第10話|幼き女王 “消えたはずの光”の先に
歴史はアニメでは語り尽くせない。
「失われた光」――邪馬台国最大の謎が、いま小説と音楽で甦る。
夜明けの産声
卑弥呼は命を落とした。
けれど、その光は終わらなかった。
女王の最期に託された小さな命が、倭の未来を変えていく――。
夜だった。
卑弥呼の光が、この国から消えようとしていた。
静まり返った部屋で、日向は壹真の手をそっと握る。
「そんな顔、しないで」
かすれた声だった。
それでも、その瞳だけは驚くほど穏やかだった。
「いっしん……」
壹真は必死に首を振る。
「しゃべるな。今は休め」
日向は小さく笑う。
「ねえ……まだ誰にも言ってなかったことがあるの」
その言葉に、壹真の胸がざわついた。
日向は自分のお腹へ静かに手を添える。
「あなたとの子よ」
時間が止まった。
壹真は意味を理解できない。
「……え?」
「本当はね」
日向は照れくさそうに笑った。
「国が落ち着いてから伝えようと思ってた。」
壹真は何も言えなかった。
嬉しい。
信じられない。
なのに。
その知らせを聞いた今、彼女は死の淵に立っている。
「ずるいよ……」
涙があふれる。
「そんな大事なこと、もっと早く言えよ……」
日向の目にも涙が浮かんだ。
「ごめんね」
少し息を整える。
「海……見せてもらいたかったな」
壹真は強く首を振る。
「行こう。」
「海でも、空でも。」
「飛行機だって見せる。」
「全部、一緒に行くんだ。」
日向は目を細めた。
「楽しそう……」
そして。
もう一度だけ、お腹をなでる。
「この子に……見せてあげてね。」
「名前は?」
壹真が震える声で尋ねる。
日向はゆっくり答えた。
「壹與。」
「"壹"は、いっしんの壹。」
「未来を与える子。」
その名が部屋の空気に溶けていく。
壹真は何度もその名前を心の中で繰り返した。
壹與。
俺たちの娘。
その瞬間だった。
日向の身体から、力が静かに抜けていく。
「日向!」
抱き寄せても返事はない。
額の勾玉が淡く光り――
その輝きは静かに消えた。
部屋にはすすり泣きだけが残る。
倭の女王・卑弥呼は、その夜、永遠の眠りについた。
しかし――
一人の老巫女が、静かに日向のお腹へ手を当てた。
長い沈黙。
誰も息をしない。
やがて老巫女は顔を上げる。
「……まだ、おられます。」
壹真が顔を上げた。
「腹の御子の鼓動は、生きています。」
その一言で、止まっていた時間が動き出した。
老巫女は静かに告げる。
「このままでは助かりません。」
「ですが――」
「境の儀を行えば、救えるかもしれません。」
部屋に緊張が走る。
母の命を、子へ。
古くから伝わる禁じられた儀。
成功しても。
卑弥呼の魂は二度と戻らない。
佐士は静かに頭を下げた。
「姉上の光だけは……絶やさないでくれ。」
巫女たちは円陣を組み、古い祈りを歌い始めた。
灯火が一つ、また一つ消される。
残ったのは。
母の命の火。
そして。
生まれてもいない小さな命だけだった。
壹真は両手を握る。
自分にできることは、一つしかない。
「壹與。」
その名を呼ぶ。
「壹與。」
もう一度。
「絶対、生きろ。」
祈るしかなかった。
歌声が少しずつ高くなる。
勾玉が淡く輝き始めた。
細い光が胸から腹へ流れていく。
夜が、ゆっくり明けていく。
そして――
静寂を裂く、小さな声が響いた。
――おぎゃあ。
誰も動かなかった。
次の瞬間。
巫女たちが一斉に涙を流した。
「生まれました!」
老巫女が赤子を抱き上げる。
「女の子です!」
壹真は震える足で歩み寄る。
小さな顔。
小さな手。
けれど、その命は驚くほど力強かった。
「……壹與。」
その名を呼ぶと、
赤子は壹真の指をぎゅっと握った。
思わず笑みがこぼれる。
「ようこそ。」
「壹與。」
「お前のお母さんは、この国で一番強くて、一番優しい人だった。」
眠る日向の腕へ、そっと娘が抱かれる。
老巫女が小さく祈った。
「日向様。」
「あなたの光は、確かに受け継がれました。」
夜明けの最初の鳥が鳴く。
卑弥呼の時代は終わった。
そして、新しい光が産声を上げた。
続きはNOTEで。
「失われた光」は、Web小説と主題歌「Lost Light」が同時に紡ぐクロスメディア体験。
アニメではなく、“読む冒険”がここから始まる。
主題歌を聴く ➡ https://linkco.re/1SGztvQR
公式サイト ➡ https://sumikazama.com/novellostlight
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