第3話「結界塔の暗躍」
辺境砦・ガルツ。
回帰渦の兆候を掴んだリラは、移動観測隊とともに、谷間の「等圧迷宮」を突破した。
だが、嵐の正体が単なる自然災害ではないことは、谷を抜けた先で明らかになる。
谷を抜けた先、砦の見張り台から遠くの山々を見渡すと、異様な黒い塔が浮かぶように立っていた。
「……あれが結界塔か」
リラの杭が微かに震え、等圧線の光が塔に向かって赤く伸びる。通常の魔力反応とは異なり、塔の周囲に渦巻く風のパターンが不自然だった。
「密輸ギルドの仕業です」
リラは静かに告げる。杭と風標を使い、塔周囲の気圧変化を読み解く。
「嵐の動きを操作して、補給路を断つための妨害工作……。人の意志が自然の力に紛れている」
「ならば、俺たちの出番だな」
ヴァイレンは剣を握り直す。騎士隊が塔の方角へと整列し、リラは隊の前に立った。
「直接塔を破壊するのではありません。観測値を元に、雲礫を散布し、魔力核の不安定化を狙います」
リラは小型の装置を取り出し、等圧線に沿って正確に配置していく。
隊士たちは彼女の指示を無言で受け入れ、互いに呼吸を合わせた。
塔の内部から、微かに魔力が漏れ、渦巻く風が砦方向に流れ込む。
「風圧の変化が……人為的に強化されています」
リラの体内の気配感覚が警告する。魔力と風圧の複合パターンは自然界のものではなく、誰かの意図がそこにあることを示していた。
リラが杭を地面に差すと、光の等圧線が塔の周囲に展開し、渦の中心を正確に示す。
「ここに雲礫を投下します」
杭の光に導かれ、隊士が雲礫を上空に放つ。小さな光の粒子が風に乗り、塔の核を貫く。
瞬間、塔の周囲の風が不規則に揺れ、塔内部の魔力反応が崩れ始めた。
「……成功です」
リラは息をつく。塔の魔力が弱まり、砦を襲う異常な風も次第に収まる。
ヴァイレンは刀を鞘に戻し、リラを見た。
「気象官……恐るべき力だな」
だが、リラの目は遠くを見据えたままだ。
「これで嵐の影響は抑えられました。でも、動機や裏で糸を引く者はまだ見えません」
彼女の声には、次なる戦いへの覚悟が宿っていた。
砦の旗が南東風に揺れる。
その向こうで、嵐の黒い渦はまだ、ゆっくりと形を整えつつあった。




