第50話「4月特別演習、決着」
3度のアナウンスを聞いたリダンは、立ち上がりアイゼンの方を向いた。
「俺が貴様をここに留める理由はなくなった。この先に進みたいならば行くがいい」
「...これからナディア王女を倒しにいくのも、リダン君の思い通りに動かされてるようでなんだか癪ですね」
やはり、アイゼンはリダンがここでアイゼンを足止めした理由を何となくは察しているようだ。リダンも、アイゼンが察しているであろうことには気付いているだろう。
「別にここで俺と戦う選択をするならばそれでもいい。とりあえずの俺の目的は達したからな。完膚なきまでに貴様を潰してやろう」
「いえ、止めておきますよ。この場所で君に捕まった時点で負けたようなものですが、勝ちを譲ってくれるというのであれば素直に譲ってもらいます。ナディア王女との戦いのほうが楽しめそうですしね」
リダンは現在地であるB4からナディアのいるB3の方へと歩いていく。アイゼンも同様に立ち上がり、リダンから5mほどの距離を空けてついて来た。
「それにしても驚きましたよ、まさかナディア王女があの三人を相手に勝利してしまうとは。少なくとも3週間前の前哨戦で見た彼女の実力では、あの三人を同時に相手取って勝てるようには思えませんでした。あの時は本調子ではなかったのか、それともリダン君の指導がよほど良かったんですかね」
アイゼンはまた探りを入れるように話しかけてくる。リダンはその相手をする気はないようで、反応することなく歩き続けた。
アイゼンもこれ以上は無駄だと判断したのか、それ以上話しかけてはこない。
歩き始めて10分程が経過し、リダン達は湿地地帯へと入る。ナディアが勝てたのは、戦いの場がこの湿地地帯だったことも大きいだろうな。水属性のナディアにとっては有利なフィールドだ。
そしてそれから更に少し進むと、リダンの視界にナディアが映った。多少は消耗しているが、満身創痍というわけではない様子だ。ナディアもリダンを見つけて少し安心した表情を見せたが、すぐにアイゼンもその視界に捉え、その顔は驚きの表情に変わる。
「なんでっ、リダンとアイゼンが並んで歩いてるのよっ!」
「別に並んではいない。この男は後ろを歩いているだけだ」
「そうじゃなくてっ!なんで普通に一緒にいるのかって聞いてるの!普通は出会った時点で戦いになるでしょ!」
「貴様がこの男も倒すと言ったからその舞台を用意してやっただけだ」
「はぁ!?意味が分からないわよ!」
「貴様はここでこの男と戦え。俺は一切手を出さん」
「だから、そうなった経緯を話しなさいよ!そもそも、なんでアイゼンも平然とそこに立ってるのよ!」
「リダン君は、私たちを戦わせてナディア王女がどれだけやれるのかを見たいようです。私としてはリダン君と戦うよりもナディア王女と戦う方が勝算が高いですから、断る理由はありません」
「それはその通りでしょうけど、だからって普通はこんな状況にはならないでしょ!」
ナディアはリダン達と会うなり、ずっと叫び続けている。流石に叫び疲れたのか、息が上がってきたようだが。
「...ふぅ、...ふぅ。はぁ...、ただでさえ戦いの後で疲れてるのに、あなたたちのせいで余計に疲れたわ...」
「まあ良いではありませんか。私とナディア王女、勝った方のクラスがこの対抗戦の勝者です。リダン君の思惑通りに動くことだけは少し気に入りませんが、良い舞台だと思いますよ。こういう場面でこそ、より勝負は面白くなるものです」
アイゼンの言う通り、アイゼンとナディアの一騎打ちの結果がそのままこの対抗戦の結果になる。現在の各クラスの点数は、トリスカーナイエローが4点、キスキルレッドが5点、シュトラールブルーが3点だ。
リダン達シュトラールブルーが勝つには、リダンとナディアの両方が生き残ってアイゼンを倒さなければならない。つまり、ナディアが負けた時点でキスキルレッドの勝利が確定する。だからこそ、アイゼンはクラスの勝利のためにこの状況を呑んだのだろう。
「理解したか?」
「はぁ...。まだ納得できない部分もあるけど、とりあえずは理解してあげるわ。これ以上何か言っても無駄に疲れるだけでしょうし」
「ならばさっさと始めるぞ」
「良いのですか?ナディア王女はまだ大分お疲れのようですが」
「...そうだな。おい貴様、ちょっとこっちに来い」
「疲れてるんだから、一々その腹立たしい態度で命令しないでくれる?」
ナディアはリダンの態度に文句を言いながらも、言われた通りに近づいてくる。
ナディアがリダンの手が届く距離まで近づくと、リダンは持ち込んだ光の魔道具を使って光の第3位魔法『ライトヒール』をナディアに対して発動した。ナディアの消耗したマナが少しずつ回復し、更にマナの循環が少しだけ良くなる。
「流石ですね、下級の魔道具でここまでの魔法が使えるとは驚きです」
リダンの魔法に対して、アイゼンが改めて称賛の言葉を送る。心からの言葉なのかは分からないが、その言葉の裏には少なくともマイナスの感情はなさそうに見える。
リダンの魔法は約30秒ほど続き、ナディアのコンディションはさっきまでよりも大分良くなった。
「この程度でいいだろう。この俺が手にかけてやったんだ。無様な戦いはしてくれるなよ」
「分かってるわよ、しっかり見てなさいよね。...それと、...ありがとね、リダン」
ナディアは少しだけ俯きながらリダンに礼を述べる。リダンはそんなナディアに対して反応することなく、次の言葉を言い放った。
「では今度こそ始めるぞ」
「折角ですので、前哨戦と同じように40m程離れた場所から始めましょうか。開始の合図はリダン君がお願いします」
そう言って、アイゼンはリダンとナディアから距離を取る。その距離が大体目算で40m程になったところでアイゼンは立ち止まり、再びこちらを向いた。
「貴様ら、準備はいいな?」
「大丈夫よ」
「問題ありません」
リダンは二人間の丁度真ん中に立ち、開始の合図をする準備を始める。
「今から闇の第2魔法『グローム』を発動し、ここから半径約30mを10秒間暗闇で覆う。その暗闇が晴れたら試合開始だ」
リダンはそう言い終わると、即座にマナを操作してグロームを発動した。リダンの宣言通り、リダンを中心に半径約30m程の空間が薄暗くなる。その間にリダンは二人から距離を取り、安全に観戦できる場所まで移動した。
すぐにリダンの発動したグロームの効力は切れ、辺りの暗闇が晴れていく。
そんな試合開始の合図と同時に動き出したのはナディアだった。開始と同時にマナを制御し、自身の瞳を青色に光らせながら水の第1位魔法『アクア』を発動する。
この3週間、リダンの指導の下何度も発動した魔法だ。ナディアのアクアによって、約1.8秒ほどで20個の水球が空中に発生する。
対するアイゼンも、それに応じるかのように自身の瞳を金色に光らせ、光の第1位魔法『シャイン』を発動した。アイゼンが発動したシャインによって、約1.5秒ほどで光の弾が20個生成される。
ナディアは生成した弾をアイゼンに向けて発射し、アイゼンはまたそれに応えるかのようにナディアが発射した弾に自身の弾をぶつける。そして、お互いの弾は相殺されていった。
「本当に信じられないほど強くなっていますね。前哨戦で戦ったナディア王女と同一人物とはとても思えませんよ」
「私も自分自身で驚いてるわ。でも、まだまだこんなものじゃないわよ」
それから、ナディアとアイゼンの魔法の打ち合いが始まった。アイゼンはまだ本気ではないようだが、ナディアは必死に食らいついている。
戦いが始まってから約30分が経過し、ついに決着の瞬間が訪れた。
ナディアが大きく距離を取って水の第8位魔法『タイダルウェイブ』を発動しようとする。だが、それを見たアイゼンの体がぴくりと動くと、開いた距離を一気に詰めて右手に具現化した長剣でナディアを薙ぎ払った。そしてナディアはそれを避けられず、直撃してしまう。
その直後、ナディアの脱落を告げるアナウンスがフィールドに鳴り響く。
「B3にてシュトラールブルーのナディア・シュトラールが負傷したため脱落とする。そして、致命傷を与えたアイゼン・キスキルの所属するキスキルレッドに6点目が入る」
この時点で、この特別演習の1位がキスキルレッドに確定した。ジークを始めとしたクラスメイトはこの結果に不満を持つかもしれないな。
「本当にお見事でした。今回は前哨戦の時よりも緊迫した勝負になり、あの時よりも更に楽しかったです。今日の勝負は、私に勝つことの素晴らしさを改めて思い出させてくれましたよ。やはり、勝負は最後に勝つからこそ楽しいものです」
緊迫した勝負と言っているが、今回もアイゼンは本気を出してはいないように思う。ナディアも確かに強くなり、アイゼンに対してそこそこ対等な魔法の勝負はできるようになったが、アイゼンには『未来視』の天啓があるからな。その能力をフルに使えば、今のナディアなど3分もかからずノックアウトできてしまうだろう。
「完敗よ。今の私の全てを出したけど、全然届かなかった。悔しいけど、今の私じゃあまだあなたには勝てないわね。でも、私はこれからまだまだ強くなれるわ。今度戦う時は覚悟しておくことね」
「期待しておきます」
ナディアはアイゼンとの会話を終えると、リダンの方を一瞥した後、出口の方へと向かっていく。このフィールドには、A5、E10、E1、J5に出入口があり、ナディアはA5の方向へと向かっていった。だが、恐らくナディアがフィールドから出て行く前にこの対抗戦は終わりを迎えるだろう。
ナディアが去り、B3にはアイゼンとリダンの二人が残される。アイゼンはリダンに近づいてきて、そのまま話しかけてきた。
「では、楽しくない勝負を始めましょうか」
「ああ、好きに仕掛けてくるがいい」
「では、お言葉に甘えさせてもらいますよ」
アイゼンは右手に長剣、左手に盾を具現化し、身体強化をしてリダンに斬りかかる。リダンはそんなアイゼンの攻撃を冷静に避け、両手に長剣を具現化させながら身体強化を発動した。
そしてそれから数分後、この勝負はリダンの勝利で決着となる。
「B3にてキスキルレッドのアイゼン・キスキルが負傷したため脱落とする。そして、致命傷を与えたリダン・ブラックヘローの所属するシュトラールブルーに4点目が入る。アイゼン・キスキルの脱落によって、残っているクラスがシュトラールブルーのみになったため、この時点で4月特別演習、クラス対抗模擬戦は決着となった。最後まで残ったシュトラールブルーには残った人数である一人分の生存点が追加される。その結果、1位は6点でキスキルレッド、2位は5点でシュトラールブルー、3位は4点でトリスカーナイエローとなった。以上で今月の特別演習を終了とする。生徒は各クラスの控室へと集まるように」
アイゼンの脱落と同時に、特別演習の終了を告げるアナウンスがフィールドに流れる。
「やはり、負けるのは楽しくありませんね。先ほどまでは最高の気分でしたのに、今は最悪な気分です」
「負けるのが嫌なら強くなれ。そして俺をもっと楽しませろ。なんなら、貴様も指導してやってもいいぞ」
「遠慮しておきますよ。リダン君に指導をお願いすれば確かに強くなれるでしょうが、それは私のプライドが許しませんから。私は私なりの方法で強くなってみせますよ」
こうして、4月の特別演習、クラス対抗模擬戦は終了した。クラスとしては負けてしまったが、リダンにとっては中々に有意義な時間になったんじゃないだろうか。その分、クラス内での問題を抱えてしまった気がするが、それは追々何とかしていくとしよう。
対抗戦の初期配置です。良ければ本文を読む際にご活用ください。
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A B C D E F G H I J
1
2 イリー ミスト
3 ラース
4 メリア ナディ
5 ダルク エリッ
6 レオン リダン
7 アース ルフト
8 アイゼ ティグ
9 ソフィ カトリ
10
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