第35話「リダンと第2王女の魔法特訓」
リダンは図書館を出てショッピングモールに寄った後、訓練場にたどり着いた。現在の時刻は9時55分。やはりリダンはいつも時間ギリギリだ。
程なくして訓練場にたどり着くと、中には三人の人間が居た。
一人は当然ナディア。そして後二人はルフトとその従者であるカノンだ。どうやらルフト達も訓練場でなにかをやるつもりらしい。見た感じ、ルフト達はそこそこ前からここにいたようだ。
「来たわねリダン。それにしても、あなたっていつも時間ギリギリに来るわよね。教室にもいつもチャイムがなる直前に入ってくるし。もしかして、意外と時間にはルーズなの?」
「ただ待つのが嫌いなだけだ。別に遅れているわけではないからいいだろう」
「別に責めてるわけじゃないわ、私だって来たのは5分前くらいだし。ただ、リダンって結構しっかりしてるイメージだったから意外だって思っただけよ」
「イメージするのは勝手だが、貴様は俺に変な期待はするなよ」
変な期待というのは、イヴやジークのことを言っているのだろう。リダンが自分自身の為にやったことでも、あの二人は都合の良い解釈をしてリダンを評価する。お前はそんな風に考えるな、とナディアに釘を刺しているのだ。
「変な期待って何よ」
「分からないのならそれでいい。それより、早速始めるぞ」
「始めるのはいいけど、まず何をするのか教えてもらえるかしら?」
「今日は貴様の現状の力を把握する。とりあえずはアクアを全力で発動してみろ。威力や数などもろもろ含めての全力だ」
「分かったわ」
ナディアの瞳が青く光り、ナディアが水の第1位魔法『アクア』を発動する。その直後、ナディアの周りに水球が10個発生した。
「それで全力か?」
「ええ、これ以上は無理よ。それで?これで何がわかるの?」
「ああ、貴様がやはり雑魚だということは理解した」
「それは散々言われたからわかってるわよ!そうじゃなくて、もっと具体的に教えてほしいのだけど」
「そうだな。まず、発動に時間がかかり過ぎだ。今貴様がアクアを発動させるのにかかった時間は約2秒ほどだが、あの帝国の皇子ならば同レベルの魔法を発動するのに1.5秒ほどと言ったところだろう。次に生成した数も雑魚すぎる。貴様のマナ含有量ならば20個は作れないと話にならない。最後に、1番の問題は生成した水球の持つマナの濃度だ。貴様の魔法は側だけは立派なものだが中身が伴っていない。これでは相手の攻撃に簡単に相殺されてしまう。このようにな」
そう言ってリダンは闇の第1位魔法『ダークネス』を発動して紫色の弾をナディアの生成した水球にぶつける。すると、リダンの生成した弾がナディアの生成した水球を突き破り、そこにはリダンの弾だけが残った。
「理解したか?」
「なんとなくね。私がこれから上達するにはどうしたらいいのかしら」
「まずは貴様の雑魚魔法と俺の魔法が何故違うのかを理解する必要がある」
「それはわかるけれど、どうするの?」
「貴様は雑魚だが天啓には恵まれたようだからな。それを使う」
「ねぇ、一々雑魚って言うのやめてもらえないかしら。どうにも腹が立ってしょうがないわ」
「文句は言わない約束のはずだが」
「それとこれとは違うでしょ!?私が文句を言わないって言ったのは訓練の内容についてよ!あなたの言動に文句をいう権利はあるわ!」
「なら俺が貴様に何を言おうと俺の自由だ。だが、そうだな。...貴様が多少マシになったならやめてやる」
「つまり、今すぐやめるつもりはないってことね。いいわ、あなたがバカにできないくらい強くなってあげるから」
「そうしてくれ。俺も時間を無駄にしたくないからな」
「それで?私の天啓をどうやって使うの?」
「雑魚だから言わないと分からないか?」
「っまた!...ふぅ。そうね、私の天啓であなたのマナの制御を感じろってことかしら?」
「そうだ。俺のマナ制御を理解して真似るだけでそこそこマシにはなるだろう」
リダンの奴、今日も毒舌が冴えわたってるな。なんなら、普段よりも少し活き活きしてる気がする。見方によっては、リダンがナディアをからかって遊んでいるようにも見える。現状ではナディアはリダンが一番話しやすい相手だろうし、あり得なくはないな。オレがそれでリダンをからかいたいという願望も混じった憶測ではあるが。
「分かったなら早速始めるぞ」
リダンはそう言ってナディアの手を取った。それに対してナディアは驚いた素振りを見せる。
「ちょっと、何するのよ!」
「貴様の天啓は触れてないと発動しないのだろう?ならこうするしかあるまい」
「そうだけど、急に触られたらびっくりするじゃない!」
「そんなことは知らん」
「ちょっとは気にしなさいよね!私は王女なのよ?普通ならあなたが触れることのできない高貴な人間なんだから」
「貴様は馬鹿か?王女がどうとか今は関係ないだろう。そんな肩書を気にしているから貴様は雑魚なのだ」
「それはっ、...そうかもしれないわね。...でもそもそもの話、男のあなたが断りもなく私の手を取るなんて、少し配慮に欠けてるんじゃないかしら?」
これは確かにナディアの言い分が正しいな。リダンは今まで碌に人と話してこなかっただろうから、人との距離感がおかしくなるのも仕方ない。まあ、オレもこの前までは施設の人間以外とは話したことは無かったからあまり人の事は言えないが。
「...まあ確かに一理あるな。今後は気を付けるとしよう」
「あら、やけに素直ね」
「俺は自分の非を認めないような愚かな人間ではない」
勘違いされがちだが、リダンはそこまで横暴で聞き分け悪い人間ではない。まあ今回素直に非を認めたのは、最近少し丸くなった影響もあるかもな。
「なら今回は特別に許してあげるわ」
「調子に乗るな。さっさと続きをするぞ」
「はいはい。分かったわよ」
再びリダンがナディアの手を取り、天啓を発動する準備が完了する。
「俺のマナの流れを感じられるか?」
「...改めて、すごいマナの量ね」
「マナの量などただの数値に過ぎない。確かにマナの量はその人間の能力に直結するが、それは変えようのないものだからな。マナの量だけで調子に乗ったり、他人を判断するような人間は雑魚だ」
「それ、もしかして私に言ってる?」
「ほう、心当たりがあるのか?」
「なっ、な、ぁ、あるわよ、悪い!?確かにこの前までの私はマナの量が多いだけで調子に乗ってたわよ!」
何とも歯切れの悪い返事だ。恐らく、反射的にないと言おうとしたが、今までの自分の言動を振り返るとないとは言えなかったのだろう。
「まあ自分の愚かさを自覚できていることは褒めてやる」
「あなたって本当に性格悪いわね。わざわざ傷を抉る必要ないじゃない」
「貴様が雑魚なのが悪い」
「はぁ」
ナディアは軽いため息をつく。
「話がそれたが、俺のマナの流れをしっかりと感じておけ。今から魔法を使う」
そう言って、リダンは再びダークネスを発動する。すると、1秒ほどでリダンの周りに30個の闇の弾が出現した。
「っ!」
ナディアは声も出ないといった様子だ。自分が魔法を発動する時のマナの変化と、リダンが魔法を発動した時のマナの変化の違いを初めて明確に感じ取って、その差に驚いているのだろう。
「理解したか?」
「...」
「おい、聞いているのか?」
「...あ、ごめんなさい。少しびっくりしちゃって。リダンあなた、魔法を使う度にこんなにマナを制御していたの?」
「そうだ。貴様にもこれが出来るようになってもらう。まずはそこからだ」
「私が、今のを...?」
「まさか出来ないというつもりか?」
「え?...。...何言ってるのよ。このくらいやってみせるわ!」
「あまり覇気が感じられないな。今までの馬鹿みたいな自信はどうした?」
「だって...。こんなにも私とあなたで差があるとは思わなかったから...。」
「それがどうした。貴様はやるのか?やらないのか?やらないなら話はここまでだ」
「...やる!やるわ!絶対に」
「そうか。ではまず聞きたい。俺と貴様のマナ制御で一番違うのはどこだ?」
「そうね、マナの流れの綺麗さかしら。あなたのと比べると私の作るマナの流れは少し窮屈そうというか、淀んでるように感じるわ」
「正解だ。それぞれ魔法にはそれに適したマナの流れがある。そして、その流れをより正確に作ってやるほど魔法の強度が増す。まあ例外もいくらかあるがな」
「だから、私の魔法はあなたに簡単に消されてしまうのね」
「そういうことだ。理解したならば、まずはこれをやる」
「分かったわ」
「では、今の俺の魔法を参考にもう一度アクアを発動してみろ。速度や数はとりあえず考えなくていい」
ナディアは言われた通りに魔法を発動する。そして、ゆっくりと水球が1つ出来上がった。
「全然駄目だ。ちゃんと理解しているのか?」
「分かってるわよ!でも、上手くできないの」
「やはり雑魚には無理だったか」
「なっ!出来るわよ!見てなさい!」
ナディアがもう一度魔法を発動するが、出来としてはさっきと大差ないものだった。
「やっぱりできないわ...。何かコツとかないわけ?」
「そうだな...。マナというのは粒子の集合体だ。その粒子1つ1つをしっかりと意識しながらやってみろ」
ナディアはもう一度魔法を発動する。そしてまた水球が出来上がった。
「ふん。雑魚魔法だがさっきよりはマシだな」
「ホント!?」
「調子に乗るな。ほんの少し良くなっただけだ」
「いいじゃない、少しくらい喜んだって」
少しくらいと言うが、ナディアはほんの少し上達できたことに心底喜んでいる様子だ。
「だから貴様は雑魚なのだ。とにかく、このまま続けろ。雑魚の貴様でも繰り返せばある程度マシになるだろう」
ナディアはリダンの言いようにまた文句を言っていたが、その後もリダンの指示に従って魔法を発動し続けた。
そして、練習を開始してから2時間ほどが経った。現在の時刻は12時過ぎだ。
「一旦休憩にする。13時までは好きにしていろ」
「私はまだまだいけるわよ」
「俺が休憩といったら休憩だ。丁度昼時だ、昼食でも食べてくるがいい」
「分かったわ。じゃあショッピングモールに行ってくる」
「ああ」
「リダンは行かないの?」
「俺は持ってきている」
「そう、じゃあ行ってくるわ」
ナディアが訓練場を出て行ったのを確認して、リダンは部屋の隅の壁に腰掛けた。持ってきていた鞄から昼食を取り出し、そのまま食べ始める。
もし面白いと思って頂けたなら、『ブックマークに追加』という黄色いボタンからブックマークをしてもらえると、とても励みになります。良ければよろしくお願いします。




