下の壁に頭をごちごちとぶつけ始めた。


「ちょ、待って。あ、お邪魔します! ふらついてて危ないので、部屋まで連れて行きます!」

「あら、ごめんなさいね。じゃあ、お願いしようかしら」

「じゃ、じゃあ私も!」

「ここは任せて! ほら、美里ちゃん、また胸にダイブされたら大変だし」


 美里ちゃんが靴を脱ごうとしたので私は思わず制止する。


「え、あ、う、うん。わかった。じゃあ、また明日、ね?」

「うん。また明日」


 私は靴を急ぎ脱いで、足早に蓮の後を追った。

 追い付いてみれば蓮は服を着たまま洗濯機に入ろうとしていた。

 いや、体格。


「ふー。これでよしと」

 私は額にかいた汗を拭う。

 ベッドでスヤスヤと寝息を立てる蓮。

 なんとか、洗濯機インを阻止することに成功した私は、そのまま部屋まで誘導した。

 いや、めっちゃ重かった。

 しばらく足腰を休めようと、私は蓮のベッドの端に座った。

 私はツンツンと蓮の頬をつつく。

 くすぐったいのか、微かにムニムニと唇を動かす蓮。


「ふふっ。可愛い。いつもきりっとした顔してるけど、寝顔は小さい頃と変わらないね」


 私は、いつも蓮が誰かのために一生懸命になる姿を見てきた。

 最近は美里ちゃんをクラスに適応させようと、頑張っていたことももちろん知っている。

 一生懸命になる姿はいつ見てもいい。


「ふふっ。誰かのために頑張る君が……好きだよ。って、あはっ。声に出しちゃった。言っちゃった。ずっと言わなかったのに。ずっと我慢してきたのに。言っちゃった」


 私は自身の言葉から発せられる初々しさに、思わず背筋がゾワゾワとする。

 だって、本当に好きだったから。

 好きだから。

 必死にそれを言わずに蓮の傍にいた。

 でも、言っちゃった。

 言っちゃったよ。

 でもそれは……。


「蓮が悪いんだよ?」


 私はぐりんと人差し指で頬を押し込む。


「おぶん」


 蓮の体がビクンと跳ねる。


「知ってるんだよ。ずっと、知ってて知らないふりをしてきたんだよ? 君が人を知ろうとするのは、誰とでも仲良くしようとするのは、君が服爆散の病に苦しめられてきたからだよね? 人を知ることで、個を認め、距離を取り、エロスを感じないようにするためだよね? 一生懸命何かに打ち込み続けてきたのは、脳内から煩悩を追い出すためだよね? ねえ、蓮?」


 そう、私は全て知っている。

 知っていた。

 小学生の時、蓮が朝、廊下で爆散したところを偶然、見てしまったのだから。

 不思議に思った私は、その時い合わせていた七瀬先生に子細を聞いた。

 七瀬先生は熟慮したのち、蓮の病気のことを教えてくれた。

 きっと、私が蓮と最も仲がよかったというのもあるのだろう。

 当初は、変わった病気もあるんだな、くらいにしか捉えていなかった。

 けれど、徐々に憔悴し、学校に来ることができなくなった蓮を見て、傍で支えることを決めた。

 私しか知らないのなら、私が蓮を助けないといけない、と。

 まず行ったのは、蓮が爆散しないよう、自身からエロスに繋がる要素をできるだけ排除することだった。

 蓮は、当時の私を見ただけで怯えるようになってしまっていた。

 自身からエロスに繋がるものを徹底的に排除することで、蓮の心に寄り添った。

 また、蓮が爆散しそうな子が近づいてきたら、さりげなく間に入り、蓮が慣れるまで距離を保たせることにも努めた。

 嫌味のないよう、あくまでも蓮の親友だから、一蓮托生的な存在だから、と言う感じで。

 もともと、蓮とは家が隣同士で、保育園からの付き合い。

 誰も私たちの関係に疑問を抱くことはなかった。

 だけど、苦労はした。

 蓮が服を爆散させないよう、様々なことに取り組み、成果を上げれば上げるほど、女の子たちが寄ってきたから。

 それでも、私は蓮を様々な脅威から守り続けてきた。

 全ては蓮を社会的に孤立させないために。

 そのために、エロではない方面での自己研鑽も怠らなかった。

 蓮の隣にいても、見劣りしないように。

 ふさわしいように。そのおかげで今では県内でも強豪の陸上部の短距離エースだ。

 そうやって私はうまくやってきた。私たちはうまくやってこれた。

 大変だったけれど、メリットも大きかった。

 私は蓮が好きだった。

 だからこそ、蓮の秘密を保持し、助けることに大きな意義を見出していた。

 それに、蓮自身も、自分を守るために一定距離から他者へ踏み込もうとしなかった。

 元から優しい性格の蓮ではあったけど、あえて、相手を一定ラインまでしか知らないことで、誰しもに平等に接することで己を守っていた。

 自己防衛本能だと思う。

 病気前の蓮は、もっとぐいぐいいろんな人と関わり、いろんな人を笑顔にしてきた。

 そんな蓮だからこそ、好きだった。

 もちろん、それは今も変わらない。

 やり方が変わっただけで、蓮は蓮らしくあれていると思っているから。

 私はそんな蓮のそばにいれることが何よりも嬉しかった。

 特別な存在であることが嬉しかった。

 私しか知らない蓮。

 私だけが知っている蓮がいることが嬉しかった。

 でも、最近は少し違う。

 

―――七瀬美里ちゃん

 

 転校生の美里ちゃんと出会ってから、蓮はどうにも変だ。

 どんなに素敵な子が目の前に現れても、いつもなら、一日で肌着すら裂けないほど適応できるのに、美里ちゃんへの適応には時間がかかっている。

 ううん。むしろ、悪い方に進んでいるように感じる。

 美里ちゃんといると、蓮は爆散する。

 幸い、私以外は爆散に気づいていない。

 気づいていないからこそ、離れてほしいのに、蓮は美里ちゃんと積極的に関わる。

 危険を冒してまで、蓮は美里ちゃんと近くにいる。


「ねえ、美里ちゃんは、何が違うのかな?」

 

 ぎゅりっと人差し指が頬にめり込む。

 病気になってから、人との距離を気づかれないようにとってきた蓮。

 なのに、美里ちゃんに対しては、蓮自ら距離を詰めるように知ろうとしている気がする。

 こんなことは初めてだった。

 まるで、私が知らない繋がりが二人の間に存在しているような接近具合に、私の心はずっとざわついている。

 美里ちゃんもまんざらじゃなさそう。

 蓮と話すときの彼女の瞳には、友情以上の感情が灯り始めている。

 それはそうだ。

 クラスの中心で、誰にでも優しく、誰にでも真っすぐで、誰にでも平等な蓮が身を乗り出してくればそれはそうなる。

 だからこそ、蓮はこれまで誰からも一定の距離を置いて来たのに……。


「なんで美里ちゃんのことは知ろうとするの?」

「私は、君の傍にいれるように、君が爆散してしまわないように、必死になってきたのに」

「君は自分からそれを破るんだ?」

「何がこれまでと違うのかな?」

「美里ちゃんの、どこがいいのかな?」

「可愛いから?」

「ゆるふわな髪が素敵だから?」

「いい匂いがするから?」

「少しだけ下がった目じりと、泣きボクロ、それに映える白い肌が加護欲をそそるから?」

「ねえ、何が良いの?」

「どうして、二人だけの距離があるの?」

「私が介入できない関係になりたいの?」

「蓮のせいで、つい変に美里ちゃんのこと拒否しちゃったじゃん」


 私は玄関でのことを振り返る。

 蓮のことを心配して家の中に入ろうとした美里ちゃんを、よく意味のわからない理由で抑えてしまった。

 だって、この家に入られたら、この部屋にまで入られたら、蓮の心にも入り込まれそうな気がして。

 私だけが来ることのできたこの部屋に、美里ちゃんが入って来るのが怖くて。

 別に仲悪くなりたいわけじゃない。

 それでも、私は思わず拒否してしまった。


「よくない。よくないな。美里ちゃんは何も悪くないのに……」


 ふと、私は蓮の部屋にあった姿見に映る自分を見つめた。

 部活であえて日焼け止めを塗らずに過ごした肌は、黒々と焼けている。

 女の子らしさを消すために短く切りそろえた髪は、美里ちゃんのゆるふわな肩ほど伸びたそれとは対照的に毛先がツンとしている。

 制服の着こなしも女の子らしいそれとは程遠い。

 スカートの下にはスパッツを履き、ブラウスの下に隠した胸には、外からは決してわからないよう胸のサイズを落とすブラをつけている。

 陸上によって鍛え上げられた足は、自身の足で立つことになんのためらいのない太さを有している。

 およそ、女の子らしい女の子らしさなんてものは、私に存在していなかった。

 それが私にとっての誇りであり、蓮との絆を感じさせるシンボルと言えるものだった。

 美里ちゃんが現れるまでは。

 十年近くかけて培ってきた自身の姿形。

 それは皮肉にも、美里ちゃんという存在によって、あまりにも滑稽な存在となり果てていた。


「もう、やんなっちゃな。こうでもしないと君の傍に私はいれないのに、美里ちゃんは違うみたいなんだもん。ほんと、やんなっちゃうよ」


 私は自身の中で燃え始めた炎に、その心を投じることにした。

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