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バクサン!~服が爆散する俺と爆散させたい彼女たち~  作者: りつりん
向き合うことを決めた幼馴染による爆散カーニバル
12/47

おふふふふふんおふんおおおおふふん

 ボルダリングで新しいスポーツとの出会いと、新しい問題との邂逅を果たした夜。俺はただぼんやりとベッドの上に寝ころんでいた。


「マジでどうしよう」


 もちろん、全裸である。

 自宅だしな。

 まあそれはいいとして。

 俺は昼間の衝撃的な爆散を思い出して苦悶する。

 美里を知ることで解決すると思っていた問題が、まさかの方向に飛び火してしまったのだ。

 これが苦悶せずにいられるだろうか。

 いや、ないぐほぉ……。

 何より、こちらが距離を詰めれば美里の方も詰めてくる。

 いや、それは当然か。

 美里は自身を見てほしいと言っていて、俺がそれに応じて見ようとしている。

 それなら、美里も距離を詰めるのが普通なのだろう。

 これが、まっとうな人間関係なのか。

 ずっと人と一定距離を保ってきた俺は、突然の近距離戦にうまく対応できない。


「一体全体、どうすれば……」


 ぎゅり、と唇を噛みしめる。

 コロリと寝返りを打った。

 ふと視界に入り込んだ机。

 そこには三人の絆の証としてのサングラスがあった。

 あの破損の後、改めて購入したのだ。

 けれど、サングラスは……学校ではできない。

 してしまえば、きっと美里や麗奈も蓮に合わせてサングラスをオンするだろう。

 そうなると、麗奈なら「うん、仲良きことは」的なテンションで皆が見過ごしてくれるかもしれないが、まだ俺と出会って日の浅い美里が変な目で見られてしまうことは、火を見るよりも明らかであった。

 かと言って、美里との関係を思えば、視線をしっかりと合わせていかないといけない。

 休むなど、これまでの皆勤生活を思えば、皆を心配させてしまうだけ。

 噛みしめた唇からは、微かに血が滲む。

 一体どうすれば……。

 悩み続ける俺を置いていくように、夜は更けていった。

 


「おっはよー蓮!」

 朝。

 校門から下駄箱までのストローク。

 私は蓮を見つけて全速力で駆け寄り、後ろから声をかけた。


「おふん麗奈……おはよう」

「おふん? どした? 変な声出して」


 私はなんだか様子のおかしい幼馴染の前に回り込む。

 いついかなる時も、しゃっきりとしている蓮。

 けれど、今日の顔はなんというか、生気がなかった。

 こちらの挨拶に反応はしてくれたけど、目は虚空を見つめ、やや下あごが持ち上がり、口は半開きとなっている。


「おおーい」


 私は目の前で両手を振る。


「おふん」

「いや、だからおふんて何さ」


 私は思わず吹き出してしまう。

 いや、こんな蓮は初めて見るし、きっと彼なりに何か大変な状況なのだろうけど、それでも、いつもしっかりしている彼のやや間の抜けた姿に、私の口元は思わず緩んでしまった。


「麗奈ちゃん、蓮君、おはよう」


 私が一人で蓮のレアな状況を楽しんでいると、美里ちゃんの声が蓮の後ろから聞こえてきた。


「あ、美里ちゃん、おはよ」


 私は蓮の肩越しに挨拶を返す。蓮も美里ちゃんの挨拶に反応して振り返る。


「おふん美里、おはよう」

「おふん……美里?」


 美里ちゃんも瞬時に蓮の様子がおかしいことに気づき、小首を傾げる。


「あ、なんか蓮のやつ、調子悪いみたい」

「そうなんだね。昨日のボルダリングで疲れちゃったのかな?」


 そろりと美里ちゃんも蓮の顔を覗く。

 相も変わらず締まりのない顔に、美里ちゃんもやや驚いた顔をする。


「えっと、大丈夫?」

「おふん大丈夫」

「たぶん大丈夫ってことかな?」

「たぶんね」


 私と美里ちゃんは顔を見合わせて笑う。

 そんな私たちをしり目に、蓮は再びふらりと歩き出した。けれど、一歩目でつまずいてしまった。


「きゃっ!」


 そして、そのまま目の前にいた美里ちゃん、そのお胸に顔をダイブさせた。


「れれれれれれ、蓮君!?」


 驚きのあまりフリーズする美里ちゃん。

 けれど、そのままだと胸を離れて地面へと向かってしまいそうな顔面を、美里ちゃんは思わず両の腕でギュッと抱きしめる。


「れれれれれれ、麗奈ちゃん!」


 こちらにヘルプを求める美里ちゃん。

 私はすぐに蓮の腕を掴み、なんとか態勢を立て直そうとする。


「ちょ、蓮! 何してんの? え、ちょっと待って! 蓮、このまま寝ようとしてる!」


 私は蓮を引きはがそうとするけど、しっかりと鍛えぬいた彼の肉体は、細く見えても、そこから想像できないほどの筋肉密度を有していた。

 その上、寝付こうとなんてしてるものだから、力も抜けていってしまっている。

 当然、重い。


「こんの馬鹿蓮……」


 蓮は美里ちゃんの胸に埋もれた首だけを動かし、こっちを見る。

 こちらの呼びかけに微かな反応を示した蓮は笑みを浮かべる。


「おはようおふん麗奈」

「いや、儚げな笑顔作りながら、変なミドルネームぶち込むな。挨拶もさっきした! ていうか、早く美里ちゃんの、その、それで寝ようとするな。離れろこの変態」

「わかったよおふん」


 うつろな目はそのままに、蓮はぬるりと美里ちゃんの胸から離れると、まるでゾンビのような足取りでフラフラと進む。


「あ、ちょ、蓮」

「蓮君!」


 私と美里ちゃんは顔を見合わせて、とりあえずは彼が倒れないように、横を歩くことにした。



「なんだか蓮君、相当疲れてたね」


 昼休み。

 私と美里ちゃんで机を挟んで昼食をとっている。


「だね。蓮があんなになるなんて珍しい」


 私はちらりと隣の席を見る。

 そこには、机に突っ伏し睡眠を摂る蓮の姿。

 常に全力で生きる蓮。

 そんな蓮のこんなあられもない姿を見たのは、幼馴染の私でも初めてだった。

 うん、新鮮。


「昨日、ボルダリングに誘ったの、駄目だったかな? ほんとは体調悪くて、でも、無理してたのかな?」


 美里ちゃんは朝から蓮に胸ダイブされたにも関わらず、それを一切に感じさせないほどのピュアさで蓮の心配をしている。

 美里ちゃん、いい子。


「いやいや、美里ちゃんのせいじゃないって。基本的に蓮は体力有り余ってるタイプだから、おおよそ夜更かしでもしたんでしょ」


 私は隣にいる蓮をバシバシと叩く。


「おふんおふおふんんんんん」


 蓮は私のビートの合わせて声を上げる。起きては、いないみたいだけど。


「おふふふふふんおふんおおおおふふん」


 つい面白くなって、私はそのまま蓮の背中を連打する。


「ちょ、麗奈ちゃんやめて。笑っちゃう」

「ごめんごめん。なんか、すっごいいい感じに声出してくれるからさ」


 言って、私は蓮の背中を撫でた。


「ま、すっごく真面目な奴だからさ、もしかしたら、私たちの知らないところで頑張ってたのかもね。心配だから、今日は送っていってあげようかな」


 それは本当。

 いつも真面目でまっすぐで、それでいて不器用な蓮がここまで疲弊しているのは正直気になる。

 心配になる。

 あんまりキャラじゃないけど、送って行ってあげよう。


「あ、じゃあ、私も送っていくよ。もし放課後までこのままだったら、麗奈ちゃん一人だと大変だろうし」


 美里ちゃんはやる気に満ち満ちた瞳をこちらに向ける。

 胸前に添えられた握りこぶしがなんとも愛くるしい。


「あー、うん。じゃあ、お願いしちゃおっかな」


 ニコリと、可能な限り柔らかな笑みを私は浮かべる。

 そんな私の笑みに、美里ちゃんも笑顔を返してくれる。

 けど、彼女は気づかない。

 ううん。気づかなくて当然。

 ずっと、私が抑えてきた感情に気づくことはない。

 だって、蓮にだって気づかれてないんだから。

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