第36話「リダンと義兄」
リダンが訓練場の壁に腰掛けて昼食を食べていると、部屋の反対側のほうで聞こえていた訓練の音が止んだ。そちらの方を見てみると、どうやらルフトとカノンの訓練にもひと段落がついた所のようだった。
カノンが持ってきていた荷物から弁当箱のようなものを2つ取り出して片方をルフトに手渡す。二人はそのまま箱を開けて昼食を食べ始めた。もしかしたらカノンの手作り弁当かもしれない。
リダンは二人から視線を外して、黙々と食べ進める。たまにルフトの方から視線が刺さってくるが、リダンは特に動揺することなく昼食を食べる。実は訓練中にもこの視線は何度か刺さってきていたため、ルフトはリダンとナディアの訓練の様子を横目で確認していたことがこっちには筒抜けだった。やはり、ルフトは相当リダンのことを意識している。
休憩に入ってから40分ほどが経った頃、ナディアが訓練場に戻ってきた。ナディアは部屋の隅に座っているリダンを見つけてそのまま近づいてくる。
「戻ったわ。いつでも始められるわよ」
「時間までは休憩だ。貴様も少し休め」
現在の時刻は12時50分過ぎ、休憩が終わる13時までは後少しだ。ナディアはリダンの言葉に返事をしてリダンの横に座る。
ナディアが座ってから少しの間沈黙が続き、ナディアの視線がルフト達の方へと移る。
「そういえば、リダンとルフトって兄弟なのよね?」
「義理だがな」
「義理でも、10年以上同じ家に住んでたんでしょう?」
「そうだな。それで、何が言いたい?」
「この前の前哨戦の控室で思ったんだけど、あなたたちって仲が悪いのかしら?」
「別に不仲というわけではない。あいつが一方的に俺を嫌っているだけだ」
「それを仲が悪いっていうんじゃない?」
「知らん。少なくとも、俺にとってはあいつも雑魚の一人でしかない」
「そう。でも、兄弟で険悪なんてなんだか寂しいわね」
「俺も見てきたわけではないが、似たようなことなど世の中には溢れているだろう」
「そうかしら?少なくとも私の家族はみんな仲良しよ」
「どうだかな。貴様がおめでたい頭をしているだけかもしれんぞ?」
「どういう意味よ?」
「家族だろうとなんだろうと、他人が内心でどう思っているかなどわからないということだ。世の中、表の顔と裏の顔を使い分けている奴ばかりだろう。表面上で友好的に見えるからと言って、その人間が自分に良い感情を持っているとは限らない。目の前で笑いかけているやつが、心の奥底では自分を心底憎んでいるということも良くあることだ」
「確かに、そういう人も世の中にはいるとは思うけど。リダンあなた、流石にその考え方は性格が歪み過ぎてないかしら?」
「そう思いたいなら思っておけ。案外、貴様の大好きなあの王子も内心では貴様を嫌っているかもしれんぞ」
「お兄様が?あり得ないわね。お兄様が誰かを嫌うなんてよっぽどのことがないと考えられないわ。もしお兄様が誰かを嫌っているのなら、それはその相手が悪いのよ。まして私を嫌ってるなんて絶対にないわ」
「そうか、まあ今のは例えだ。あの王子が貴様をどう思っているかなど俺が分かるわけもないからな」
「分かったならいいわ。それと、今回は許してあげるけど、次にお兄様のことを悪く言ったら許さないから」
ナディアは少しだけリダンに対して怒りを向けてくる。どうやら、ジークの事を多少悪く言われたのが気に入らなかったらしい。
「...そろそろ時間だ。続きを始めるぞ」
リダンはその一言と共に立ち上がる。ナディアもリダンに続くように立ち上がり、そのまま午前中と同じように魔法の練習が始まった。
*
午後の練習を始めてから大体7時間ほどが経過した。
「今回も駄目だな、いったい何度やればわかる」
「はぁ、はぁ。仕方ないでしょ。そんなすぐに上手くいかないわよ」
「まあいい、今日はここまでだな。もう日も落ちたし、貴様の体力もそろそろ限界だろう」
確かに、ナディアの息が少し上がっている。魔法を使うのはそこまで体力を使うものではないが、流石に長時間連続でやれば疲れも出る。
「次はまた2日後だ。月曜の放課後に続きをやる。今日の感覚を忘れるなよ」
「分かったわ。今日はありがとう」
「礼を言う必要はない。これは俺自身の為にやっていることだ」
リダンとナディアは魔法の練習を終え、訓練場を後にする。帰り際に一瞬だけリダンが訓練場の中を見たが、ルフトとカノンはまだ残っているようだった。
訓練場を出た辺りでナディアがリダンに話しかけてくる。
「ねぇリダン、途中でルフトがリダンの方を見てたみたいだけど、何か話があったんじゃない?」
「いつものことだ。貴様が気にすることじゃない」
「そうなの?私はてっきりこっちの練習が気になってるんじゃないかと思ったのだけど。もしかしたら一緒にやりたかったんじゃないかしら」
「さあな。あいつの考えていることなどわかるはずもない」
「リダンは仲良くしたいとは思わないの?」
「思わんな。何度か言っているが、俺は馴れ合いをするつもりはない。貴様に魔法を教えているのも、俺にメリットがあるからだ」
「...そう。...言っておくけど、私だってこんな事情がなければ、あなたみたいな生意気で腹立たしい人と一緒にいたくなんてないんだから、そこを勘違いしないでよね」
「ああ」
リダンのそっけない返事にナディアは少しだけ不満そうだったが、特にこれ以上何かを言ってくることはなかった。
(リダン、すまないが図書館に寄ってもらえるか?)
(何故だ?今日はもう調べものをするつもりはないぞ)
(実は、今日の夜は所有権の入れ替わる条件を確認するために朝まで起きていてほしいんだ。明日は休日で予定もないし、丁度いいタイミングだろ。だから、そのための暇つぶしの本を借りに図書館に行ってほしい)
この二重人格になってしばらく経つが、色々あったせいで所有権の入れ替わる条件を完全に確定できずにいた。まあ、原理が分からない以上は完全に確定させるのはほぼ不可能なのだが、現状での有力候補である時間と睡眠のどちらが正しいのかは確認しておきたい。明日は休日で予定もないため、ようやくその確認ができそうだ。
(ふん。レイにしては悪くない提案だ。ここは乗っておいてやる)
(ああ、頼む)
オレからの頼みを承諾し、リダンはナディアと別れて図書館へと向かう。その後数分で図書館にたどり着き、30分ほど館内を歩き回った後、3冊ほど本を借りた。図書館にはまだレイアがおり、朝と同じようにリダンに対してチラチラと視線を向けてきていたが、リダンはそれを無視した。
図書館での用を済ませ寮へと戻ってくると、偶然にも入口で見知った二人組と遭遇する。その人物とは、先ほどまで訓練場にいたルフトとカノンだ。リダンは二人を無視して寮に入ろうとしたが、ルフトから声をかけられる。
「リダン」
「...何だ」
「ナディア王女に魔法を教えているようだな」
「ああ」
「どういう風の吹き回しだ?お前が人と関わろうとするなんて、何か企んでいるのか?」
「貴様には関係ないだろう」
「関係あるな。もしお前が良からぬことを企んでいるのであれば止めなければならない。リダン・ブラックヘローの悪評が広まれば、ブラックヘロー家の評判が落ちる。そうなれば父上に迷惑がかかるのがわからないのか?」
「俺の悪評なんてものは今更だろう。それに、あの男はオレをブラックヘローの人間だと思っていない」
「そうだとしても、やはりお前が何か悪事を働けば父上が頭を悩ませることになる。何か企んでいるのならやめておけ」
「...少なくとも悪事を働くつもりはない。だから貴様には関係ない話だ」
「信用できないな」
「何を言っても信用するつもりなんてないだろう。もう話は終わりだ、俺は行く」
「ああそうかもな。これ以上話しても無駄なようだ」
リダンはルフトに背を向けて寮に入っていく。
(リダンの家の事情は中々複雑そうだな)
(貴様が気にすることではない)
(ああ、別に詮索するつもりはないさ)
(それでいい)
リダンはそのまま部屋に戻り、借りてきた本を鞄から出して机に置いた。この後は借りてきた本を読みながら時間を潰して、所有権の入れ替わる条件を確認する。
現状で検証していないのは午前2時から午前7時までの5時間だ。つまり、今日はリダンには午前7時まで起きていてもらう必要がある。
リダンはそれからは黙々と本を読み続け。あッという間に午前7時を迎えた。所有権はまだリダンのままだ。確定はできないが、所有権が移る条件は睡眠、あるいは意識を失うことで確定したな。
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