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感情希薄なモルモットは二重人格者  作者: 識友 希
第5章「協力者編」
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第111話「エリス・ミューラー」

 6月14日。早朝。

 いつもよりも早めの時間に目が覚めたあたしは、ゆっくりと体を起こして部屋を見回した。

 昨日までと何も変わらないいつもの部屋。けど、そんな部屋の景色が今のあたしの目にはとても煌びやかに映った。

 なんだかとても心が軽い。こんなに清々しい気分になるのはいつ以来だろ。もしかしたら生まれて初めてかも。

 なんでこんなにも心が軽いのか。それはもちろん決まってる。リダン君...じゃなくてレイが、あたしの心を押し潰そうとする嫌な気持ちを全部吹き飛ばしてくれたから。


 あたしは物心ついた頃からずっと、潰れてしまいそうな心を必死に繋ぎ止めて生きてきた。

 幼い頃は姉をはじめとした家族達。家族から解放された後はフィフス。自分勝手に強い力を振るう人達によって、あたしの心には不安と恐怖が刻まれた。

 あたしが何を望んでも、何を手に入れても、将来どんなに幸せになれたとしても、あの人達みたいな強い人達に身勝手に力を振るわれるだけで、いとも簡単にそれらは奪われてしまう。そんな不安と恐怖。

 フィフスから逃げてからもずっと、それは消えてくれなかった。一時的にあの人達から逃れられても、いつまたあたしの目の前に現れるか分かんないし、あの人達じゃなくても、いつかは別の強大な何かがあたしから全てを奪っていくかもしれない。そう思うと、むしろ不安も恐怖も増していくばかりだった。


 あたしはそんな不安と恐怖を払いのけるために、理不尽に襲い掛かってくる強い力に負けない力が欲しかった。けど、あたしにはそんな力はなかった。マナはそんなに多くないし、マナの操作だってどっちかっていうと苦手。身体能力も特段高くなくて、戦う力には期待できなかった。ちゃんと鍛えれば少しはましになったかもしれないけど、そんなのは気休めくらいにしかならない。あたしがいくら鍛えたところで、元々才能を持っている人達には勝てっこない。

 だからあたしは、強い力に対抗する手段として味方を探すことにした。どんな理不尽が襲い掛かってきたとしても絶対にあたしを守ってくれる、そんな存在が傍にいてくれればきっと安心できると思ったから。

 それからあたしはとにかく色んな人に声をかけた。たくさんの人と関係を持って、あたしを守ってくれそうな強い人を探した。

 幸いなことに、あたしは人の懐に入り込むのが上手だった。昔から、家族やフィフスの機嫌を損ねないように人の顔色を窺って過ごしてきたから、相手がどんな人なのかを観察して相手が望むように行動することができた。もちろん上手くいかずに相手に嫌われることもあったけど、それ以上に多くの人と仲良くなれた。


 フィフスから逃げてから一年くらいはそうやって過ごして、あたしは順調に味方を増やしていった。けど、強い力からあたしを守ってくれそうなほどの人は全然いなくて、あたしの中の不安と恐怖はどんどん募っていった。

 そんな時、学園に入学しないかという話が舞い込んできた。あたしのマナは学園の入学基準からしたらかなりギリギリだったけど、たぶんあたしの事情を知ってるエルトシャン様が気を遣ってくれたんだと思う。

 あたしにとって、この話は大チャンスだった。今年の入学者には凄い才能を持った人がたくさんいるって聞いてたから。アイゼン君やナディアちゃん、それに...リダン君。強い力を持ってるらしい人達に近づく絶好の機会にあたしは期待した。

 けど、あたしのその期待は入学したその日に裏切られた。リダン君とナディアちゃんが初日から自分勝手に喧嘩して、周りの人のことなんか考えずにクラスに迷惑をかけた。守ってもらうどころか、この二人はあたしに理不尽な力を振るう側の人達だと、そう思った。


 そうなると、期待できるのはアイゼン君だけ。あたしは迷わずアイゼン君に接触することに決めた。アイゼン君とは一年前にフィフスから逃げた時に少し話したことがあったし、向こうもあたしの事情をある程度知ってくれていたから近づくのは簡単だった。入学してすぐにあった懇親会でアイゼン君に声をかけて、相談したいことがあるから二人きりで話がしたいと持ち掛けた。

 そして、このチャンスを逃したくないと思ったあたしはアイゼン君に自分の考えを全て包み隠さずに伝えた。

 家族やフィフスのような強い力を持った人達を恐れていること、そんな人達に対抗するために味方になって守ってくれる人を求めていること。アイゼン君にその味方になってほしいということ。

 もしかしたら、アイゼン君なら困ってるあたしを見かねて二つ返事でオッケーしてくれるかもって思ってたけど、アイゼン君はそんなに甘い人じゃなかった。

 あたしの話を聞いたアイゼン君は、一瞬だけ不敵に笑って、優しい表情と声色であたしに取引を持ち掛けてきた。

 アイゼン君はあたしを色んな脅威から守る。その代わり、あたしはシュトラールブルーとリダン君の情報を探ってアイゼン君に伝える。そんな取引。

 アイゼン君からこの話を持ち掛けられたあたしは、正直凄く悩んだ。アイゼン君が味方になってくれるというのは、あたしにとっては間違いなく大きな安心感になる。けど、アイゼン君との取引に応じるという事はシュトラールブルーを裏切るということ。それはつまり、ナディアちゃんとリダン君を敵に回す可能性があるということでもあった。

 アイゼン君が味方になってくれるなら、ナディアちゃんを敵に回してもどうにかなる。でも、リダン君を敵に回しちゃったらアイゼン君を味方にしても意味なんてない。もしリダン君が本気で力を振るってきたら、二人まとめてやられちゃって終わりだ。

 悩んだあたしは、その場では取引に応じずに答えを保留した。


 そしてその次の日、あたしはリダン君に接触してみることにした。

 リダン君を絶対に敵に回さないためにリダン・ブラックヘローという人を良く知っておきたかったし、アイゼン君に協力することになるならどの道リダン君への接触は必要になってくるから。

 それと、リダン君があたしの味方になってくれる可能性にもその時はちょっとだけ期待していた。実は話してみたら意外といい人っていうパターンもあるかなって。もちろん、そんな甘い考えはリダン君と話してすぐに捨てたけど。

 リダン君と話してみた結果、リダン君はあたしがクラスを裏切ってもあんまり気にしないんじゃないかって思った。リダン君はクラスのことに全然興味がなさそうだったし、ナディアちゃんの時みたいに自分に直接向かってこない相手には意外と寛容なように見えた。もちろんリダン君の情報を探ってアイゼン君に伝えないといけないわけだからリスクはあるけど、そこはあたしが上手く立ち回れば大丈夫でしょって考えた。色々経験したおかげで、踏み込んじゃいけないラインを見極めることについては結構自信があったし。


 そんなこんなであたしは学園に入学してから色々と動いてたわけだけど、今にして振り返るとあたしってすごい空回りしてた気がする。

 下手に近づいたせいでリダン君からは警戒されるし、アイゼン君からは結局いざという時に守ってもらえないし。

 たぶん、レイがいなかったらあたしは破滅してた。どんな展開になっていたにしろ、あたしは絶望的な状況に陥っていたと思う。

 今のあたしの心はレイのおかげでとっても穏やかだ。何があってもレイが守ってくれるっていう安心感があたしの心に平穏を与えてくれる。

 正直、昨日レイが使った力にはとても驚いた。一瞬にしてフィフスが全滅したあの力はあたしには全く理解の及ばない恐ろしい力だと思う。

 けど、不思議とそれで不安になることはなかった。それはきっと、あの力があたしに振るわれることはないと信じているから。あたしの臆病な心は、レイを信じることに一切の抵抗をしていない。

 レイには本当に救われた。単純にフィフスの脅威という意味でも、精神的な意味でも。救われすぎて思わず思いっきり泣いちゃったし。泣いたって意味なんてないからもう絶対に泣かないって、あの人達に幸せを奪われたあの日に誓ったはずだったのにな...。

 あたしは昔の自分の誓いに思いを馳せながら、同時にレイの胸で泣いた時のことを思い出す。


 ていうか、一晩明けて冷静に色々と思い出してみると、今までの自分の行動が恥ずかしくなってきた。

 リダン君の情報を探るためにあたし、好きだって言って何度も近づいたり、腕に抱き着いたりしてたんだよね。なりふり構ってられなかったとは言え、あたし大胆なことしすぎでしょ。あたしがああいうことしてた時って、たぶん意識はレイだったわけだけど...。...。あ、ヤバい、めっちゃ恥ずかしい。

 顔が熱くなるのを感じ、あたしは両手で顔を覆う。

 昨日胸の中で思いっきり泣いちゃったのも含めて、なんかすごい恥ずかしいところばっかり見られちゃってる気がする。

 どうしよ、これからレイにどんな顔して接していいのか分かんない。なんなら、意識がリダン君の時ですら顔をまともに見れないかも。

 不安も恐怖も無くなってあたしの心を蝕むものは全部なくなったのに、あたしの心がまた急速にざわつき始める。

 それからずっとざわつく心は全然収まってくれず、気づけば登校時間が近づいていた。

第5章はこれで完結となります。

次回更新(6章前編)は2ヵ月以内を目指していますが、恐らく遅れると思います。


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