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第7話 秘された契り

歴史はアニメでは語り尽くせない。

「失われた光」――邪馬台国最大の謎が、いま小説と音楽で甦る。

「二つの光」が倭国連合を動かす夜


静寂は、平穏ではなかった。火の国の裏切りから一週間。高千穂に届いたのは、奴国急襲の報せ。そして壹真は、ついに日向を“未来の卑弥呼”へ押し上げる一言を口にする。


【一 噂は火より早く】


火の国の裏切りから、一週間が過ぎた。


高千穂の谷は、あまりにも静かだった。


門を直す音も減った。兵士の怒号も、もう聞こえない。ただ、風が竹林を揺らす音だけが、やけに大きく響いていた。


壹真は川辺で、水瓶を洗っていた。集落の男たちと並んで、黙々と手を動かす。


けれど、落ち着かない。


(……静かすぎる)


火の国の残党は姿を消した。狗奴国の動きも、ぴたりと止まった。


誰も口にはしない。だが、皆わかっていた。


これは平穏ではない。嵐の前の静けさだ。


「いっしん! 手が止まっているぞ!」


鋭い声が飛んだ。


佐士だった。


相変わらず、壹真にだけ当たりが強い。だが今日は、その声の奥に別の緊張があった。


「ごめん。ちょっと考えごとしてた」


「お前は考えすぎる。異邦の者は、もっと地に足をつけて生きろ」


「それ、どういう偏見?」


「……褒めてはいない」


「知ってるよ」


壹真が肩をすくめると、佐士は露骨に眉をひそめた。


嫉妬。警戒。責任感。


その全部が、彼の視線には混ざっている。


そこへ、兵士がひとり駆け込んできた。


「佐士様! 至急、宮へ! 奴国より使者、“急”の文でございます!」


「奴国が?」


佐士の顔が変わる。


壹真も思わず顔を上げた。


「緊張していたのは火の国のほうじゃなかったのか?」


兵士は息を切らしながら答えた。


「どうやら、火の国の逃げた兵の一部が、奴国を襲ったとか!」


「……っ」


佐士の目が鋭くなる。


「奴国が乱れれば、連合が裂ける」


その言葉に、壹真の背筋が冷えた。


(連合が崩れたら……)


日向は、まだ正式に“卑弥呼”ではない。それなのに、彼女の肩には、もう国ひとつ分どころではない重さが乗っている。


佐士が壹真を振り返った。


「行くぞ。いっしん、お前も来い」


「え、俺も?」


「お前の“光の目”が要る。姉上も、そう言っていた」


その一言だけで、壹真は逆らえなくなった。


日向に必要とされる。ただ、それだけで。


【二 奴国の使者】


宮の大広間は、いつもより冷え切っていた。


使者は集まっている。だが、歓談はない。儀礼の声もない。


ただ、炎の揺れる音だけが、ひっそりと空気を支配していた。


奴国の使者が、日向の前で深く頭を下げる。


「日向様……! 奴国の北境にて、火の国の残兵が突然押し寄せました。我らは何の備えもできず……」


日向は座したまま問う。


「被害は」


「村が二つ……焼かれました」


日向の肩が、わずかに震えた。


壹真は息を呑む。


(また、火の国……)


火の国の長老は、高千穂で拘束されている。だが国全体を縛れるわけではない。一度割れた火は、どこにでも飛ぶ。


日向はさらに問いを重ねた。


「狗奴国の影は?」


使者はためらったあと、低く答えた。


「……おそらく、関与しております。火の国の残兵を指揮していたのは、黒い縄の面をつけた“謎の男”だったとか」


空気がざわりと揺れた。


佐士が声を荒げる。


「黒縄……!」


壹真がすぐに反応する。


「知ってるのか?」


「狗奴国の影の使いだ。暗殺と攪乱を専門とする男だ」


佐士の声が、いつになく低い。


「……あれが動くということは、狗奴国は本気で倭を崩しにきている」


壹真の喉が鳴る。


「火の国を盾にして、奴国まで揺らす気か……!」


日向は胸の前で拳を握った。


「奴国が落ちれば、次は伊都国。連合が崩れれば、倭は再び戦乱へ戻る」


その言葉を聞いた瞬間、壹真の脳裏に、現代の教科書の一文がよぎった。


百余国の戦乱。


(だから、あれが“結果”として残ったのか……)


目の前では、人が焼かれ、村が消え、国が揺れている。だが後世には、たった一行しか残らない。


そのときだった。


日向の視線が、ふっと揺れた。


壹真には、それがはっきり見えた。


「日向!?」


「姉上!」


佐士が駆け寄る。壹真も一歩踏み出した。


だが日向は、すぐに笑みを作った。


「大丈夫。少し、未来の影が見えただけ」


未来視。


壹真は、昨夜見た日向の震える指先を思い出した。


(このままじゃ……日向が壊れる)


その瞬間、胸元の勾玉が脈を打つ。


熱い。


壹真は、気づいたときには声を上げていた。


「連合を、もう一度くっつける手がある!」


一斉に視線が集まる。


佐士が険しく言う。


「いっしん……軽率な口を――」


「いいの」


日向が止めた。


「言わせてあげて」


壹真は喉を鳴らし、息を整えた。


「俺のいた世界でも、人とか国とか組織とか、バラバラになりそうなものを繋ぐ方法があった」


「それは何?」


「“共通の敵”を、はっきりさせることだ」


広間がざわついた。


「共通の敵……?」


佐士が聞き返す。


「火の国じゃない。狗奴国だ」


壹真は、ひとつひとつ言葉を置くように続けた。


「“倭を本気で崩そうとしているのは狗奴国だ”って、今ここで宣言する。そうすれば、火の国の残兵に揺さぶられてた国も、敵を見失わずに済む」


「しかし、狗奴国を断じる証が……」


「黒縄だよ」


壹真は即座に言った。


「火の国の残兵を指揮していたのが黒縄なら、それが証拠になる。奴国にも、その噂はあるんだろ?」


使者がうなずく。


「……はい。黒縄は、狗奴国の密使だと」


壹真はさらに畳みかけた。


「だったら、今すぐ連合の会議を開く。そして、“狗奴国の影を討てるのは日向姫だけだ”って示すんだ」


静まり返る広間。


無謀だ。だが、必要だった。


それはただの策ではない。日向を、“未来の卑弥呼”として立たせる一歩でもあった。


日向が、ゆっくり立ち上がる。


「いっしん」


その目が壹真を射抜いた。


「……私を、支えてくれる?」


「もちろん」


ためらいはなかった。


日向は佐士を見る。


「佐士」


佐士はわずかに沈黙し、それから答えた。


「……いっしんの言葉、間違ってはいません。利用できるなら、利用すべきです」


その言い方に、壹真は少しだけ苦笑した。


(利用って言い方、ひどくないか)


だが、それが佐士なりの承認だともわかっていた。


日向が、かすかに笑う。


「では――行きましょう。倭国連合を、もう一度まとめるために」


その背中は、もはや少女ではなかった。


未来の卑弥呼。


そう呼ぶほうが、自然だった。


【三 疑念の矢】


連合会議の準備が始まるころ、壹真は中庭に出ていた。


その隣に、佐士が立つ。


しばらく、どちらも口を開かない。


先に話し始めたのは、佐士だった。


「……姉上の負担が、また増えたな」


「俺、余計なこと言ったか?」


佐士はすぐには答えなかった。


やがて、短く首を振る。


「いや。言わねばならないことだったのだろう。俺も……どこかで迷っていた」


「迷ってた?」


「狗奴国は強い」


佐士の目はまっすぐ前を向いていた。


「火の国を一度に掌握し、奴国まで揺さぶるほどにな。姉上が――日向様が、ひとりで背負うには重すぎる」


壹真は小さくうなずく。


「だから、俺が少しでも役に立てたらって思う」


佐士が、そこでようやく壹真を見た。


「ひとつだけ、誤解するな」


「え?」


「姉上の隣は、“光の巫女王”の隣だ。軽い覚悟で立てる場所ではない」


その声には、剣より重いものがあった。


「……わかってるよ」


「いや、お前はまだわかっていない」


佐士は目を伏せる。


「お前は異邦の者だ。いつか突然、消えるかもしれない。姉上の心を置き去りにして」


その一言が、壹真の胸を深く刺した。


(……そうだ)


未来視で見えた、“現代の影”。日向の涙。壹真のいない宮殿。


「だから俺は……お前を警戒している」


壹真は、返す言葉を探せなかった。


ようやく絞り出したのは、謝罪だった。


「……ごめん」


「謝るな」


佐士は低く言った。


「ただ、覚悟だけは捨てるな」


そのとき、巫女が駆け寄ってきた。


「いっしん様。日向様がお呼びです」


「わかった」


壹真が歩き出そうとすると、佐士が背を向けたまま言った。


「いっしん」


「なに?」


「姉上を……泣かせるな」


それは、この時代で最も重い誓いのように聞こえた。


【四 連合会議】


大広間に、倭国連合の代表が並ぶ。


奴国。伊都国。不弥国。末盧国――。


それぞれの国の長が、日向を見ていた。


壹真は後方に控える。喉が乾く。


(これ、現代なら完全に外交の大舞台だろ……)


日向が、壇の前へ進み出た。


「諸国の長よ。倭はいま、分かれ道に立っています」


澄んだ声が、広間にまっすぐ響く。


「火の国の裏切り。奴国への急襲。その影には、“狗奴国の密使”がいます」


ざわめきが走る。


奴国の長が、低くつぶやく。


「黒縄のことか……」


伊都国の長も顔を強ばらせた。


「やはり、狗奴国が……!」


日向は一歩も退かない。


「狗奴国は、倭を再び百余国の乱世へ戻そうとしています。連合を崩し、倭を二度と立ち上がれなくするために」


広間の空気が一気に冷えた。


壹真は、息を詰める。


(言え……!)


日向は諸国の長を見渡し、そして言い切った。


「狗奴国の影から倭を守れるのは――“光の力”を持つ者だけです」


空気が変わる。


はっきりと。


「私は未来を視ました。倭国連合が崩れ、国が焼かれ、女も子どもも泣き叫ぶ未来を」


誰も動かない。


「でも――その未来には、ひとつだけ希望がありました」


壹真の胸が、大きく脈打つ。


「“光をともす者”がいたのです」


視線が、自然と壹真へ向かう。


(……え、待って)


「私はひとりではありません」


日向の声は揺れない。


「“光の巫覡”が、この国を照らします」


ざわめきが爆発した。


佐士でさえ目を見開いている。


(姉上……そこまで言い切るのか)


(いや、待って、俺そんな大層なやつじゃ――)


壹真の動揺など意に介さず、日向は言葉を重ねた。


「倭国連合を結ぶのは、私と、光の巫覡。――二つの光です」


その宣言は、新しい時代の始まりそのものだった。


後半では、

雨の庭で交わされる、日向と壹真の“秘された契り”それを見つめる佐士の複雑な眼差し黒縄が高千穂へ向けて放つ次の一手そして、壹真の決意を壊そうとする“歴史の修正力”までを収録。

NOTEで全文公開中。

「失われた光」は、Web小説と主題歌「Lost Light」が同時に紡ぐクロスメディア体験。

アニメではなく、“読む冒険”がここから始まる。

主題歌を聴く ➡ https://linkco.re/1SGztvQR

公式サイト ➡ https://sumikazama.com/novellostlight

記事全文・設定資料公開中 ➡ https://note.com/sumikazama


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