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第4話 光の予兆

歴史はアニメでは語り尽くせない。

「失われた光」――邪馬台国最大の謎が、いま小説と音楽で甦る。

夜明け前。高千穂の稜線が、ありえない白さで裂けた。それは朝でも夜でもない、“光の狭間”。そして――儀式の中心で、日向姫は未来を見てしまう。


【一 静寂の祭殿】


夜が明けきる前。山の稜線の向こうが、ふっと白く染まった。


高千穂の谷は静まり返っている。その沈黙に溶けるように、冷たい光が一本、闇の底へ落ちていった。


壹真は、その光で目を開けた。焚き火はまだ赤い。夜の名残を抱きしめるみたいに。


でも、空は違った。まるで誰かが、山の端に「一本の線」を引いたように淡く光っている。


「……朝じゃないよな、これ」


隣で眠っていた日向が、ゆっくり体を起こす。目を細め、稜線を見た。


「今の……見えましたか?」


「ああ。高千穂の山が……光ってた」


日向は黙ったまま胸に手を当てた。勾玉が、焚き火の赤じゃない。夜明け前の白い光を受けて、かすかに震えている。


「これは……“神の息”です」


「神の息?」


「山が、海とつながる時だけ起きる……古い人たちはそう呼びます」日向は言葉を選ぶみたいに、少し間を置いた。「夜明けでも日没でもない。どこにも属さない“光の狭間”。この地が“女王の都”になったのも、この光があるから――そう伝わっています」


壹真の胸に、昨夜の会話がよみがえった。


日向灘から延岡へ。そこから山を越えた奥にある都。外の国々の船がたどり着き、山には神が宿る――。


白い光が、もう一度稜線をなでた。今度は線じゃない。細かい粒になって、谷に降り注ぐ。


霧とも違う。雪とも違う。どこか“塩”の輝きに似ていた。


「……まるで、光の砂だ」


「光の砂は、女王が即位した夜にも見られたと聞きます」日向は勾玉を握りしめる。「邪馬台国に“光が降りる”時、いつも起きる現象だと」


彼女は深く息を吸った。


「きっと、これから何かが始まる。倭が乱れ、光が揺らぐ時――山は必ず先に“兆し”を見せます」


壹真は頷くしかなかった。昨夜見た地図。延岡の港。そして、この山々の静かすぎる気配。


――光はここから始まり、ここから失われる。そんな予感が、言葉にならないまま胸を締めつけた。


月はまだ若い。細い弓のように空に浮かび、宮の屋根を淡く照らす。


壹真は祭殿前の白砂の縁に立ち尽くしていた。


(……何が始まるんだ)


太鼓の低い響きが谷をゆっくり震わせる。心臓の鼓動と同じリズムで胸に入り込み、落ち着かない緊張を連れてくる。


祭殿の奥では巫女たちが動いていた。松明の赤い光がゆらゆらと舞台を照らす。


その真ん中に、勾玉の形を象る柱が並び――中心に白い衣の影が、静かに立っていた。


日向姫。高千穂の巫女王にして、未来の卑弥呼となる少女。


けれど今の彼女は、“神”ではない。どこか震えているように見えた。


【二 カゴメの結界】


やがて巫女たちが輪を描き、日向姫は中央へ歩み出る。白衣に朱の帯。髪には金の簪。月光を反射して小さな星みたいに光った。


壹真は思わず息を呑む。現代のどんな記録画とも違う。息づく原始の美――。


巫女の一人が、日向姫に目隠しを施した。それは「常世と現世の境」を象徴する結界だった。


太鼓が低く唸り、鈴の金属音が森へ広がる。


日向姫が口を開く。


「……かごめ、かごめ」


ささやきが夜気に溶ける。巫女たちの声が重なり、響きが増幅し、森の気配を震わせた。


(カゴメ……かご……)


壹真は思い出していた。現代のわらべ歌「かごめかごめ」。学者の間で“古代のシャーマン儀礼の残響”だと言われるあれ。


いま目の前で――その原型が始まろうとしていた。


【三 境界が揺らぐ】


白砂に刻まれた幾何紋様が、淡く光り始める。月光の銀と松明の赤が混じり、青白い光へ変わっていく。


日向姫の周りの空気が、揺らぎはじめた。まるで水の中みたいに。


「神よ、この世と常世の境を開きたまえ……」


囁きと同時に、足元の白砂が震える。遠くの太鼓が拍を増し、鈴がシャン、と鳴った。


壹真の胸にかけた勾玉が、かすかに脈打つ。


(これ……俺に反応してる?)


日向姫は鏡へ歩み寄る。籠の中の鏡は布で覆われているのに、その下から金属の光が漏れていた。


鏡の前で小さく息を吸い――そのまま結界の中心へ入る。


「いま、彼方の時を越えて――光を導け」


光が、爆発した。


白砂が跳ねる。巫女たちの衣が風に舞い、鏡面が水のように波打つ。


壹真の脳裏に、発掘現場で見た“波打つ鏡”が重なった。


(ここで……ここで、何かが起きたんだ……!)


この先、儀式は“成功”しかけて――壹真の目の前に「もうひとりの壹真」が現れる。日向姫が見た未来は、ただの予言ではない。壹真自身の運命を、今この瞬間にねじ曲げようとする“裂け目”だった。


後半はNOTEで公開中。

「失われた光」は、Web小説と主題歌「Lost Light」が同時に紡ぐクロスメディア体験。

アニメではなく、“読む冒険”がここから始まる。

主題歌を聴く ➡ https://linkco.re/1SGztvQR

公式サイト ➡ https://sumikazama.com/novellostlight

記事全文・設定資料公開中 ➡ https://note.com/sumikazama


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